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2023年1月13日更新

構造デザインされた鉄筋コンクリート|セメント工場前バス停(名護市)[探訪PartⅡ(31)]

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

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構造デザインされた鉄筋コンクリート

セメント工場前バス停(名護市)

鉄筋コンクリート造は砂利、砂、セメントそして水を混ぜて作る液状のコンクリートを鉄筋が配置された型枠の中に流し込んで作る建築構造だ。どこででも入手しやすい安価な建築資材で、しかも難しくない建設施工技術で造ることができる建築工法である。

コンクリートそのものは古代ローマ時代からあったが、現在のような鉄筋コンクリート造は19世紀にフランスで、園芸用の植木鉢の強度を上げるために金網とコンクリートを組み合わせることに始まった。20世紀になって、建築家オーギュスト・ペレやコルビジェなどが、高い強度や自由に造形できる点に注目し、それまでの石造やレンガ造でできなかった大開口や大空間の建物を鉄筋コンクリートによって造った。資材の入手しやすさと簡易な施工方法や経済性、そして自由な形が造れるため、この鉄筋コンクリート構造の建物は急速に世界中に広まった。

戦前まで沖縄は木造が主であった。当時は地元に資材としての木材もあり、優秀な職人もいた。しかし戦後復興期、地元に資材や職人も少なくなり、しかも度重なる巨大台風の来襲やシロアリの問題を解決するために、米軍基地建設でのコンクリートブロックや鉄筋コンクリート造の新施工技術を見習い、木造から鉄筋コンクリート造へ移行した。1960年頃、鉄筋コンクリート建物推進のための琉球政府の融資条件の優遇措置やセメント工場や鉄筋工場が地元にできたことによって、沖縄では鉄筋コンクリート造の建物が一般化し主流となった。しかし、これらの建物を見ると、機能性を満たす広さのラーメン構造や壁構造の四角い箱が多く、自由な形ができる鉄筋コンクリート造の特徴が生かされた建物が意外と少ない。

セメント工場前バス停の側面写真。根元200mm厚、先端80mm厚の曲面屋根スラブには3カ所のリブと先端梁がある。先端部分は地面から高さ2.1mほどしかなくコンパクトで、ベンチに座れば囲われているような不思議な空間を感じる
セメント工場前バス停の側面写真。根元200mm厚、先端80mm厚の曲面屋根スラブには3カ所のリブと先端梁がある。先端部分は地面から高さ2.1mほどしかなくコンパクトで、ベンチに座れば囲われているような不思議な空間を感じる

上写真:斜め前方から見たバス停全景下写真:前面から見たバス停全景(設計者・竣工年月日不明)
上写真:斜め前方から見たバス停全景 下写真:前面から見たバス停全景(設計者・竣工年月日不明)

薄い曲面のバス停

6年前、建築構造家・渡辺邦夫氏の日曜講座が沖縄で1年間毎月開催された。その講座のメインテーマは「構造デザイン」で、建物の構造資材の特性を生かした構造設計の重要性と可能性を問う話は興味深かった。海外の構造デザインされた鉄筋コンクリート造の建物の話は、沖縄の建物のより良い可能性を知らしめ、耐久性、経済性、合理性、造形面から大いに役立つのではないかと思った。

どこかわかりにくい「構造デザイン」だが良い例が沖縄にもある。名護市屋部の国道449号の旧道にある琉球セメント工場前の「セメント工場前」バス停である。地面から薄い曲面のコンクリート屋根が張り出した明快な形の小さい建物である。ダンプの往来する旧道沿いの片隅にあるが、このバス停のベンチに腰掛けてみるとどこか別世界にいる感じがする建物だ。通りすがりにぜひ見てほしい建物だ。

上下写真:ロンドン動物ペンギンプール。1934年竣工、建築家バーソルドリュペトキン、構造家オブ・アラップ。プールの上にらせん型の2本のスロープが交差する独特の構造。当時、新素材の鉄筋コンクリート建築の可能性を示すものとして評価された。(写真提供 上:ロンドン動物園、下:ワキ・ヒロミチ)上下写真:ロンドン動物ペンギンプール。1934年竣工、建築家バーソルドリュペトキン、構造家オブ・アラップ。プールの上にらせん型の2本のスロープが交差する独特の構造。当時、新素材の鉄筋コンクリート建築の可能性を示すものとして評価された。(写真提供 上:ロンドン動物園、下:ワキ・ヒロミチ)
上下写真:ロンドン動物ペンギンプール。1934年竣工、建築家バーソルドリュペトキン、構造家オブ・アラップ。プールの上にらせん型の2本のスロープが交差する独特の構造。当時、新素材の鉄筋コンクリート建築の可能性を示すものとして評価された。(写真提供 上:ロンドン動物園、下:ワキ・ヒロミチ)

ペンギンプールスロープの配筋状況。スラブ厚は外側が90mm厚、内側が150mm厚。(写真提供ロンドン動物園)​


[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1932号・2023年1月13日紙面から掲載

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