お住まい拝見
2017年11月3日更新
図書館や美術館のような落ち着いた雰囲気のリビング|(株)紀建設
[お住まい拝見・親子で楽しむ演奏・料理]うるま市のHさん(44)宅は鉄筋コンクリート造平屋建て。広い空間に大きな本棚があり、図書館のような落ち着いた趣を持つ。親子での楽器演奏や料理、読書など秋を楽しむ。
天井高3.6メートルのリビング・ダイニング。正面奥だけ天井を低くし、空間にメリハリを持たせている。右奥のチェロが置かれている場所で、Hさんと次女が楽器を演奏する
閉じつつ開くキッチン
Hさん宅
RC造/自由設計/家族4人
「図書館や美術館みたいな落ち着いた雰囲気にしたくて」。緩やかな傾斜地にあるコンクリート打ち放しの建物は、Hさんが働き始めた頃から思い描いてきた理想の住まいだ。
南東の道路に面した来客用玄関からホールを抜けるとすぐに、天井高3.6メートルの開放的なLDKが広がる。高窓から明るく軽やかな光が差し込む一方、壁一面の大きな本棚からは重厚さが漂ってくる。
リビングでは、長女(14)が本を読んだり、昨年から地域のオーケストラに参加し始めた次女(8)がバイオリンを練習。触発されたHさんも今年からチェロを始めた。親子で奏でる弦楽器のやわらかな音色が、硬いコンクリートの空間に響く。次女は「お父さんと演奏するのが楽しい」と練習にも熱が入るよう。
キッチンは薄い緑色のカラーガラスで囲まれ、リビング・ダイニングと仕切られているが、天井部分は共有。2カ所から出入りできることもあり、「料理や盛り付けを手伝ってくれる娘たちと並んでも圧迫感はない」と夫人(42)。
南側から見たLDK。写真中央、薄緑色のカラーガラスで囲まれた部分にキッチンがある。仕切りにカラーガラスを使うことで、キッチンの存在を主張し過ぎないだけでなく、鏡のように風景を反射して室内を広く見せている
気分に合わせた照明
20年ほど前から家づくりを考えてきたHさん。3年前、コンクリート打ち放しの建物を多く手掛ける設計事務所のイベントに参加し、「理想のイメージにピッタリだった」ため家づくりを決意。生活感を感じさせない空間を要望した。
建築士は、南にLDK、北に寝室や子ども室、水回りを配置し、南北で公私を分離。さらに造り付けの収納を随所に設け、家族の服は広いウオークインクローゼットにまとめた。夫人は「アパートに住んでいた時はたんすの出っ張りなどが気になっていたけど、今はスッキリ。水回りを見られることなく、お客さんの対応ができるのもいい」と喜ぶ。
Hさんのお気に入りは照明。スイッチが細かく分かれており、「今日はここだけ点けてみよう」など気分や生活シーンに合わせて切り替えるという。秋が深まるこれからの季節、読書や芸術を思い思いのスタイルで楽しめそうだ。
南西にある来客用玄関。正面のコートに視線が抜け、奥行きを感じる
寝室。カーテンや家具は統一感を持たせるため、建築士と一緒に選んだ
ここがポイント
基礎高くし目隠し
階段状で圧迫感減
子ども室の入り口から見たキッチン。リビング・ダイニングと天井でつながっているのが分かる。「キッチンにいても、手前の机で勉強したり子ども室にいる娘たちの様子が見える」と夫人
北東に下っていく傾斜地にあるHさん宅。設計した井出真太郎さんは「敷地の一番高いところに、基礎の高さを合わせたことがポイント」と話す。低い部分からの視線を遮り、平屋でありながらプライバシーを確保。
また、西側にはアパートがあるため、開口部は東側に開いた。「アパートが遮蔽物となり、西日の影響を受けないだけでなく、低い方に向かって開口部を開くので眺望も良い」。
低地や道路に面した北東側は建物を低くし、奥に向かって段階的に高くしていくことで周囲への圧迫感も軽減。さらに、段差部分を生かして設けた高窓は、室内を奥まで明るくする。コートや中庭もあり、光と風を取り込みやすくなっている。
室内は南にパブリック空間、北にプライベート空間として区分し、玄関やトイレも2カ所ずつ設けた。カラーガラスで囲みつつ、天井で開いたキッチンが両スペースをゆるやかにつなぐ。
回遊できる造りも特徴。特にウオークインクローゼット、洗面室、浴室、すりガラスで全体を囲んだ洗濯室は行き止まることなく移動できる。家事動線が短くなるとともに、洗濯室の窓を開けておけば、水回りの湿気対策にも一役買う。
中庭に面したLDKのサッシとフローリングの間は、中庭に貼られているものと同じタイルになっている。「雨にぬれやすく、出入りの際に負荷が掛かる部分。外とのつながりも意識した」。
洗面室と浴室(奥)。浴室奥のコートや右にある洗濯室へと風が抜けていく/写真左。ウオークインクローゼットと洗濯室(奥)。「冬は洗面室の洗濯機から洗濯物を取り出し、クローゼットでハンガーなどにセットしてから洗濯室に持っていくと、寒さも苦にならない」とHさん/写真右。
外観。手前から奥へと高くなる傾斜に建物の形を合わせ、周囲への圧迫感を軽減
[DATA]
家族構成 :夫婦、子ども2人
敷地面積 :302平方メートル(約91坪)
1階床面積:146平方メートル(約44坪)
建ぺい率 :49.9%(許容50%)
容 積 率:48.4%(許容100%)
用途地域 :第一種低層住居専用地域
躯体構造 :鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計 :(株)紀建設 井出真太郎
施 工 :(株)紀建設
電 気 :丸嘉電気
水 道 :インター設備
キッチン :(有)MOV
[問い合わせ先]
(株)紀建設
098-890-6225
http://www.ki-kensetsu.jp/
写真/矢嶋健吾 編集/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1661号・2017年11月3日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。