地域情報(街・人・文化)
2022年10月21日更新
スペインタイル紀行⑦
文・写真/山内直幸
漆黒の大西洋に注ぐテージョ川、岸辺にひしめくオレンジ色の光。「こんなに遠くまで来たんだ」。機内からの夜景を眺めながら、そんな想(おも)いに浸る。ここはヨーロッパ最西端の港町リスボン(ポルトガル)。空港で拾ったタクシーを降りた時には真夜中になっていた。そして目に飛び込んできたのは、暗い夜空にあやしく光る「サンタ・ジュスタのエレベーター」だ。
ポルトガル編(上)
丘の街リスボン
あやしく光る鉄の塔
漆黒の大西洋に注ぐテージョ川、岸辺にひしめくオレンジ色の光。「こんなに遠くまで来たんだ」。機内からの夜景を眺めながら、そんな想(おも)いに浸る。ここはヨーロッパ最西端の港町リスボン(ポルトガル)。空港で拾ったタクシーを降りた時には真夜中になっていた。そして目に飛び込んできたのは、暗い夜空にあやしく光る「サンタ・ジュスタのエレベーター」だ。1902年に完成した高さ45メートルの鉄製の塔は低地バイシャ地区と高地バイロ・アルト地区を結ぶ現役のエレベーターである。夜空に浮かぶ物体から光の柱が降りてくる姿は異次元的で、120年も前からあったとは驚きだ。
夜空に浮かぶ「サンタ・ジュスタ」のエレベーター
心揺さぶる「ファド」
リスボンには「カーザ・デ・ファド」と呼ばれるファド(ポルトガルの大衆歌謡)レストランが多く、女性歌手がギターを伴奏に愛の嘆きや「サウダーデ(哀愁)」を歌う。
アルファマ地区の「リニャーレス」というレストランでのこと。深夜11時、すべての歌手が歌い終わり観光客のグループが帰った。帰り支度を始めた矢先、女性オーナーが「皆さんは幸運です。今夜はタバレスさんがお見えです」と隣のテーブルでタラ料理を食べ終えた女性を紹介した。そして歌い出した彼女の歌は切なさと憂いに満ち、旅人の心を揺さぶった。飛び込みで歌ってくれたのはラクエル・タバレスというファド歌手である。忘れられないリスボンでの夜だった。
◇ ◇
この街の風情のひとつに古い街並みをガタガタ走るレトロな路面電車がある。観光をするなら28番線に乗ろう。グラサ地区やリスボン大聖堂などへ行ける。ポルタス・ド・ソル広場で途中下車し、丘の上から眺める赤瓦の屋根とテージョ川は情緒がある。リスボンは七つの丘の街と言われ、坂道が多い。そこで、もうひとつ市民の足となっているのがケーブルカーだ。3路線あるが、ビッカ線はおすすめだ。かわいらしい車体がテージョ川を背に急な坂道を登る。絵はがきのような一枚が撮れるだろう。
修道院を改築した国立アズレージョ(タイル)美術館もリスボンにあり、礼拝堂の素晴らしいタイル絵が残されている。15世紀にスペインに伝えられたタイルの技法はポルトガルに伝わり、各地で青いタイル絵が作られた。街を歩くと古い教会や屋敷の外壁を飾った美しいアズレージョを発見できる。
飛ばし屋タクシー
夕方、電車でリスボンの西にある街・シントラに着いた。ロカ岬へはその日のうちに行きたかったのでタクシーに乗る。運転手は70過ぎのクリント・イーストウッドに似たハンサムで声も渋めの男だ。名前はジョルジュ、昔ロンドンで役者をしていたらしい。道理で英語も流ちょうだ。
「夕暮れまでにロカ岬に行けるだろうか?」と聞いたのを後悔した。ジェットコースターのようなスピードでいくつもの丘を越え、夕暮れに間に合わせてくれた。役者というよりスタントマンだろうと思った。途中何度も「間に合わせなくていい」と言ったのに。
◇ ◇
大西洋に沈む夕日は心に染みた。ユーラシア大陸の西の端、ロカ岬。ポルトガルの詩人カモンイスが「ここに地果て、海始まる」と詠んだ景色が絶壁の向こうに広がっている。
ユーラシア大陸の最西端、ロカ岬に沈む夕日
執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。米国留学より帰国後、外資系の商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「(有)パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950年~60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。
㈲パンテックコーポレーション
宜野湾市大山6-45-10 ☎098-890-5567
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1920号・2022年10月21日紙面から掲載