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2022年12月16日更新
スペインタイル紀行⑨
文・写真/山内直幸
スペインの首都、マドリードのアトーチャ駅に一歩足を踏み入れると、そこは熱帯の植物園だ。
アンダルシア(コルドバ、セビリア)、マドリード編
「共存」の教会
こころ癒やされる駅
スペインの首都、マドリードのアトーチャ駅に一歩足を踏み入れると、そこは熱帯の植物園だ。ガラス張りの高いドーム天井に向かってヤシの木が伸び、池に囲われた何百もの植物が生い茂っている。木々の上からは霧が降り、まるでジャングルだ。駅舎の中にある4千平方メートルもの庭園は「ソフィア王妃芸術センター」につながっている。あのピカソの傑作、スペイン内戦を描いた「ゲルニカ」が展示されている美術館だ。熱帯林の緑に見とれて列車に乗り遅れないようにしよう。
アトーチャ駅からスペイン国鉄が運営するAVE(高速列車)に乗りアンダルシア地方をめざす。列車はマドリードの街並みをゆっくり抜け、どんどんスピードを上げる。ドンキホーテの舞台、ラマンチャ地方に差しかかると車窓にはオリーブ畑と赤く乾いた大地が続く。乗り心地は日本の新幹線と変わらない。2時間近く走るとアンダルシア地方の県都の一つ、コルドバに到着する。
駅でタクシーを拾い、観光地「メスキータ」近くのユダヤ人街で降りた。スペインと言って日本人の多くがイメージするのはフラメンコや白い家々、闘牛であろう。それはアンダルシアの情景そのものだ。小道を歩くと白壁の家が並び、壁には鉢植えの花が咲く。
どこからともなくスペインギターの音色が響いてきた。あの「アランフェス協奏曲」のメロディだ。小道の突き当たりに小さな広場がある。10人ほどの観光客を前にギターを奏でていたのは、なんと日本人のギタリストであった。日本人に会った懐かしさなのか、曲の美しさからなのか、胸に熱いものが込み上げてくる。彼の前に置かれた箱はチップでいっぱいだった。
コルドバにある大モスク「メスキータ」の内部。紅白のアーチと大理石の柱が印象的な「円柱の森」
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メスキータはイスラム教徒によって8世紀に建設が始まり200年かけて完成した。2万人以上を収容できる、世界でも最大級のモスクだった。
礼拝堂に入ると赤と白の模様入りのアーチが何百と連なり、千本近くの大理石の柱が支える。砂漠のオアシスに林立するヤシの木を表現したのだろうか、「円柱の森」と呼ばれる幻想的な空間だ。
メスキータは13世紀前半にキリスト教徒に奪還されカトリックの荘厳な大聖堂に改築された。彼らはモスクの中央に天井高く白い大理石のドームを造り、ステンドグラスをあしらった。しかし、イスラム教徒にとって大切な祈祷(きとう)場は壊されることなく残され、赤と白のアーチと円柱の森も保存された。二つの宗教が融合した巨大空間は世界にも類を見ない建築物であり、世界遺産に登録されている。「共存」、今こそ必要なテーマだと思う。
セビリアの春祭り
コルドバ駅からセビリアまではAVEで40分ほど。訪れた時はフェリア(春祭り)の真っ最中だった。スペイン三大祭りの一つ、セビリアの春祭りでは、会場に「カセタ」と呼ばれる個人所有の大きなテントが千張り以上連なる。人々は昼夜を問わず飲んで食べて歌い、踊り明かす。女性たちは大きな花飾りを頭にさしカラフルな衣装を身にまとう。普段は地味な男たちもタイトなズボンとスーツ、つばが平らなコルドバ風ハットをかぶり粋でいなせな男に変身する。
伊達(だて)男たちは女性を馬に乗せ、さっそうと会場入りする。女性たちはフラメンコ曲「セビジャーナス」を満面の笑みで踊っている。生きている喜びを皆で分かち祝う、そんなお祭りである。
セビリアのフェリア(春祭り)に、さっそうと馬で会場入りする男女
執筆者
やまうち・なおゆき/沖縄市出身。米国留学より帰国後、外資系の商社勤務を経て1995年、スペインタイル総代理店「(有)パンテックコーポレーション」を設立。趣味は釣りと音楽、1950年~60年代のジャズレコードの鑑賞、録音当時の力強く感動的な音をよみがえらせるべく追求。
㈲パンテックコーポレーション
宜野湾市大山6-45-10 ☎098-890-5567
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1928号・2022年12月16日紙面から掲載