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2020年7月24日更新

半円の外壁で広がり|建築空間アボット

〔お住まい拝見〕角地に建つ実家を建て替えた比嘉さん(52)。半円形の目隠し壁で囲まれ、LDKとひと続きになるデッキは、視線を気にせず、光と風、時間の移ろいを楽しむ場になっている。


1階のリビングとデッキは、掃き出し窓を開け放つと段差なくひと続きに。半円になった外壁にはスリットが入っていて、光と風を届けながら、外からの視線をゆるやかに遮る
 

角地生かした開放的な平屋

比嘉さん宅
 RC造/自由設計/家族2人 


デッキからLDKを見る。コンクリート打ち放しの壁にダークブラウンの床でシックな雰囲気。北側には和室が隣接する


自由にくつろぐ
日が暮れると、交差点に面して設けられた半円形の目隠し壁から明かりがもれ、灯籠のように道路を照らす比嘉さん宅。 

目隠し壁の内側にあるのは、デッキスペース。LDKの掃き出し窓を開け放つと段差なくひと続きになり、「視線が抜けるので、建坪よりも広く感じます」と比嘉さん。

日中は、季節や時間帯で変わる陽光や風、空を楽しみ、夜は照明でムーディーな雰囲気に。「いずれはイスも置いて、もっとくつろげるようにしたい」

比嘉さん一番のお気に入りはキッチン。「料理が楽しくなるように」と選んだ木目調のキッチンは、肌触りのいい人造大理石の天板で、「使い込んでなじんでいくのが楽しみ。食事の片付けを終えて脚立に腰掛け、お酒を飲みながら大画面テレビでミュージックビデオや音楽を楽しむ時間が最高です」。

ビートルズを中心に、ブリティッシュロックが大好き。「斜めになったLDKの天井から、音が落ちてくる感じもいい」

リビングに隣接する子ども室はスキップフロアになっているためリビングと視線がずれ、戸を開けていてもゆるやかに仕切られる。長男(20)の希望で設けた和室は、天井から仕切り戸にかけて半円を描くユニークな形。勉強したり、くつろぐだけでなく、高齢の母親の宿泊にも活用する。



比嘉さんお気に入りのキッチンからLDKを見る。キッチンからテレビを見ることを考慮して、大型画面を選び、壁づけにした。リビングの高窓から入る陽光はキッチンまで届く


仲間が集える場に
実家はうるま市の住宅地で商店を営んでいた。築50年の建物は老朽化。「数年住みましたが、増築が繰り返されていたため雨もりもあり、親類の建築士に相談して建て替えを決めました」

設計にあたって建築士は、比嘉さんの趣味とやりたいことを重視。「自分の考えだけだと、機能性重視のつまらない家になっていたはず。家づくりの考え方から教えてもらい、もっと自由でいいんだと思えるようになった」と振り返る。

子どもが成長し、50歳を超えて建てた家。「自分の好きなこと、お気に入りを入れ込むことができた。年をとって家を建てるのもいいな、と実感しています。親しい仲間と語り合える場になれば」と、笑顔を見せた。



LDKに隣接する子ども室は、リビングから45センチ上がったスキップフロアになっている。リビングと視線がずれることで、開け放ってもプライベート感がある。階段はくつろぎの場にもなっている


ここがポイント
角に寄せ南と東に余白

敷地は、交通量の多い交差点に面し、南側と東側には隣家が建つ角地。敷地南側から北側道路に向かってゆるやかに傾斜し、最大1.2メートルの高低差もあった。

設計を手掛けた建築士の當山茂さんは、「道路からの視線を遮りながら、室内に光と風をどう取り込むかがカギ。建物を角いっぱいに寄せて東に幅約3メートルの裏庭を、南に駐車場を設け、隣家との間にL字に空間をあける配置を考えました」と説明する。その上で、角部は2メートル後退させるという建築制限をプラスに生かし、交差点に面する目隠し壁を半円形にして敷地をフル活用した。

半円になった目隠し壁の内側には、LDK、和室とひと続きになるデッキを配置。視線が抜けるため、室内が広く感じられる。太陽の位置を考察しながら、目隠し壁には等間隔で縦のスリットを入れた。「道路からの視線は遮りながら、光と風を取り込み、内外の気配も感じられる仕掛けになりました」



外観。角に面して設けた弧を描く外壁のスリットや高窓からもれる光が、ほんのりと道路を照らす



和室。天井から仕切り戸にかけて半円を描くデザインが印象的。入り日に備え、畳の周りはフローリングに。正面の引き戸を開けると水回りにつながる


角地の壁を半円形にしたことで、歩道を歩く人には圧迫感を与えず、室内の明かりがスリットからもれて夜道を照らす明かりになるなど、地域への副次的な効果も生まれた。

東に設けた裏庭は、プライベートな空間。水はけに配慮して浸水マスを設置し、砂利を敷き詰めた。窓を開け放って風を取り込めるよう、ひさしも1メートル設けた。

子ども室は、目線をずらしてゆるやかに仕切り、空間に立体感と遊びが生まれるよう、スキップフロアにした。リビングから上る階段は、片側を引き出し収納に。子ども室の下部には大容量の床下収納を設けて空間を有効活用する。

「高さ75センチの床下収納は、換気も十分にとっているので、湿気やシロアリの対策にもなっている。屋外の駐車場側から出入りできる造りなので、床下の点検もしやすい」。遊び心と機能性を兼ね備えた工夫が詰まっている。



トイレは、縦長のルーバー窓から光を取り込み、換気する。間接照明でおしゃれ度アップ



透明ガラスで仕切ったシャワー室。写真手前の収納が、洗面室出入り口からの目隠しになっている

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[DATA]
家族構成:父、子ども1人
敷地面積:275.78㎡(約83.57坪)
1階床面積:90.08㎡(約27.3坪)
建ぺい率:32.78%(許容70%)
容積率:32.66%(許容200%)
用途地域:第一種中高層住居専用地域
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設  計:建築空間アボット 當山茂
構  造:(有)建築設計 庵 長間大輔
施  工:(有)沖忠建設 崎山喜忠
電  気:(有)中原電設 仲村直也、池原啓太、隆 建二
水  道:前田設備 前田 勲、祝嶺好範、備瀬知秀
キッチン:(株)クッチーナ 福田美直
内部大工:仲村渠清行
塗  装:琉球美装 眞志喜浩
建  具:野崎木工(株) 野崎達矢

〔問い合わせ先〕 
 建築空間アボット
 ☎ 098・937・7334
   http://abbot-touyama.boy.jp/


撮影/比嘉秀明 取材/比嘉千賀子(ライター)
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1803号・2020年7月24日紙面から掲載

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週刊タイムス住宅新聞編集部

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