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2023年3月31日更新

沖縄の「ムートゥヤー」 室内外がつながり、家族や来客みんなに優しい|NDアーキテクトン[お住まい拝見]

[集いの場広々&バリアフリー]
Mさん宅は、行事ごとに人が集まるムートゥヤー(本家)。仏壇のある和室、LDK、テラスまで一体となる広々空間と、バリアフリーな造りで家族にも来客にも優しい。

LDKから和室まで仕切りがない造りに加え、最高3・7メートルの天井高で開放的。和室の仏壇は造作。木目の美しいホワイトアッシュ材を使用。和モダンな空間にもなじむ(比嘉秀明撮影)

自慢のひんぷん

Mさん宅
 RC造/自由設計/家族2人 

Mさん宅は、行事以外でも来客が多い。というのも、Mさんの母親であるおばあちゃんは人気者で、子や孫、ひ孫、親戚、友達がしょっちゅう訪れる。「新しい家はジョートーだから皆、長居する」と、おばあちゃんは笑う。

老朽化していたセメント瓦の家を建て替えた。「前の家は個室や廊下が多くて、来客がゆっくりできるスペースが少なかった。お客さんは、次のお客さんが来たら帰らないといけなかった」。

そのため「人が集いやすくて高齢の母親が暮らしやすい家」を、知り合いから紹介してもらった建築士に依頼した。


掃き出し窓の外は、深さ1.5メートルの軒が影を成す「アマハジテラス」。駐車場との間にはひんぷんがあり、外からの視線や車のライトを遮る


ホワイトアッシュ製の仏壇とタモ合板を市松張りした天井が和モダンな雰囲気。「旧家は線香などの煙がこもりやすかったと聞いたので、仏壇のそばと床の間に地窓を設け、煙が流れるようにした」と建築士

 


全面バリアフリー

新居はまさに、ムートゥヤー(本家)的。玄関の近くに和室(仏壇)があり、和室からLDK、そして1・5メートルの軒が影を作る「アマハジテラス」まで一体となり広々。勾配天井は最高3・7メートルあり、開放感たっぷりで居場所がいっぱいだ。

南側の掃き出し窓と、和室上部の高窓から光が入るため明るくて「前の家とは大違いさー」とおばあちゃん。

掃き出し窓は、駐車場と道路に面しているが、高さ1・8メートルのひんぷんがプライバシーを守る。遊びに来ていた孫は「外の車や人は遮るけど、木や空は見える絶妙な高さなんです」と話す。おばあちゃんも「このひんぷんは、お客さんが一番褒める。私も、ここ(掃き出し窓)から外を眺めるのが日課」。テラスには手塩にかけた鉢植えが並び、その奥には島ラッキョウやホウレンソウなどが青々と葉を広げる。

室内は段差がなく、扉はすべて引き戸で「歩きやすい」。収納の多さもお気に入り。キッチン横にはパントリー、LDKの中央に掃除用具をしまえる収納、各個室にも大きなクローゼットがある。

家族の今や未来、来客にも優しい住まいだ。
 

車椅子での利用も見据え、浴槽は設置せず広さを優先。扉は3枚引き戸。脱衣所には将来、トイレが設置できるよう配管を準備している


高さ1.8メートルのひんぷんが駐車場との間に立ち、車のライトや外からの視線をシャットアウトする

浴室・脱衣所の前に、洗濯機や洗面台のある「サニタリールーム」がある。奥は屋根付きの物干し場。「洗濯がとても楽」とおばあちゃん

トイレも、車椅子での利用を考慮して正方形にして広く取っている

沖縄の古民家で見られる深い軒「アマハジ」を再現した半屋外空間「アマハジテラス」。LDKとつながり、「親戚一同でバーベキューしたときも外と中の人が分断されず、一体感があった」

 


ここがポイント
集いと暮らしを両立

「人が集まりやすく、高齢のお母さんも暮らしやすい家を考えた。バリアフリーやプライバシーの確保にも細心の注意を払った」と(株)NDアーキテクトンの比嘉実美さん。

人が集まる和室は、LDKや半屋外空間「アマハジテラス」とつなげて「くつろげる場所をたくさんつくった」ほか、LDKなど“洋”の空間と「境界を感じさせないよう、色使いや建材をLDKと合わせ、建具の収まりなども念入りに調整した」

アマハジテラスは、1・5メートルの深い軒が影を成す。内側を紺色にしているのは「白壁との対比で、光と影のコントラストを際立たせる」ためだ。駐車場とアマハジテラスの間には高さ1・8メートルのひんぷんが立ち、前面道路からの視線や車のライトをシャットアウトする。「プライバシーを守りつつも、圧迫感が出ない高さ。視界を遮りつつ、室内からは空やクロキの緑が見えるよう高さを計算した」

室内は全面バリアフリー。車椅子での利用も見据え、扉はすべて引き戸。特に水回りは大きく開くものを導入している。間取りにも工夫を凝らす。「トイレは来客も利用するので玄関近くに配置したが、寝室の近く(脱衣所内)にも増設できるよう配管を準備している」。

また「物が多いと聞いたので、収納をしっかり設けた」。キッチンは対面式にして壁収納を充実させたほか、パントリーも設置。大鍋や重箱などがぎっしり収まっている。和室は「ムートゥヤーらしく床の間を広く取りたかったので、あえて押し入れを作らず、部屋の隣に大きめの納戸を設置した」。そこに来客用の布団などをしまう。

さらに、洗濯機のあるサニタリールーム、洗濯干し場、クローゼットのある寝室を東側にまとめて、洗濯が短い動線で効率的に行えるようにしている。


[DATA]
家族構成:2人
敷地面積:547.52平方メートル(約165.62坪)
1階床面積:113.13平方メートル(約34.22坪)
建ぺい率:24.08%(許容70%)
容積率:20.66%(許容400%)
用途地域:未指定
躯体構造:鉄筋コンクリート壁式
設計:(株)NDアーキテクトン 比嘉実美
施工:(有)平良建設 源古恭成
構造:Lifetect 宮里尚志
電気:(同)昭浩建設 普久原朝太
水道:(株)大屋設備 安里進
キッチン:(株)共立創建 東江しのぶ


問い合わせ
NDアーキテクトン
電話=098・958・3522
https://www.nd-arkhitekton.com/


撮影/比嘉秀明 文・東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1943号・2023年3月31日紙面から掲載

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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