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2025年10月3日更新

築15年の自宅兼事務所、設計した建築家自らリノベーション 目指した空間は|こだわリノベ

子どもたちの県外進学を機に、築15年の自宅兼事務所をリノベーションした建築家・金城豊さん(55)。これまでの暮らしの痕跡や記憶を残しながら、「地域に溶け込み、さまざまな人が集える場所を目指した」と話す。

 
 職住一体RC造 
こだわリノベ
 築15年    自然素材    自宅兼事務所    全面改修 
 
オールガラス張りの開口部が目をひく1階LDK。リノベ前は白が基調のシンプルモダンな空間=下写真。リノベ後、壁にはサンゴの入った琉球石灰岩を張り、天井はコンクリートをあらわに。水族館の大水槽をイメージし、海と自然素材、手仕事のぬくもりを感じさせる空間に造り変えた

リノベーション前

 改築前のお悩み 
子どもたちが進学し、家族の暮らしの拠点は県外へ。建物の使い方、あり方を見つめ直したい

地域と一体化
 
幅7.66メートル、高さ2.34メートル、オールガラス張りの開口部が、ひときわ目を引くLDK。陽光が差し込み明るいテラスとは対照的に、室内は間接照明でほんのり暗く、幻想的な雰囲気。「開口部を水族館の大水槽に見立て、海のない南風原で、海を感じさせる表現を意識しました。海で貝を拾った思い出なども空間で呼び起こせたら」と、金城さんは笑う。
 
キッチンからリビングを見る。オールガラス張りの開口部のおかげで、室内外の境が曖昧になり、より広く、開放的に感じられる。正面奥に見える出入り口の奥に個室がある

元々は白が基調の明るくモダンな空間。キッチン側とテレビ側、両サイドの壁にはサンゴ入りの琉球石灰岩を貼り付けた。天井は板を取り払って高さを上げ、コンクリートの梁(はり)をあらわに。新築時の塗りムラなどは、あえてそのままにした。「建物の歴史、職人の手仕事の味わいを見える形で残したくて」。元々使っていたテーブルやイスなども、形や用途を変えて活用する。
 
リノベーション前

リノベーション前は子ども室との間に仕切り壁があり、キッチン背後は全面収納だった

石や木など自然素材を用い、シックで温かみを感じる空間に仕上げたLDK。さまざまな集いのシーンをイメージし、家具配置が変えやすいよう重い家具、大きな家具は置いていない

 

LDKと子ども室との仕切り壁は取り払い、一体化。普段置いているベッドのヘッドボードを外せば、台座がちょっとした舞台になる。「完成祝いの際は、スタッフを招いて三線をひいて楽しみました」。集う人、目的に応じて、空間の使い方は変幻自在。「個室がなければ、子どもたちが成人して沖縄に戻ってきても、実家に居座らないでしょ」と、自立を促す親心をのぞかせた。

 
リビングに隣接するベッドスペースは、元子ども室。北側に設けた中庭に面した空間は開放感たっぷり
 
多目的に使える

新築時から、子どもの成長に応じたリノベーションを想定した設計だった。現在は、家族が暮らす県外と沖縄を行き来する生活。沖縄にいない間、自宅部分は民泊でも活用する。

オールガラス張りの事務所部分を含め、地域の景観に溶け込むよう外壁の色、デザインも一新。通学路にあるため、地域や建築に対する子どもたちの興味関心を刺激すること、災害時には避難スペースにもなるよう工夫を凝らす。
リノベーション前

リノベ前は、仕切り壁から室内まで、すべて白基調のシンプルな空間
事務所。隣地との仕切り壁には、琉球石灰岩を貼り付け、内装は木ベースに変更。幅14.4メートル、高さ2.4メートルのオールガラス張りの開口部から見える風景との一体感が増した

施工や仕上げに携わったのは、高校時代の同級生たち。金城さんは、「建築と地域に対する自分の考えや、想(おも)いの変化を感じる機会になりました。将来、さらにリノベするでしょうね」と、楽しげに話した。
リノベーション前
元は主寝室だった北側の個室。写真右手の開口部に障子をはめ込み、和モダンな雰囲気を演出。銀ネズミ色に塗装したコンクリートの壁は、職人がクシびきで凹凸つけた
 

 金城さん宅 リノベのカギ 
地形や自然との調和を重視。室内外の一体感、空間の可変性で寛容さを演出

五感に心地よく

ライフスタイルの変化をきっかけに、自宅兼事務所を、家族以外の人たちをも受け入れるおおらかな空間へとリノベーションした金城さん。家族5人で暮らしていた自宅部分は約30坪。LDKと子ども室の仕切り壁を除くことで、可変性の高い空間を実現した。
 
事務所へとつながる、水回り前の通路。ウオークインクローゼットの折れ戸を障子にし、照明をつけて行燈(あんどん)のような雰囲気を演出

建材の質感や香りに目を向け、新築時に使った塩ビ素材やポリ合板などの建材は、木材や石などに変更。一番のポイントは、サンゴ入りの琉球石灰岩だ。「アプローチから玄関ホール、LDKの壁にも取り入れ、屋外から室内へ風景が連続するように計画。訪れた人が、沖縄の自然や風景に包まれていると感じられるようにしました」と金城さん。

また、建物や沖縄の歴史、家族の暮らしの記憶を見える形で残すことにもこだわった。「新築時に実家から移植したシマトネリコが植わっている玄関の植栽には、御嶽などでよく見かける植物を増やし、祈りの場を演出。室内には古いインテリアの一部をそのまま残し、生かしています」。
 
白で存在感を放っていた外観を、グレイッシュなベージュに塗り替えて、風景に溶け込ませる。玄関ポーチの奥には御嶽をイメージした植栽がある

外回りでは、建物の存在感を消すことに注力した。畑や森がある景観に合わせ、塗装の色は白からグレイッシュなベージュに塗り替え。駐車場には、新たに2本のガジュマルを植えた。「災害時には、事務所を避難スペースにできるようレイアウトを工夫。地域に開き、沖縄ならではの建材や植物の成長に触れ、子どもたちの地域の記憶を育む“緑の通学路”を目指しています」。
 
 
[DATA]
躯体構造:RC造
年  数:15年
施工面積:194.13平方メートル(約58.72坪)
工  期:10カ月
設  計:(株)門・NEXT Life 金城豊
構造・施工・電気・水道:沖縄工業高校 建築科38期同級生


[問い合わせ先]
(株)門・NEXT Life
電話=098・888・2401
https://www.jo1q.com/
撮影/比嘉秀明 取材/比嘉千賀子(ライター)
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2074号・2025年10月3日紙面から掲載

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