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2023年1月20日更新

グラナダ 夕陽に染まる宮殿[スペインタイル紀行⑩]

文・写真/山内直幸
修道院の中庭は朝霧に包まれていた。静寂の中、庭の中央にある噴水のしぶきとタイルの回廊を歩く自分の靴音だけが響いている。

グラナダ
夕陽に染まる宮殿

アルハンブラ宮殿にあるライオンの中庭。回廊の鍾乳石飾りが美しい
アルハンブラ宮殿にあるライオンの中庭。回廊の鍾乳石飾りが美しい

修道院の中庭は朝霧に包まれていた。静寂の中、庭の中央にある噴水のしぶきとタイルの回廊を歩く自分の靴音だけが響いている。

スペイン南部の都市・グラナダの「アルハンブラ宮殿」。その中にあるここ聖フランシスコ修道院は現在、国営ホテルとして使われている。

正方形の中庭はアーチで囲われ、それを支える円柱には緑のつたが巻きついている。回廊を抜けれんがのアーチに突き当たった。ヒンヤリとした足元の大理石には「女王イザベル」で始まる文章が刻まれている。そこにあったのは、あのイザベル女王の墓標である。あまりにも質素ではないか。800年にわたってイスラムに支配されていたスペインの国土回復を成し遂げ、イスラム王朝の最後の城、アルハンブラ城を陥落させた女王をこの国で知らない人はいない。コロンブスを雇いアメリカ大陸への進出とスペインの黄金時代を築いた女王だ。後に知ったことだが、彼女の亡骸(なきがら)は自らの遺言によりこの修道院に埋葬されたそうだ。その後、棺(ひつぎ)はグラナダ市内にある大聖堂の立派な王室礼拝堂に移された。


優れた芸術と技術

アルハンブラ宮殿最大の魅力は、その心臓部「ナスル朝宮殿」で見られる。ライオンの中庭、壁を飾る繊細な彫刻、鍾乳石飾りなどの装飾はイスラム美術の最高峰とも評されている。さまざまな形のモザイクタイルを組み合わせ、アラベスク模様(植物やアラビア文字などをモチーフにした模様)に仕上げた壁や円柱が13世紀当時のまま残る。このモザイクタイルこそがスペインタイルの原点と言ってもいいだろう。

宮殿内の馬蹄(ばてい)アーチの窓からふと外の景色を眺めた。小高い丘を背に高い糸杉の合間、白壁の家々が見える。11世紀にイスラム教徒によって築かれたグラナダ最古の美しい街並みが残るアルバイシン地区だ。栄枯盛衰を生きたイスラムの王族たちの目にこの景色はどのように映っていたのだろう。頭の中に名曲「アルハンブラの思い出」のギターが響いてきた。
 
◇      ◇      ◇

時間があるなら離宮・ヘネラリフェまで足を伸ばしてほしい。背後にそびえるシエラネバダ山脈は年中白雪をかぶり、その雪解け水が何キロも離れたこの離宮まで引かれている。高低差を利用して造られた噴水が水しぶきをあげ、緑と花々に囲まれた細長い池に注いでいる。砂漠の国からきた人々にとって潤沢な水を享受できることが豊かさの象徴なのだ。当時のイスラム人がタイル技工や建築技術だけでなく優れた土木技術を持っていたことが分かる。

ところで、その雪解け水はアルハンブラ宮殿内の側溝にも流れている。水は冷たく澄んでいるので、すくって飲んだ当社の社員がいるがマネしないでおこう。彼は翌日までトイレを往復した。
 
ジプシーのフラメンコ。洞窟のレストラン「ラ・ロッシオ」にて(サクロモンテ通り)
 
夕暮れの赤い城

アルバイシン地区では白壁の家々の合間を迷路のような路地が入りくんでいる。夕方、丘の上にあるサンニコラス教会を目指し石畳の小道を登る。教会前の広場からダロ川を挟んだ谷の向こう、夕陽(ゆうひ)に赤く染まるアルハンブラ宮殿が見えた。アラビア語の「アルハンブラ(赤い城)」そのものである。背後に雪を冠したシエラネバダ山脈が薄紅色に染まっていた。

近くの丘にはこの地に移り住んできたジプシーたちが掘った洞窟住居が点在している。今では洞窟のレストランでジプシーの伝統的なフラメンコを楽しむことができる。


山内直幸
執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。米国留学より帰国後、外資系の商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「(有)パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950年~60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。

㈲パンテックコーポレーション
宜野湾市大山6-45-10  ☎098-890-5567

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1933号・2023年1月20
日紙面から掲載

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