お住まい拝見
2018年12月14日更新
大きな屋根の下で憩う|スタジオコチアーキテクツ
[お住まい拝見 内装・高台の好立地生かし開放的に] 建築士のIさん(34)の自邸は、奥武島を見下ろす南城市の丘の上にある。前面道路より2.5メートル高い位置にあることから、塀や壁などの目隠しを極力省いた。大きな屋根の下、おおらかに暮らす。
丘の上に立ち、開放的なIさん宅。門扉や玄関は無く、大きな屋根が影をつくる前庭(ナー)で靴を着脱する。そこは来客に対応する場でもあり、子どもたちの遊び場でもある
内外の境緩く 風抜ける家
Iさん宅
補強CB造/自由設計/家族5人
今まで取材した家で一番、外と内の境があいまい。塀や壁を極力設けず、ガラス戸を多用。家のほぼ全てが土間で、LDKは居室というよりも、大屋根が作る「涼やかな日陰」。非常におおらかな造りだ。
大開口からは、奥武島を見下ろす借景が存分に楽しめる。一級建築士で施主のIさんは「景色を楽しむためというより、敷地を生かしたらこの造りになった」と語る。山の中腹にあり、北側には山を削って造られた道路が、敷地より2.5メートルほど低い場所にある。南側は斜面。「この高低差を生かせば目隠しは不要。山の記憶を残すことや建築コストを考慮した上で成った形」。
妻の恵さんは、「カーテン無く生活できてストレスフリー。風の抜け方や日の入り方で季節の移り変わりを感じられて結構、面白い」と笑う。子どもたちも外内なく遊び回る。
ことしは大きな台風が立て続けに来て「ヒヤヒヤでしたが、住居部分は無事だった」と胸をなでおろす。
南側からリビング方向を見る。LDKはガラス戸を開け放てば外と一体となる。エアコンが無くても「十分、涼しかった。湿気も風が吹き流してくれる」とIさん。左端は和室の土壁。向こう側にある洗濯干し場を目隠しする
水回りは左官仕上げ
随所に実験的な試みも見られた。キッチンや浴室、洗面台は土間や屋根の印象に合わせてどっしりとした質感の塗り壁材を用い、左官仕上げで制作。Iさんは、「水回り専用の壁材なので、今のところ汚れやカビは気にならない」と語る。経年変化を見ながら、「施主の要望に応じ、提案できれば」と考えている。
和室の壁は室内外とも土壁。「台風のたたきつけるような雨で外側が崩れてしまい、塗り直しした時に3割ほどセメントを混ぜたら、土壁の柔らかな表情が薄れてしまった。これは改善の余地がある」。想定外でもどこか楽しげだ。
建築コスト削減のため補強コンクリートブロック造にしたが「壁が少ないので、効果は薄かった」。その代わり、壁の塗装や前庭の一部を自分たちで施工し、人件費を削った。
おおらかだが挑戦的。建築士の自邸ならではの提案性がある住まいだった。
水回り専用の塗り壁材で制作したキッチン。レンジフードは天井に収め「窓から見える空と緑を邪魔しないようにした」と五十嵐さん。冷蔵庫などの家電は造作家具の中に納め、常にすっきりしている
キッチンと同じく塗り壁材で造った浴室と洗面台。研磨して仕上げ、つるんとした質感だが、手仕事の温かみも感じる
ここがポイント
建物の配置工夫し プライバシー確保
一級建築士のIさんは、自邸の設計を手掛けるにあたって、なるべく敷地に手を入れず、余分な物を作らず、「建物の配置によってプライバシーを確保し、沖縄の伝統建築の特長を落とし込んだ」と語る。
例えば、門扉は無いが「人の侵入を緩やかに拒むよう」駐車場と住居の間に自身の建築事務所(アトリエ)を配した。駐車場から敷石をたどって敷地を上り、アトリエの脇を抜けると住居の壁に突き当たる。「壁の先に人の気配はするが姿は見えない。直接ひんぷんを作らず、建物を活用してその役割をかなえた」
人の集う「表座」と私的な「裏座」を分けるのは、西側に配された和室。リビングと平行に突き出た和室は、表座から寝室や洗濯干し場が見えないよう目隠しをする。さらに、LDKに差し込む西日を遮る役割も担う。
印象的な大屋根は「夏涼しく冬暖かくなる」工夫がなされている。夏の真上から注ぐ強烈な日差しを防ぎ、冬は斜めから入る日光を遮らないよう大きさを計算。「冬の日光が土間を暖め、天然の床暖房になることを期待している」
かなりの重量がありそうなこの屋根、実は凹型になっている。逆梁(通常は天井スラブの下に梁が出るが、逆梁は天井スラブの上に梁が出っ張る)で見た目をフラットにしたことに加え、凹みを生かして「ゆくゆくは屋上緑化をして元々の山の景色に近づけたい」と語った。
内外とも土壁の和室。南側には景色を絵画のように切り取る大きな窓がある。ここからも出入りが可能
I邸北側の外観。手前の小さな棟がアトリエ。その奥に住居がある。この事務所が、門扉のないI邸において外部との緩衝帯になっている
リビングからの景色。山の斜面に立っており、緑と美しい太平洋のコントラストが楽しめる
[DATA]
家 族 構 成:夫婦2人、子ども3人
敷 地 面 積:651.32平方メートル(197坪)
1階床面積:105平方メートル(31坪)
建 ぺ い 率:22.20%(許容70%)
容 積 率:16.23%(許容200%)
用 途 地 域:無指定地域
躯 体 構 造:補強コンクリートブロック造(一部鉄筋コンクリート造)
設 計:スタジオコチアーキテクツ 五十嵐敏恭
構 造:建築設計明
躯体、設備:アース建設
土壁、内部左官:當山官業
内装、建具、家具:アトリエNUK
造 園:庭喜
[問い合わせ先]
スタジオコチアーキテクツ
098-917-6390
https://studiocochiarchitects.jp/
撮影/矢嶋健吾 取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1719号・2018年12月14日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。