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2021年8月6日更新

[沖縄・メンテナンス]RC造を塩害から守る|水防ぎ悪化を抑える

塩分などが原因で鉄筋がさび、コンクリートがひび割れたり浮いて剥がれ落ちたりする塩害。沖縄は潮風が吹くほか、1970年代にできた建物には海砂を洗わずに使用されたものもあり、その被害が深刻化している。一方、築50年ほどたってなお現存する建物もあり、長く使い続ける・住み続けることは、SDGs(持続可能な開発目標)や歴史文化財の保護などの観点から重要だ。県建築士会は東京理科大学の今本啓一教授を招き、塩害を起こしている建物の補修・保護を目的に、参考事例となる今帰仁村立中央公民館で勉強会とワークショップを実施。低予算な補修で原因の一つである水を取り除く方法、その後の安全対策などを検討した。

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「鉄筋コンクリート造建築物 維持管理」ワークショップから建物の延命を考える

鉄筋がさびてコンクリートが剥がれ落ちた、今帰仁村立中央公民館の天井。建物を支える鉄筋が露出している。このような場所には屋根のモルタルに浮きやひび割れがある鉄筋がさびてコンクリートが剥がれ落ちた、今帰仁村立中央公民館の天井。建物を支える鉄筋が露出している。このような場所には屋根のモルタルに浮きやひび割れがある


鉄筋さびてコンクリート崩落

塩害によって鉄筋コンクリート造が受ける被害は、壁や屋根、ひさしといったコンクリート部分がひび割れ、浮いて剥がれ落ちるなどがある。原因は、コンクリート内部にある鉄筋がさびて膨張し、コンクリートを圧迫するため。これには潮風などに含まれる塩分が大きく関わっている。

本来、コンクリート内の鉄筋は保護膜のようなものに包まれてさびにくい環境にある。だが、塩分に含まれる塩化物イオンが保護膜を壊してしまうことで、さびやすい環境へと変化。そこに水と酸素が鉄筋に触れることでさび始める。東京理科大学の今本教授は「塩化物イオン、水、酸素の3要因で鉄筋がさびる。そのうち一つを防げば被害の悪化を抑えられる」と話す。
 
塩分が鉄筋のさびやすい環境をつくり、水と酸素がさびさせて、コンクリートにひびが入る。ひびからさらに水と酸素が入り込む悪循環が生じて塩害が進む
・外来塩分:台風や潮風などで飛来する塩分。建物表面に付着して徐々にコンクリート内に染み込む
・内在塩分:海水や除塩していない海砂などが材料に使われ、建築時からコンクリート内に存在する塩分

塩分が鉄筋のさびやすい環境をつくり、水と酸素がさびさせて、コンクリートにひびが入る。ひびからさらに水と酸素が入り込む悪循環が生じて塩害が進む



1970年代の海砂使った建物 脱塩に6万円/㎡

コンクリート内に塩分が入り込む理由は主に二つ。一つは潮風などによって外側から入り込む外来型。もう一つが、コンクリートの材料に除塩していない海砂や海水などが使われ、既に塩分が含まれた状態の内在型。「特に1960年後半から70年代にできた多くの建物に洗わないまま海砂が使われていた」という。

70年代は好景気の真っただ中で建設ラッシュ。沖縄は本土復帰を機にコンクリートの需要が増加したが、材料の入手が困難になり、洗わないまま海砂を使うケースもあったことがコンクリートの塩害が進む背景にあるという。現存している建物には深刻な塩害が起きており、メンテナンスが行き届かず共同住宅の外廊下が崩れ落ちるなどの事故も起きている。

内在塩分がある建物の対処法には「脱塩工法」がある。鉄筋がさびやすい環境をつくる塩化物イオンを、電気的な処置でコンクリート内から取り除く方法だ。これにより塩害の根本的な要因を取り除くことはできるが、「1平方㍍当たり6万円以上かかる」といわれ、建物全面に施すとなるとかなりの費用がかかる。

一方、悪化を抑えることを目的とするなら、酸素か水を取り除けばいいという。今本教授は「特に水を防ぐことでこれ以上の悪化を抑えると考えられる。内在塩分があっても、適切な防水とメンテナンスを施すことで、建物を長く使える可能性が出てくる」と話す。長く使う・住み続けるという視点やそのための手法は、今後SDGsの観点からも重要になってくるだろう。

コンクリートの石灰成分が流れ出して白く固まった「遊離石灰」。ひび割れが生じていて塩害などの可能性を示唆する
コンクリートの石灰成分が流れ出して白く固まった「遊離石灰」。ひび割れが生じていて塩害などの可能性を示唆する

 

屋根勾配生かし低コスト補修

今帰仁村立中央公民館で建築士・行政職員らが実践


今帰仁村立中央公民館 1975年完成
コンクリートの材料に除塩されていない海砂が使われた。屋根の仕上げ材に使われたモルタルが浮き、そこに水がたまったのが原因で塩害が深刻化。現在は利用者の安全を考え、使用を制限している。モダン建築の保全などを行う国際組織(DOCOMOMO)にも選定された


1975年に建てられた今帰仁村立中央公民館も未除塩の海砂が使われた建物の一つ。天井や梁はひび割れ、鉄筋が露出している部分も目立つ。

塩害悪化の原因は、屋根の仕上げ材のモルタルが劣化して浮き、屋根コンクリートとの間に雨水をためこんでいるため。本来なら、脱塩や防水、むき出しの鉄筋部分の補修などの工事が必要だが、今回は第一段階として、浮いたモルタルを剥がして水だまりを防ぎ、コンクリート内の水を自然発散させる。「塩を抜くのではなく、水を防ぐという挑戦的な手法。長い目で見て悪化を抑える可能性があり、経済的な手法でもある」と、今本教授は話す。

7月18日に同公民館の補修ワークショップ(主管・県建築士会まちづくり委員会、調査委員会)が行われた。建築士会会員はじめ、今帰仁村教育委員会や村外の行政職員など建物の維持管理に関心を持つ人々、東京の学生らも含め、30人程度が参加。

屋根に上り、表面をたたいて音の反響で浮いている部分を確認。割れ目にバールを差し込んで持ち上げると、厚さ2㌢以上のモルタルががばっと剥がれる。その下には黒ずんだ水の跡が残っていた。モルタルの浮きは、寄せ棟屋根の頂上部分に集中。「熱などで膨張・収縮して変形しやすいと考えられる場所で浮いている」のだという。


厚さ2センチ以上のモルタルがバールだけで浮いて剥がれる
厚さ2センチ以上のモルタルがバールだけで浮いて剥がれる

モルタルを剥がした後の水染み
モルタルを剥がした後の水染み


1~2年かけて水分抜く

全て剥がし終わった後は、新たにモルタルを段差部にすり込んでなめらかにした。屋根の勾配で自然に水が流れる特徴を生かしている。「陸屋根の場合は、きちんと防水工事したほうがいい。モルタルを盛って水勾配をつけるなども考えられるが、今後の検討課題だ」という。

今回計測した屋根コンクリート内の水分量(含水率)は6%前後。「今は水の中に漬けたような状態で、塩分があっても鉄筋がさびないとされる3・5%を大幅に超える」。今本教授は、これから1~2年ほどかけてコンクリート内の水分が抜けると予測するが、「それまでは鉄筋がさび続け、コンクリートが剥がれる可能性はある」という。

同公民館では今後、屋根表面に水の浸透を抑える保護材を塗り、経過観察を行う予定。「内在塩分は人間でいえば一種の病気。病原は取り除ききれないものの、病気と共に生きる患者と思って、地域の人々にもこの建物を見守ってほしい」と今本教授は話した。


剥がしてできた段差を新たにモルタルで埋め、水がモルタルとコンクリートの間に入り込むのを防ぎ、自然に流れ落ちるようにしている
剥がしてできた段差を新たにモルタルで埋め、水がモルタルとコンクリートの間に入り込むのを防ぎ、自然に流れ落ちるようにしている


補修作業後にあいさつする今本教授。「施設を当面安全に利用するためには、コンクリート落下防止ネットを張るなどの対策が必須」と呼びかけた
補修作業後にあいさつする今本教授。「施設を当面安全に利用するためには、コンクリート落下防止ネットを張るなどの対策が必須」と呼びかけた
 

取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1857号・2021年8月6日紙面から掲載

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