[お住まい拝見]吹き抜けピロティ・庭で憩う|(株)ADeR|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

沖縄建築賞アーカイブ

お住まい拝見

お住まい拝見

2025年2月21日更新

[お住まい拝見]吹き抜けピロティ・庭で憩う|(株)ADeR

[3世帯で集う長屋住宅]建築士・知念さん家族と親族が暮らす完全分離型の3世帯住宅。各世帯は長屋住宅とし、中央をピロティ形式の2階建てにした。ピロティは3家族の憩いの場となり、さらに吹き抜けを設けたことで各世帯に自然光・風を通す。

外観は長屋住宅が三つ、上下・左右に配置され印象的だ。玄関は別ながら中央のピロティ・庭は3家族でバーベキューしたり、子どもたちがビニールプールを楽しんだり、集いの場となっている

より身近で絆深まり
3世帯
 木造/自由設計 

真ん中だけがピロティ形式の2階建てで、凸型の造りが特徴的な住まい。中央の2階に(株)ADeRの建築士・知念さん家族、1階東側にAさん家族、西側にOさん家族と、親族3世帯が暮らす住宅だ。Aさんは「実家の庭は広く、せっかくなら3世帯で暮らせたら楽しいかなと思って」と振り返る。

3家族は新築する前から、互いの家を頻繁に行き来し合うほど仲が良く、その絆は3世帯住宅に暮らしてぐっと増している。「庭やピロティでバーベキューを楽しんだり子どもたちを見守りあったりと、支えながら、そして以前よりにぎやかに暮らしています」と口をそろえる。

ピロティや庭は共有しつつも、3世帯の玄関から完全分離型の住宅に。外観は統一し、室内の造りや仕上げなど世帯ごとの好みを反映した。

色+柄10種で空間彩り

Aさん宅は非常にカラフルだ。キッチンの壁は花柄、水槽を併設した収納棚は葉柄の壁紙を張り、仕切り戸は赤・青・黄と塗り分けた。「味気ないモノトーンではなく、元気がわくような空間をイメージ。壁紙は10種類使い分けました」とAさん。造りは「できるだけ圧迫感がないように」と、仕切り壁と戸は極力省いた。キッチンの向かいに小上がりのスタディースペースと和室を設けたことで、「大きなワンルームだけど居場所は多く。居心地のいい場所で家族が思い思い過ごしています」。
 
1階・Aさん宅のLDKは色・柄ともにカラフルで表情豊か。間接照明にしたことで天井がすっきりしたほか、葉柄の収納棚(中央)やパントリーを設けたことでモノを表に出さず、広がりを感じられるよう工夫した
 
1階・Aさん宅の玄関。収納で動線を分け、右手に進めばLDK、左手からは各個室に直接行き来できる
 
パントリー・キッチンから浴室まで一直線に並び、機能的な動線。ピロティに面した高窓から光や風を取り込む

一方、2階・知念さん宅は壁・天井は白を基調としつつ、「キッチンや壁付けの収納棚などは木で造り付けて、シックで落ち着いた雰囲気を演出しました」。LDKの北側にはテラスを設け、「家族だけで楽しめるスペースも」。吹き抜けが住宅の中央にあるため、「自然光や風も取り込め、シンボルツリーなどで癒やされます。また1階で暮らす家族の気配も感じられます」と知念さん。
 
2階・知念さん世帯のLDK。白を基調としつつ、キッチン前面や収納棚などは木で仕上げ、シックで落ち着いた雰囲気に。天井は北側の窓に向かって上向きに勾配をつけ、視線を自然と外に誘導する
 
出窓沿いの2階廊下。窓際に腰かけられる上、壁面を外側に出したことで圧迫感を軽減している。進むと子ども室・夫婦の寝室がある
 
知念さん宅の玄関。階段は鉄骨とし、圧迫感のない軽やかな印象に
 
Oさん宅のLDKは天井高3メートルと開放的。カフェをイメージし、穏やかな色で統一した(写真は建築士提供
 
共通の空間で3家族は集いを楽しみつつ、各世帯の距離感も大切にした住まいだった。
 

ここがポイント
凸状に世帯ずらし 音防ぎ 光・風通す
 
3世帯をつなぐピロティは北側の庭まで抜ける。中央の吹き抜けに面するよう、各世帯とも大小さまざまな窓や勝手口を設けた。各世帯に太陽の光・風を通しつつ、猛暑日でも日陰、悪天候でも遊び場と3家族の憩いの場となっている(写真は建築士提供

自宅を含む3世帯住宅の設計にあたり、建築士・知念さんは住宅の配置を工夫。3家族の希望は「平屋」住宅だったが、「川の字のように並べるだけだと、各住宅に十分な採光と通風を確保できない」と知念さんは説明する。そのため、中央の住宅だけ2階建てのピロティ形式を採用。ピロティ中央は吹き抜けとし、そこに面するように各戸に大小の開口部や勝手口を設けたことで、「光や風を各住宅に行き渡らせました」。また凸状にずらして各住戸を配置したため、上階の床や壁から伝わる生活音などは極力、伝えない。「世帯それぞれの生活は独立しつつ、庭・ピロティを介して3家族がつながるようにしました」。

建物は断熱性能が高く快適に過ごせる「木造」を選択し、省エネ性能が高い「ZEH水準」を満たした省エネ住宅とした。特注サイズの梁をピロティ上部に使用。「柱の数を可能な限り減らし、各住宅のLDK、ピロティが広がりのある空間となりました」。

加えて、県条例により「準耐火構造」にする必要があったため、隣り合う住宅からの延焼を防ぐ構造を採用。室内は3世帯で個性豊かな壁紙で彩りを添えたり、木の造作家具やオーダーキッチンなどで雰囲気づくりをした。知念さんは「長屋建築だからこそ、3世帯で何気ない日常を共有したり助け合ったりと、沖縄ならではのゆいまーるの風景が生まれました。新たな沖縄の建築の在り方が提案できたと感じます」と話した。
 
 
[DATA]
家族構成  :知念さん夫妻+子2人
       Aさん世帯、Oさん世帯
敷地面積  :847.51平方メートル(約256.3坪)
1階床面積:Aさん世帯・125.87平方メートル(約38.0坪)
      :Oさん世帯・104.13平方メートル(約31.4坪)
2階床面積:知念さん世帯・118.83平方メートル(約35.9坪)
建ぺい率  :42.65%(許容50%)
容   積  率:51.42%(許容100%)
用途地域  :第一種低層住居専用地域
設  計  :(株)ADeR 知念
施  工  :(株)新洋
電  気  :真実電設
水  道  :システム企画(有)
構  造  :(株)黒岩構造設計事ム所

問い合わせ
(株)ADeR
電話=098・800・1869
https://aderarchitects.com
撮影/桑村ヒロシ 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2041号・2025年2月21日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2510

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る