お住まい拝見
2024年7月19日更新
変形地でも風光 存分に|テラワキケンチクコウジョウ[お住まい拝見]
[中庭の窓は角までフルオープン]
寺脇雄三さんの自邸兼設計事務所は南部の昔ながらの集落に建つ。L字の変形地に職住近接と制約は多かったが、中庭を囲むように居室を設け、LDK側はコーナーまでフルオープンできる窓にしたことで、風と光が存分に感じられる住まいとなった。
内外つなぐ中庭が要
寺脇さん宅
RC造/自由設計/家族5人
L字の変形地に立つ、建築士の寺脇雄三さん宅は自宅兼設計事務所。職住近接で間口が4メートルと狭かったことから道路に接する北東側に駐車場と事務所を設け、その先の南西側に住宅を配置した。
居住スペースが限られる中、開放感と住み心地を両立させるため、寺脇さんは南に中庭を配置し、LDKと玄関、和室で囲んだ。中庭とLDKの間は3枚引きの掃き出し窓を組み合わせ、コーナーまで開け放てるようにした。寺脇さんは「窓を開けLDKと中庭をつなげても、突き出した軒が直射日光を遮り、室内は日陰で伸びやかな空間になる」と説明する。
また、中庭は隣地側に塀を設置。一部にアルミ格子の引き戸を取り付けたことで、風通し良く。妻は「外部の視線は気にならずカーテンもいらないし、窓は開けたままでいられる。欲しかったアイランドキッチンで家事をしていても、南風が気持ちがいい」とうれしそう。
自邸で試したことはLDKの二つ折りの天井。「片流れの天井だと、どこかのっぺりとした印象が生まれる。立体感を出すためやってみたけど、もう少し角度をつけないと効果がないことが分かった」と寺脇さん。
3枚引きの掃き出し窓のコーナーは柱をなくしたことで、LDKと中庭の関係があいまいとなり、空間の一体感がより生まれる
和室から中庭側を見る。和室の障子窓を開ければ、LDKの奥まで見渡せる。寺脇さんは「中庭が広がりだけではなく、和室とLDKそれぞれで過ごす家族につかず離れずの距離感を生んでいる」と話す。
子ども室。ベッドの位置を変えたいときでも電子機器などの充電に困らないよう、電源が移動できるレールを壁に取り付けた
家族の変化にも柔軟に
家づくりは妻の親族から土地を購入し、6年前にスタート。独立前だったこともあり、働き方や子どもの成長など家族の変化に柔軟に対応できる造りも意識した。
例えば、3人の子ども室はこま切れにせず、一つの大部屋に。勉強スペースはLDKの一角に設け、収納は子ども専用のウオークインクローゼットにまとめた。これにより部屋が広く使え、レイアウトも自分好みのインテリアなどで自由に楽しめる。
一方、事務所は住宅と動線を分け、将来はテナントとして使えるように。寺脇さんは「設計で大切にしていることの一つに、家族が成長しても部屋を持て余さない造りがある。その造りを生かす工夫を生活の中で気付き、施主に提案できれば」と話す。
変形地に立つ職住一体の住宅は居住性を高めつつ、暮らしの変化にも対応した造りになっていた。
ここがポイント
玄関は路地に見立て
玄関から中庭を見る。路地をイメージした玄関は三差路のように枝分かれし、左手の和室、正面の中庭、右手のLDKそれぞれに直接行き来できる
寺脇さんが自邸の設計で意識したのは地域性。敷地があるのは昔ながらの集落で、「南から入る家が多かった」と寺脇さん。しかし、接道条件に加え、必要な生活空間や事務所を設けるとなると、北入りに玄関を置かざるを得なかった。
そこでアプローチと玄関を路地に見立て、玄関からLDKに直接出入りできるようにしただけではなく、南の中庭からもLDKに入れるよう計画した。「玄関という概念がない沖縄の伝統民家の造りを、自分なりに解釈してプランに生かした」。ほかにも、中庭を囲んだ塀はヒンプンと捉えて、中央にアルミ格子の引き戸を設置=写真下。「友人らを自宅に招待した際はここから入り、中庭で食事や談笑を楽しんだ」。
外観。左手のアルミ格子の引き戸を通り、南から中庭、LDKに入れる。手前の設計事務所は杉板型枠を使い、住宅と違う見た目に仕上げた
玄関は外のような雰囲気を演出するため、壁の一面を木目が映る仕上げとし、高窓には青色の琉球ガラスを採用した。寺脇さんは「天井は琉球ガラスから入る光が反射し、青空のようになる」と説明する。
また、家族1人1人の個室がない分、和室を個室として使えるように計画。天井高を低くし、仕上げも変えて、おこもり感を演出した。「和室はLDKとの間に中庭を挟んだことで、独立した離れのように。部屋同士の距離感に加えて、和室の天井と壁を暗めの色にして、落ち着きのある空間に仕上げた」。
和室はこもった雰囲気を演出するため、壁や天井は炭入りのしっくいで仕上げ、天井高は2.2メートルと低くしている
洗面室は家事効率を考え、室内干し後、左手の棚にすぐに収納できる造り
[DATA]
家族構成:夫婦+子ども3人
敷地面積:250.00平方メートル(約75坪)
1階床面積:133.88平方メートル(約40.5坪)
建ぺい率:51.94%(許容60%)
容積率:50.88%(許容200%)
用途地域:指定なし
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設計:テラワキケンチクコウジョウ 寺脇雄三
構造:はざま建築設計
施行:(株)大成開発
電気:屋富宜電気工事社
水道:凛設備工業
植栽:グリーン・ピース
建具:ジョイプランニング
◆問い合わせ
テラワキケンチクコウジョウ
電話=098・987・4486
https://terawaki-kojo.jp
撮影/桑村ヒロシ 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2011号・2024年07月19日紙面から掲載