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2024年8月30日更新

[お住まい拝見]海を満喫 塩害にも強く|アトリエ・ネロ 

[築45年の実家を建て替え]
劣化がひどかった築45年の実家を、2世帯に建て替えた安次富さん親子。目の前は海。サーフィンや潮干狩りを楽しみ、水平線を見渡す景色と波音に癒やされる。海沿いの暮らしが満喫でき、塩害にも強い家が完成した。

ターコイズブルーの玄関と花ブロックが爽やかな住宅東側の外観。躯体は水や塩分が浸入しにくい緻密で硬いコンクリートを使用。海風が当たる面にはコンクリートに浸透して水の浸入を抑え、紫外線の影響も受けにくい表面含浸材を塗った。ヤシやクロキといった植栽やブロック塀は以前のまま。心地よい影と味わいを添える

 

ブルーで「アガる」空間

安次富さん宅
 壁式RC造/自由設計/家族5人 

満潮時は波打ち際まで40メートル。奥武島の南の一角に、母の和美さん(76)と、次女の和野さん(48)家族が暮らす2世帯住宅がある。

2階子世帯のLDKは、ベランダ越しに水平線まで見渡せる明るい空間。和野さんは「毎日波と風をチェック。時間さえ合えば週3で波乗りに行く」ほどの海好きだ。その海を眺めながら足を伸ばせるカウチを置いたり、ターキーが焼ける外国製のオーブンを入れたりと、室内は海外暮らしの経験を反映した。中でも水回りはターコイズブルーで彩った「気分がアガる」空間。内階段の手すりや1階の玄関扉も同色で仕上げた。

一方で1階の親世帯は、「玄関は縁起のいい東入り」「整理整頓しやすいよう収納は多め」「壁は漆喰に」との和美さんの要望を取り入れつつ、対面式キッチンのあるLDKを中心に、和室、寝室までつなげた。近くに住む三女の子どもたちも含め、5人の孫を毎日のように預かるが「作った料理がパッと配膳できて便利」。2階同様、洗面・トイレ・洗濯置き場が一室にまとまった水回りも「寝室に近いし使いやすい」と喜ぶ。


2階LDK。天井高は最大3.6メートル。部屋の中央部が暗くなるのを防ぐため写真右手の北側には高窓も設け、採光・排熱を促した。キッチンは和野さんの要望で圧迫感のあるつり棚をやめ、飾り棚を採用。壁付けにしてリビングを広めにとっている​


2階水回り。海外に多い、トイレと洗面が一室にまとまった造りを採用。コンパクトながら、和野さんこだわりの色が非日常感を醸す


100年持つ家に

建て替えを決めたのは3年ほど前。「定期的にペンキを塗り替え補修してきたけれど、2階のコンクリート片が庭に落ち、雨もりもひどかった」と和美さん。「100年持つ家に」と建設会社を訪ね歩く中、紹介されたのが、耐久性の高い鉄筋コンクリート造を手がけ、保存活用にも取り組む設計事務所。「自然を大事にする姿勢や『子孫の代まで持つ家は経済的。その分暮らしも楽になる』という考えがいい」と依頼を決めた。

建築士の提案で、建て替え前の住宅の劣化要因や海風の影響を調査してもらい、新築に反映。屋敷囲いや庭の植栽は極力残した。

建て替え後も、真夏日以外は窓を開けて風通し良く。外壁や軒下、窓に付いた潮はこまめに洗い流し、台風時は雨戸を閉めるなど対策を怠らない。家族の記憶が詰まった住まいを、成長した孫たちも住み継いでいけるように-。


2階LDKに面したテラス。深い庇やベランダなど強風時に揺れやすい箇所は、細かいひび割れが生じた時のために防水対策を兼ねて塗装した


ここがポイント
緻密なコンクリ&緩衝帯で無理なく

海沿いでも「100年持つ家に」と依頼を受けた建築士の根路銘安史さん・水上浩一さんは、以前の家の劣化原因となった飛来塩分とコンクリート中の含水率を調査した。根路銘さん、水上さんは「塩分と湿気を含んだ海風が年中あたる南面と東面は、あたらない北面に比べ鉄筋が爆裂しコンクリートが剥がれ落ちるなど劣化もひどかった。それは飛来塩分量と水分量による差で、南面は北面の14倍の飛来塩分量があった」と説明。この結果から、水と塩をいかに防ぎ、耐久性を高めるかが鍵となった。

躯体は「①コンクリート内部にできる空気孔を減らして水を染み込みにくくするため、セメントに混ぜる砂利を増やしてコンクリートを緻密化。これだけでも十分効果はあるが、施主の要望で②海風があたる南・東面には、コンクリートに浸透して水の浸入を抑え、耐久性を高める表面含浸材を塗布。さらに、躯体に水が染み込んでも中の鉄筋に届きにくくなるよう、③鉄筋のかぶり厚さを50ミリ以上取り、壁厚を250ミリにした」。躯体以外にも、④窓には雨戸を取り付け、⑤緩衝帯となる庭は海のある南側に配置。⑥もとからあった植栽は景観&防潮林として活用した。暑さ対策にと、屋上に敷き詰めた断熱ブロックは、屋根面の保護にも役立っている。

「強化ガラスや気密性の高いアルミサッシなど外皮性能だけで建物を守るのはコストがかかり限界がある。躯体そのものの耐久性を高めつつ、屋敷囲いや植栽、雨戸、花ブロックなど、沖縄で昔から用いられてきた手法を何層も重ねることで、人にも建物にも無理のない、長く住み継げる家づくりができる」と話した。


1階リビングから見た室内。孫の誕生会や盆正月は家族で集まってにぎやかに。対面式キッチンの前は棚になっていて「ランチョンマットや書類をしまったり、写真を飾ったりできる」と和美さん


ターコイズブルーの引き戸が白壁に映える玄関は、網戸付きのオリジナル。和美さんがあしらった庭の植物が、ポーチや正面に見える収納兼ベンチ上に飾られ、訪れる人を出迎えてくれる


玄関から階段側を見る。ベンチ兼収納横の黒い手すりは、和美さんの要望で以前の家の床柱を再利用。ピアノは和野さんら姉妹が子どものころ使っていたもので、「今は孫たちが弾いてくれる」と和美さん


1階ヌレエンと庭。雨戸は重い木製から軽いアルミ製に。和実さんは「面倒な出し入れが楽になった」と喜ぶ


以前の住宅の調査結果の一例。同じ建物でも海風が当たりにくい北と西は劣化度が低め


[DATA]
家族構成:母、夫婦、子2人
敷地面積:348.69平方メートル(約105坪)
1階床面積:119.64平方メートル(約36坪)
2階床面積:80.08平方メートル(約24坪)
建ぺい率:38.35%(許容70%)
容積率:47.55%(許容200%)
用途地域:指定なし
躯帯構造:壁式鉄筋コンクリート造
設計:アトリエ・ネロ
   根路銘安史・水上浩一
構造:パス建築研究室 新川
施工:(有)匠建 仲与志
電気:ミネイ電気サービス 嶺井
水道:泉水設備(株) 上原
ガス:沖縄ガス(株) 岡田


問い合わせ
アトリエ・ネロ
電話=098・889・0103
https://www.a-nero.com/


撮影/矢嶋健吾 文/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2017号・2024年08月30日紙面から掲載

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