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2021年2月5日更新

景色をつなぐ住まい|(有)門一級建築士事務所

[自然に溶け込む暮らし|お住まい拝見]
南城市のTさん(39)宅は、緑が多く残る地域に建つ鉄筋コンクリート造の平屋。南北に景色が抜ける住まいで、家族5人が景色の一部のように伸びやかに暮らす。

南側の庭から見たTさん宅。窓の奥に北側の景色も見える。リビングのソファでくつろぐTさん家族の様子が、風景の一部のように溶け込む
 

2世代続く信頼関係

Tさん宅
 RC造/自由設計/家族5人 

森や畑など、豊かな自然に囲まれたコンクリート打ち放しのTさん宅。南側の庭に立つと、庭に面した大きな窓から、建物の背後に広がる北側の風景まで見通せる。その間を、室内で遊ぶ子どもたちが、まるで風景の一部であるかのように走り抜けていく。Tさんは「いい景色ですよね」と満足そうに眺める。

室内は壁や天井に施された漆喰(しっくい)の白が基調。和室と子ども室に挟まれた廊下を抜けると、広々したLDKに出る。南側にリビング、北側にダイニング・キッチンがあり、それぞれに設けられた大きな窓が目を引く。庭から見たときに、南北の景色をつないでいたのはこの二つの窓だ。

「ダイニングに座ると、南北両方の景色が楽しめるんです」とTさん。大きな窓によって中と外が視覚的に一体化し、自然の中にいるような開放感もある。

一方、キッチンの壁は雰囲気が変わってタイル貼り。「雑誌で見たカフェのイメージ」と夫人(37)は話す。そんなキッチンからは子どもたちが和室で宿題や折り紙をする様子、庭で竹馬や水遊びをする様子なども見える。大きな窓は子を見守る親の安心にも一役買っている。


ダイニング・キッチン。大きな窓で中と外が一体化しているように感じる。夫人は「夜は星がきれいだし、雨粒が窓に当たる音も好き」。家族みんなで景色を見ながら食事をしたり、飛んでくる鳥を観察したりと、自然が見せる多様な表情を楽しんでいる


和室。棚の下にはカウンターがあり、宿題やお絵かきなどができる。カウンターの前の開口部からキッチンやリビングの様子も見える
 

家族全員の衣類が収められたウオークインクローゼット。約5.1帖と広いため、まだまだスペースに余裕がある。奥にあるのは屋内干し場で、乾いたらすぐに片付けられる
 

家事効率が良い収納

10年以上前から家づくりを考え始めたTさん夫妻。土地探しに難航したものの、建築士とは不思議な縁があった。

「幼い頃、父が『将来、家を建てるならここに頼むといい』と、実家を手掛けた設計事務所のことを話していた。その記憶を頼りに調べてみると、その息子も建築士をしていたんです」とTさん。施主と建築士の息子同士が、時を超えて同じ関係になった。

そうしてできた住まいには暮らしやすさの工夫もある。中でも、夫婦のお気に入りは広いウオークインクローゼット。「洗濯から子どもの準備まで、ここで全部完結する。屋内干し場もつながっているので片付けも楽」と笑顔。

効率的な家事によって、家族との時間が増えたTさん一家は、緑いっぱいの風景に溶け込みながら伸びやかに暮らしていた。
 

リビング。造り付けの収納にはエアコンも収められており、スッキリした印象。大きな窓からは庭で遊ぶ子どもたちの様子がよく見える

南側のテラス。深い軒先は垂れ壁のように下がり、包まれたような安心感があるほか、すだれや防風ネットを掛けられる。Tさんは「軒下にいすを出してのんびり過ごすこともある」

リビング・ダイニング。中央奥の子ども室からも北側の景色が見える
 

子ども室。3室に分けられるようになっているが、今は一つの空間として広々使っている
 

外観。シンプルなコンクリートが庭の緑や空の青によく映える
 

ここがポイント
間取りミックスし景色の抜けを確保
Tさん宅の敷地の周りには緑が多く残っている。設計前、土地を見に行った門一級建築士事務所の金城司さんは「建築によって、この風景を遮りたくないと思った」という。するとTさんも「この風景が好き」と意見が一致。そこで金城さんは間取りを工夫することで、風景を残せるようにした。

方法は、一般的に南にはパブリック、北にはプライベート空間を配置するが、Tさん宅ではダイニング・キッチンを北に、寝室を南に配置。リビングとダイニング・キッチンを南北に並べ、それぞれに大きな窓を設けた。金城さんは「間取りのセオリーをミックスさせることで、景色の抜けをつくった」。子ども室の引き戸と窓も南北で対面させ、建物の南から北へと全体的に見通せるようにもなっている。この南北に見通せる造りは、室内全体に光や風も届ける。

その光の入り方を調節するため、南側の軒先は垂れ壁のように下がっている。「アマハジのようにほどよく陰を作り、包まれる安心感も与えられる」と金城さん。

また、もともとは、外観だけでなく室内も全てコンクリート打ち放しにする予定だった。しかし、湿気が多い地域で、施工中、霧に覆われることもあった。そこで、随所にコンクリート打ち放しの部分を残しつつ、漆喰(しっくい)を主原料とした内装材を壁や天井に塗った。Tさんは「梅雨時季も湿気を全く感じない」と効果を実感している。


 

[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:548.31平方メートル(約165坪)
1階床面積:139.45平方メートル(約42.18坪)
建ぺい率:27.11%(許容70%)
容積率:20.34%(許容200%)
用途地域:未指定地域
躯体構造:鉄筋コンクリート壁式構造
設計:(有)門一級建築士事務所 金城司
構造:建築設計 明
施工:(有)丸義建設 幸喜勝
電気:オクミネ電設 與那嶺満
水道:(有)共同工業 新垣真治

問い合わせ
 (有)門一級建築士事務所
 電話098・888・2401
 HP:https://www.jo1q.com/


撮影/矢嶋健吾 取材/ 出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1831号・2021年2月5日紙面から掲載

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出嶋佳祐

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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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