温故知新でつくる 島の新しい原風景|オキナワンダーランド [62]|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

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2024年3月29日更新

温故知新でつくる 島の新しい原風景|オキナワンダーランド [62]

沖縄の豊かな創造性の土壌から生まれた魔法のような魅力に満ちた建築と風景のものがたりを、馬渕和香さんが紹介します。 ( 文・写真/馬渕和香)

建築家 漢那潤さん

世界中の建築家たちが、一つの方向に向かっている。その流れのかなり先端に、僕はいるらしい-北欧の都市、コペンハーゲンで建築家の漢那潤さんはそんなことを考えていた。

昨年の夏のことだ。この街に135カ国の建築家や研究者らが集い、持続可能な建築をテーマに国際大会を開いた。環境建築の分野で先駆的な活躍をしてきた漢那さんは、日本代表に選ばれて現地で発表を行った。

「参加して分かったのは、僕がここ沖縄で抱えている課題を、実は他地域の建築家たちも抱えているということでした」

アジアでも、アフリカでも、南米でも、欧米流を追いかけて「コンクリートの箱」ばかりを建ててきたこれまでの建築のありようは、「われわれが目指すゴールではない」という認識が広まっていた。それぞれの地域が歩んできた歴史や独自の伝統や文化、足元にある地域の素材を改めて掘り起こし、「自分たちの建築、自分たちの社会風景をつくっていこう」という気運が高まっていることを知った。

「その勢いがすさまじい。僕ももっと頑張らないと、と気を引き締めて帰国しました」

数年前に母のルーツがある沖縄に移住してきた漢那さんは、画期的な木造建築を考案したことで知られる。沖縄の伝統的な木造家屋に「千年にわたる知の集積」を見いだして、現代の感覚でアップデートした新時代の木造民家「SHINMINKA(シンミンカ)」を発表し、権威ある建築賞をさらってきた。

しかし、シンミンカがどんなに称賛されようと、漢那さんにとって道はまだ半ばだ。到達したい地点は、果てしなく遠い。

「沖縄に木造文化を、美しい社会風景を取り戻したいんです。今、沖縄の景観は悪化の一途をたどっています。豪華なホテルが立ち並ぶ一方で、周辺の街並みは疲弊している。格差が丸見えで、目を覆いたくなる」

幼少期を過ごしたベネズエラで貧富の格差を目にしていたせいか、「公平さを望む気持ちが強い」漢那さんは、景観づくりのモデルケースとなりそうなプロジェクトを本島北部で始めた。計画では、外観に統一感を持たせた数軒の住宅と宿からなるミニ集落をつくる。住宅と宿に「ゆいまーる」のような互助関係を結んでもらい、住人側はローン返済が楽になり、宿側は施設の管理が楽になる「双方にメリットのある」システムを築く。

「建物単体を設計しているだけでは、美しい社会風景はつくれません。なぜなら、風景は経済その他の多様な要素が絡み合ってできるものだからです。風景を変えようと思ったら、その成り立ちの根っこまでさかのぼってデザインする必要がある」

将来的には、住宅と宿に加えて商店など各種施設を組み込んだ小規模コミュニティーを一から設計したいと考えている。

「範とするのは、沖縄の昔の集落です。高度に持続可能なコミュニティーを、昔の人は形成していた。現代の問題を解決する手だてを探っていくうちに、過去に行き着きました」

故(ふる)きをたずねて新しきを、漢那さんは知った。現代の空気をまとった新たな沖縄の原風景が、その手で紡がれていこうとしている。


「千年の知恵が集積した」沖縄の木造古民家を現代的に解釈し直した「SHINMINKA」を設計して注目される漢那潤さん。「高度に持続可能だった」昔の集落の良さを受け継ぐ、島の新たな原風景のデザインに取り組んでいる


漢那さんが開発を進めている「シンミンカヒルズ」のイメージ図。景観を統一するため、広い敷地、木造か混構造の平屋建て、寄棟屋根といった全棟共通のルールを定めた。隣の森は、材木を取るための共有林として残す(漢那さん提供)


8年前に本部町に建てた第一号「シンミンカ」。沖縄で主流を占めてきたコンクリート建築に代わりうる選択肢として、環境により優しく、現代性も備えた新たな木造建築の形を示し、日本建築家協会から環境建築賞の大賞を与えられた


東京で活動していた頃の作品。彫刻家である父譲りの鮮やかな立体造形が目を引く。「以前は、誰も考えたことのない斬新な造形を追求していた。今は、施主さんも周囲の人も満足し、景観や環境保護にも寄与する建築を心がけている」(漢那さん提供)


シンミンカを規格住宅化したセカンドライン、「日傘の家」。シンミンカのデザインを簡略化し、より低価格で提供できるようにした。66種類ある間取りパターンから選べる(漢那さん提供)


◆ISSHO建築設計事務所
電話=098・917・2842

=最終回


オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景


 


[文・写真]
馬渕和香(まぶち・わか)ライター。元共同通信社英文記者。沖縄の風景と、そこに生きる人びとの心の風景を言葉の“絵の具”で描くことをテーマにコラムなどを執筆。主な連載に「沖縄建築パラダイス」、「蓬莱島―オキナワ―の誘惑」(いずれも朝日新聞デジタル)がある。

『週刊タイムス住宅新聞』オキナワンダーランド 魅惑の建築、魔法の風景<62>
第1995号 2024年3月29日掲載

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