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2021年4月2日更新

沖縄らしさを現代風に|Studio Clamp

[ひんぷんで分ける職と住|お住まい拝見]
建築士の與儀拓也さん(36)の自邸は、事務所と住まいの動線を分けるひんぷんや間取りなど、沖縄らしさを随所に取り入れた住まい。明るく開放的な空間で家族4人がスッキリ暮らす。

外観。白くて大きなひんぷんは、隙間を空けながらレンガを積む「透かし積み」の手法によるもの。外からの視線を緩やかに遮りながらも、光や風を通す。ひんぷんの右手が事務所、左手が住宅に通じるドア。手前の駐車場に車がないときには、前面道路で車がすれ違うための場所として地域に開く


見た目も空気もスッキリ

與儀さん宅
 RC造/自由設計/家族4人 

細い道路が行き交う、西原町の住宅街。隙間を空けながられんがを積み上げた、白くて大きなひんぷんが與儀拓也さん宅の目印だ。ひんぷんの両脇にはドアがあり、右は建築士でもある與儀さんの事務所、左は住宅の玄関へとつながる。

室内は、調湿効果のある漆喰(しっくい)の白が基調。その上、収納や照明は目立たないよう設けられているので、空気も見た目もスッキリしている。玄関からホールにかけては壁一面がガラス張りで、「朝日が当たる時間帯は、格子状になったひんぷんの影が床に現れ、ついつい見てしまう」と與儀さん。

ホールを抜けた先にあるLDKは、幅6・9メートルの大きな開口部と高さ3・2メートルの天井が相まってとても開放的。実面積以上に広く感じる上、光や風もよく入る。長男(6)と長女(4)は「走ったり、ボール遊びをするのが好き」と広々した空間を存分に楽しむ。

キッチンは、夫人(36)の希望でセパレート型に。「コンロは壁付けなのでにおいや油はねが気にならない。シンクはアイランドでリビングに向いており、子どもたちの様子もテレビも見えます」と夫人は話す。アイランドの天板はダイニングテーブルと一体化しているので、食器の片付けもラクだという。


LDK。幅6・9メートルの大きな開口部により、中と外が一体化し、実面積以上に広く感じる。一方で、與儀さんは「光や風が入りやすいが、冬場は冷気も入りやすかった。カーテンを付ければ改善したが、複層ガラスなどを使ってもいいかもしれない」と話す

和室。祖母が庭好きだったため、左手に見える仏壇の正面に庭を配置した。中央奥の扉は事務所に通じている
 

ひんぷんの裏にある水盤。水盤に光が反射し、写真左手のホールの天井にゆらめく光が映ることもある

 

祖母に向けた庭

與儀さん宅の土地にはもともと祖母が暮らしていたが、他界してからは仏壇だけが置かれた状態だった。そこを與儀さんが仏壇と一緒に引き継ぎ、建て替えることにした。

イメージしたのは沖縄の伝統的な間取り。北西に水回りをまとめ、客間でもある一番座は事務所に、仏壇のある和室は二番座として家の中央に配した。そして、庭好きだった祖母を思い、仏壇の正面には小さな庭を設けた。與儀さんは「家の真ん中で見守ってもらっている気がする」。

沖縄らしさを大切にする與儀さんの考え方が、全面に感じられる住まいだ。
 

干し場。奥に見えるのは5帖のウオークインクローゼットで、洗濯の動線はとてもコンパクト。どちらも壁や天井に漆喰塗料を使っているほか、据え付け型の除湿乾燥機を備えている
 

ハイサイドライトで明るい洗面室。カウンターは、モルタルのようになる左官材をベニヤの上に塗って仕上げた。水回りの床は木目調のタイルを使うことで、ほかの部屋との統一感を出した

夫人が使う家事スペース。リモートワークをするときにも役立ったという
 

浴室。與儀さんは「扉を開ければ露天風呂気分になる」とお気に入り。壁や天井、浴槽まで、洗面室のカウンターと同じ左官材を使った


ここがポイント
テラスで裏座にも光と風

東西を幅4メートルほどの細い道路に挟まれた敷地の中で、スタジオクランプの建築士でもある與儀さんが、自邸を設計するにあたって優先したのは広い駐車スペース。「仏壇行事のときに人が集まるため」と東側に5台分を確保した。

その後「残った土地でどれだけ光と風、家事動線を確保できるか。事務所と住まいの動線をどう分けるか」を考えた。

まず、事務所と住まいの動線は大きなひんぷんで分けた。光と風は、LDKの大開口や随所に設けたジャロジー窓などで確保したが、沖縄の古民家で裏座に当たる子ども室や寝室への通風・採光が懸念された。そこで事務所との間にテラスを配置。「暗くなりがちな裏座だが、テラスからの光で明るく、風もよく通る」と話す。

自身で設計したこともあり、「キッチンと家事スペース以外は任せてもらった」という與儀さん。浴室から干し場、ウオークインクローゼットまでを一直線にするなど動線や使い勝手に配慮しつつ、実験的な試みもした。

例えば、室内の壁や天井は漆喰の塗料を塗っているが、下地の石こうボードは使わず、直接コンクリートにペイント。「コストはあまり変わらなかったが、下地がない分、8センチほど空間を広く使えた。また、白は汚れが目立ちやすいが、漆喰なので自分で手入れしやすいし、雨の日でも室内は湿気をほとんど感じない」

洗面室のカウンターやキッチンの壁には、モルタルのような質感になる左官材を使用。ベニヤなどに薄く塗り左官で仕上げるだけで、強度が増し、耐水性も出てくる。そのため、浴室の壁や浴槽にも使っている。「カウンターに使う場合、1枚板を使うよりもコストを抑えられる他、左官仕上げなので継ぎ目が出ないのも良かった」。

子ども室。事務所との間にあるテラスによって明るい。「将来は2室に区切り、子どもたちと一緒にロフトベッドをDIYするつもり」と與儀さん

事務所。ひんぷんの隙間から光が入って明るい。與儀さんは「どこにいても明るいので、暗い部分をあえて設けてメリハリをつけてもよかったかもしれない」

 

[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:275.53平方メートル(約83坪)
1階床面積:161.98平方メートル(約49坪)
建ぺい率:53.56%(許容60%)
容積率:58.82%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:Studio Clamp 與儀拓也
構造:ASD Planning 本永智尋
施工:(有)丸親建設 篠崎隆志
電気:あおぞら電設 伊藤嘉寛
水道:(株)久米設備 久米清春
キッチン:モブ 照屋涼子
植栽:PLANTADOR 新城圭吾

問い合わせ
 Studio Clamp
 電話098・988・9572
 https://s-clamp.com/


撮影/泉公(ララフィルム) 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1839号・2021年4月2日紙面から掲載

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「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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