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2023年1月20日更新

ヤシ類を都市緑化の主役に 見直されるべきヤシの特徴[街中のみどり⑨]

文・写真/武田慶信
住宅地が無秩序に広がり、道路と駐車場に地面を取られて、自然環境の代名詞である植物が街の中で生きながらえる余地はないのではないかと危惧される現代。

 住 宅地が無秩序に広がり、道路と駐車場に地面を取られて、自然環境の代名詞である植物が街の中で生きながらえる余地はないのではないかと危惧される現代。

ところがどっこい、そうはさせないと「緑の反撃」を呼びかける動きもあってホッとする。太古の昔から琉球列島のあるじとして繁茂したアカギやガジュマルを再評価して重宝する動きもうれしい。

例えば、その緑の反撃の先鋒(せんぽう)として推奨されているのが、世界に3千種以上もあるヤシの仲間だ。ラグビーボールほどの大きな実をつけるココヤシや、大豆ほどの実をつける一種一属のヤエヤマヤシ、そのほかあまり知られていない種類にも注目し、琉球列島で導入・増殖させて一挙に沖縄県を「ヤシの島」にしてしまおうというアイデアもある。
 
那覇市の国際通りに植えられているヤエヤマヤシ
那覇市の国際通りに植えられているヤエヤマヤシ

折れにくく狭い土地でも育つ

考えてみれば、ヤシほど優れた植物はない。まず第一に、「ヤシの幹は非常に折れにくい」。人々は気付いていないかもしれないが、台風銀座の沖縄でもヤシ類の幹が折れているのを私は見たことがない。これは、幹の内部に数千本の丈夫な繊維が束ねられていて、毛細管現象で水分を通しながら母体を支えているからだ。農耕地を囲む防風林として活用すれば、暴風時には臨時にネットを張るだけで十分になる。

第二に、「ヤシは木陰を作らない」。午前中は西に、正午には真下に、午後には東に影を落として、自身の木陰を固定しない。これはサトウキビ畑、果樹・野菜畑にうってつけの特性と言えるだろう。

第三に、「広い面積を必要としない」。アカギやガジュマルなどのように枝葉を広げず、ほんの1平方メートルほどの土地があれば生きられる。この特性は都市緑化の主役としては最適と言えよう。鉢植えにして、都会のベランダを飾るのもいい。
 
那覇空港前の通りに植えられたマニラヤシ
那覇空港前の通りに植えられたマニラヤシ

食材や日用品にも

ヤシ類の第四の特徴としては「食材となる種類が多い」。南方にはココヤシの新芽と果実を食材として利用している地域も多く、ブラジル原産のアサイというヤシは実の栄養分が世界一高いとも言われている。さらには、住まいの屋根や柱、工芸品、ロープ、たわし、容器など、生活用品にも多用されている。

最後に、その美しい姿だ。一本の幹に下枝なしで空中に葉を展開する潔さは見事というほかない。

私は十数年前に、ヤシの木のプラントハンターをしているジェフ・マーカス氏と出会い、海洋博で講演もしてもらった。彼のような人物に、ヤシの有用品種を依頼するのもいいと思う。沖縄の全ての土地に、世界中のヤシ類が林立すれば、世界のどこにもない壮大な観光資源になるだろう。

那覇市とまりん前に植えられたナツメヤシ
那覇市とまりん前に植えられたナツメヤシ
 
 


執筆者
たけだ・よしのぶ/1943年、奄美大島生まれ。亜熱帯花木造園家。82年、県緑化センター設立参画。87年、オリオンビール花の国際交流熱帯花木130万本育苗配布参画など。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1933号・2023年1月20
日紙面から掲載

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