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2021年1月8日更新

[第6回沖縄建築賞を終えて 正賞受賞者と審査委員長が語る「沖縄の建物に必要な要素」]気候にあらがわず「取り込む」

本紙1826号(1月1日発行)に引き続き、「第6回沖縄建築賞(主催:同実行委員会)」の審査委員長・古谷誠章氏、正賞受賞者の大嶺亮氏と細矢仁氏の座談会を掲載。「沖縄の建築に必要なこと」について語った。3人に共通していたのが、「厳しい環境と対峙するのではなく、共存する」という考え。古谷氏は、「沖縄における快適な家とは、外とつながり変化を体感できる住まいではないか。昔からやられていることではあるが、そこにはコロナ禍における新しい生活様式のヒントが詰まっている」と話す。

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沖縄の建築について語る3人。※伊良波氏はリモートで参加(2020年11月22日、浦添市の沖縄建築会館)​


審査委員長/古谷誠章氏(建築家、早稲田大学教授)


住宅建築部門正賞 大嶺亮氏(ファイブディメンジョン 一級建築士事務所)​


一般建築部門正賞 細矢仁氏(一級建築士事務所 細矢仁建築設計事務所)


進行・伊良波朝義(沖縄建築賞実行委員長、日本建築家協会沖縄支部長)
※伊良波氏はリモートでの参加



防御するだけでなく楽しめる造り(大嶺)

(伊良波)沖縄に適した建築とはどういうものか。どんな視点が必要だと思うか。

(大嶺)地理的には亜熱帯で、日本本土とは全然違う。東南アジアの方が近い。台湾やタイの建物はすごくおおらかだが、沖縄には強烈な台風が来る。風の影響、塩害も含めてものすごい。亜熱帯のおおらかな造りに加えて、台風の厳しさにしっかり対応しないといけない。だけど、防御するだけではつまらない。取り込んでしまう、という考え方もあるのではないか。
僕が子どものころ、台風襲来はちょっとしたイベントだった。サッシがガタガタ揺れて怖かったけれど、どこかワクワクしたのは「壊れない」という安心感に担保されていたと思う。しっかり造りつつ、厳しい気候をポジティブに取り入れると、ここでの暮らしをより楽しめるんじゃないかな。

(古谷)家を隔絶するのではない、と。

(大嶺)もちろん、雨戸を閉じて隔絶するのも一つの策。でも僕は、安全な家から窓越しに荒れている様子を見られるようなつながり方を考えている。(例が大嶺氏設計の「立体路地を持つ都市住宅」)

(細矢)僕も、環境にあらがうだけではダメだと思う。沖縄は湿気だったり台風だったり、厳しい気候に目が行きがちだけど、カラリと心地よい日もある。それを体感し、建築に携わってきて思うのは「たくさんの素材を使い過ぎない方が良い」ということ。多様な環境に対応するには使う材種を少なくし、構造をシンプルにする。つまり、外部の影響を受ける要素を少なくする。
仕上げ材も少なければ少ないほどいいはずで、与条件に対して配置や躯体などの素形で回答する。例えば家の庇を伸ばせば、直射日光がだいぶカットされる。開けば風が通る。気候風土に応じた配置や躯体の素形を考え、セキュリティーを確保しながら街に対して居場所を開いていくことが快適な住まいや街並みを考える上で、すごく重要だと思う。


大嶺亮さん設計 立体路地を持つ都市住宅
人通りの多い都心に建つ二世帯住宅。半屋外空間の「立体路地」=下写真=を組み込み、「室内にいても風の流れやにおい、空気を感じられるようにした」と大嶺さん。室内との間の窓には「アルミサッシを採用。台風のときの安心感を重視した」


仕上げ・構造シンプルに素形や配置で対応(細矢)

細矢仁さん設計 ㈱技建新本社ビル
薄肉コンクリート(HPC)を外観にあしらった=下写真。HPCがやわらかく日差しを遮りつつ、風は通す。その風を存分に取り込むべく「大きなサッシ部=上写真=も開け放てるようにしたかったけど、オフィスビルでオープンな造りはなかなか難しい。でも今後、チャレンジしたい」と細矢氏


内外つなぐ伝統の知恵 コロナ禍に必要(古谷)

(古谷)厳しい環境に対して防御一辺倒ではなく、体で感じられるつながりを持つという視点は大事。台風の接近を感じるとか、外の湿度が高いから窓を閉めようとか、変化を感じてカバーできる造りというのが、沖縄で快適な家を造る一つの方法かもしれない。
コロナ禍、東京にいると息苦しさを感じることもある。自宅に庭があっても、周辺から苦情がくるのでバーベキューすらできないという場所もある。沖縄の住まいは外とつながり、戸外空間を楽しんでいる。このスタイルは、とても粋だなと思う。新しい生活様式のヒントが詰まっている。

(伊良波)外部環境を取り込むという考えは、昔ながらのもの。沖縄の建築は、影と風をいかに取り込むかということを大事にしてきた。
例えば那覇では毎秒5・3㍍の風が吹いている。これは本州の岬の先端と一緒。大嶺さんが設計した「立体路地を持つ都市住宅」のような風を取り込む造りは、風の吹かない東京で建てるよりも沖縄に適している。改正建築物省エネ法の影響で高気密・高断熱への気運が高まっているが、外部環境を取り入れる建築こそ、沖縄らしいと思う。

(細矢)実は技建新本社ビルでできなかったのが、大きなサッシ部を開け放てるようにすること。天気がいいときはオープンにしたら、もっと気持ちよい環境になったと思う。ただ、風で書類が飛んでいっちゃうかな。

(大嶺)紙の書類がなくなればできると思う。リモートやオンラインでの仕事が進んでいるし、可能になる日は近いんじゃないかな。

(古谷)二人の話を聞いていると、昔から沖縄の人たちが大切にしてきた「伝統空間」を現代建築に翻訳した、ということをすごく感じた。

(細矢)そう言ってもらえると非常にうれしい。古谷先生もおっしゃっているけど沖縄で昔からやられてきたことは、コロナ禍において本土でも普遍的な回答になると思う。特にオフィス空間に採用していければ、新しいオフィスや働き方の発信につながるのでは、と思っている。

前回の座談会の模様はこちらから

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1827号 2021年1月8日紙面から掲載

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