家づくり
2023年8月18日更新
太陽の動き知り 光と風の空間作り|風土と住まい③
文・写真/大城通(県建築士会会員、てぃーだ建築設計室合同会社 代表)
夏至の南中時。深い庇と庭先の植栽(落葉樹)が遮光帯に
子供の頃、私の田舎では屋敷内にガジュマル等の高木が1、2本生え、防風林としての役目を担い、建物はほぼ木造、台風の脅威に対する備えでした。半世紀が過ぎ、住宅が木造から頑丈な鉄筋コンクリート造に建て替えられ、役目を失った防風林は現在では希少な存在となっています。木の役割は、影を落とし木の葉の水分蒸散作用により、周りを冷却する機能もあります。近年の温暖化は、木が少なくなり自然の冷却装置を失っているのも一つの要因です。
省エネという観点から、住宅が大木に覆われ、冷気がそよ風として通り抜け、木漏れ日が差し込む環境は、自然が作り出す空調機であり『風土と住まい』の原点だと考えます。
那覇市の季節による太陽の軌跡
3階建て住宅の南面に、日差しを遮る花ブロックの大壁を設けた
カギは遮光・遮熱
住宅を大木で覆うのはできないにしても、太陽からの直射光を避けることは可能です。太陽の動きは、春・秋分を境に一刻一刻異なり1年でサイクルをなします=上図。直射光の影響を避けるには大きく二つが考えられ、一つは遮光で開口部から直射光を入れないこと。二つ目は遮熱で屋根・壁面に照射した太陽光が屋内に熱として侵入するのを避けることです。
ここでいう開口部とは、一般的なアルミサッシ単板ガラス窓を指し、この窓から屋内に入った直射光は熱に変わり、カーテンや障子があっても排出されず屋内に残り室温を上げます。対策は、太陽の動きと連動し、朝・夕の真横からの光に対し、屋外側で行うことが重要です。庇があり庭先に落葉樹の遮光帯があるのがベストですが、花ブロックの壁やルーバーといった通風をしながら遮ったり、庇を設けさらに木等のフレームでパーゴラを作りターフを掛けることも有効です。太陽高度の高い時間帯には短い庇さえあれば足りますが、深い庇と植樹帯があれば「そよ風が吹き、木漏れ日が差しこむ空間」を縁側に作れます=下断面図。これらは、6月16日号で紹介されたバッファーゾーン(緩衝空間)の考え方です。
遮熱については、外気温が32度で快適室内温度28度とすると温度差はたかが4度であるのに対し、無対策の屋根面では、表面最高温度70度近くになり温度差は42度、冷凍庫と室温の温度差に匹敵し、冷凍庫並みの断熱が求められます。風通しのいい日陰の面は外気温レベルと考えられ、対策として膜や植栽を這わす手法がありますが、メンテ・コスト面から現実的なのは遮熱塗料(高日射反射率塗料)等を塗ること。塗料メーカーによると白色は太陽光を最大87%反射でき、到達太陽光を13%まで減らし表面温度を外気温レベル近くまで落とせます。ただし、メンテナンスは重要です。
風土を考慮した郊外型住宅モデルプランの断面図。オレンジ線は太陽光の入射角。青線は風の流れ。深い庇と庭先の落葉樹が遮光帯に。庇の先にはパーゴラや着脱式ターフも設置。屋根は遮熱塗料で太陽光を反射。太陽電池・温水器は影を作る
研究・検証する環境を
梅雨時の多湿や盛夏の暑さは不快であり、空調機を使用することも大いに勧めます。また、沖縄で冬場の対策として、直射光を入れ屋内に熱をため込み逃がさない工夫も必要で、季節やその時点に適した対応が求められます。「風土に適した住まい」を確立するには、わが県においても南島型もしくは亜熱帯地域を視野に入れた建築研究所を設立し、新しい建築技術、蒸暑地域における住まいの研究、検証確認する環境を整える必要があります。
おおしろ・とおる
1960年糸満市生まれ。琉球大学機械工学科卒業。矢崎総業(株)空調開発研究所にてソーラーハウス・太陽熱温水器等研究開発。(株)盛設計勤務を経て、2006年独立、現在に至る。県建築士会会員、県建築士事務所協会会員、沖縄弁護士会住宅紛争審査会専門家補助員。糸満市建築設計協会会長。電話=098・992・3191
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1963号・2023年8月18日紙面から掲載