お住まい拝見
2020年10月2日更新
庭共有する姉妹の2世帯|沖縄家作人ネット/築・建築計画設計事務所
[お住まい拝見〕|Oさん(48)宅とTさん(41)宅は、それぞれの夫人が姉妹ということもあり、共有の庭を挟んで建つ。両世帯から庭が見える一方で、窓の位置をずらすことで各世帯のプライバシーを確保。2世帯が協力しながら仲良く暮らす。
Oさん宅から庭を見る。奥に見えるTさん宅と庭を共有にしたことで、塀がなく開放的。子どもたちも伸び伸び遊ぶ。バーベキューなども楽しめるよう、庭に面して、手洗い場や倉庫などもある
窓ずらしプライバシー守る
Oさん・Tさん宅
RC造/自由設計/家族5人・家族4人
両家で見守る安心の庭
Oさんの夫人(38)とTさんの夫人(37)は仲の良い姉妹。それぞれの家族が暮らすのは、庭を挟んで仲良く並ぶ二つの平屋だ。
南側にあるのがOさん宅。廊下を抜けると、一気に視界が開け、天井高3.5メートルのLDKへとつながる。隣接する和室や子ども室まで一体化でき、Oさんは「よく親戚で集まるので重宝しています」。
壁では両家の子どもたちがボルダリング。その様子を、姉のO夫人は「料理と洗い物を分担しながら、夫婦で並んで立っても広々」という幅3.5メートルのキッチンから見守る。
一方、Tさん宅のLDKにはハンモック用のフックが4カ所あり、つり下げる角度を変えられる。「休日にハンモックでゆっくり過ごしたかった」と妹のT夫人は話すが、子どもたちのブランコ代わりになることもしばしば。
家事動線については、洗濯を担当するTさんが「洗濯から片付けまで効率的。アクリルガラスの屋根付き物干し場は、雨の心配もいらない」と使い勝手の良さを話す。
共有の庭では、子どもたちがおにごっこやバッタ捕り。新型コロナウイルスの影響で、いろいろな施設が閉まっていた今年の夏には大きなビニールプールも広げた。両夫人は「互いの家から目が届くし、安心して遊ばせられます」と声をそろえる。
Oさん宅のLDK。3.5メートルの天井高を生かし、壁にはボルダリングの設備、キッチン上にはロフトがある。左手の子ども室は3部屋に区切れるが、子どもたちが幼い今は一つの空間として広々使う
Tさん宅のLDKと和室。2室は一体化させて使える。Tさんは「子どもたちが走り回れるよう、ダイニングセットはあえて置いていない。移動させやすいよう、座卓もキャスター付きにしています」
何げなく集える
姉夫婦に続いて妹夫婦も家づくりを検討し始めたころ、夫人らの実家近くに広めの土地を見つけた。「2世帯で建てられるかも」となったが、建築士選びに悩んだ。
そこで、コンペ形式で設計事務所を選ぶ団体に相談。複数のプランの中から「視線が合わないよう配慮した提案」を両家族が気に入り、その事務所に依頼することにした。
実際、どちらのリビングも庭に面しているが、窓の位置をずらすことで、目線が合わないようになっている。そのため、OさんもTさんも「互いの目は全く気にならない」。
それより、2世帯にしたことのメリットが大きいという。例えば、「両世帯とも共働きなので、早く帰ってきた人が子どもを迎えに行く」「調味料を借りる際、子どものおつかいの練習になる」「庭が広く使える」「おかずのお裾分けがしやすい」など。Oさんは「特別な日でなくても一緒に食事をとるなど、何げなく集まれるのもいい」と加える。別々の世帯でありながら、一つの家族のように協力して暮らせる住まいだ。
Oさん宅の和室。庭に面した掃き出し窓を全開にしてもTさん宅からは見えず、プライバシーが保たれる
Oさん夫婦お気に入りのキッチン。幅は3.5メートルあり、写真手前側の約80センチは既製品に合わせて造り付けた
ここがポイント
2軒まとめてが◎ 細部の調整も円滑
Oさん宅とTさん宅が建つのは、L字型の広い土地で、両端は道路に接していた。両家族はここに「庭を共有して自由に行き来できる2世帯」を求めた。
建築士の下地秀喜さんは、敷地の両端を各世帯の出入り口とし、間に庭を設ける形で計画。「2軒分の庭が一つとなり、大きな庭として広々使える。塀がないので閉塞(へいそく)感もない」と庭を共有する利点を話す。
両世帯ともに、LDKの開口部を庭に向けて開いた。しかし「いくら仲が良くても、生活が丸見えになるのは互いに気を使う」と、各世帯のプライバシーをどう確保するかが課題となった。
そこで「各世帯の掃き出し窓が向かい合わせにならないようにするなど、窓の位置や大きさを工夫した」と、互いの家の中が直接見えないように配慮。「二つの建物をまとめて任せてくれたので、トータルで設計する中で細かい調節ができた。施工業者なども同じにしたため、現場監督が一人で良いなど、コスト減にもつながった」。
また、敷地は大雨で冠水することもあり、強い地盤ではなかった。それを「面の広いベタ基礎にした上、壁式構造にすることで建物の重さを分散させた」。これにより杭(くい)が不要になり、その分のコストを抑えられたという。
交通量の多い道路に面したOさん宅では、道路側に玄関や浴室といった長居しないスペースを設けた。それらが緩衝帯となり「LDKはとても静か」とOさん夫婦。
そのほか、両世帯ともLDKの天井を高くし、隣接する和室などと一体化できるようにすることで、集いやすい開放的な空間にした。さらに、その天井の高さを生かしたハイサイドライトからは光も入る。洗濯機から物干し場までの距離を短くするなど家事動線も効率的になっている。
Tさん宅のスタディースペース。両世帯とも「家事をしながら子どもの勉強が見られるように」と、キッチン前に設けられている。写真奥の壁に貼られた、デニム模様のクロスがアクセント
Tさん宅の玄関。シューズクロークに日用品や小物類をしまうことで、たくさんの人が来ても玄関はスッキリ
Tさん宅の外観。車庫から玄関まで雨にぬれずに行き来できる。車庫に屋根が付いているので、夏場に車に乗るときも暑くないという
[DATA]
【Oさん宅】
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:349.41㎡(約105.7坪)
1階床面積:122.83㎡(約37坪)
建ぺい率:39.14%(許容60%)
容積率:35.15%(許容200%)
【Tさん宅】
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:327.56平方メートル(約99坪)
1階床面積:119.16平方メートル(約36坪)
建ぺい率:36.69%(許容60%)
容積率:36.73%(許容200%)
【共通】
用途地域:無指定
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設計:築・建築計画設計事務所 下地秀喜、山里香衣、下地泰喜
施工:(有)國真住建
電気:(株)大幸電設
水道:(有)丸栄電気水道工業
[問い合わせ先]
沖縄家作人(やーつくやー)ネット
本部 電話=098-869-3313(担当・国吉)
http://www.8298net.jp/
築・建築計画設計事務所
電話=098-874-0372
撮影/泉公(ララフィルム) 取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1813号・2020年10月2日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 出嶋佳祐
これまでに書いた記事:224
編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。