日本/屋久島の古民家|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑨|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

スペシャルコンテンツ

2022年12月16日更新

日本/屋久島の古民家|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑨

文・写真/本竹功治
早朝パチパチと薪ストーブが鳴り始めると、ヒトも犬も鳥も虫も一斉に動き始める。ここは鹿児島県・屋久島にある小野さん宅だ。小野さん家族が住む家は、廃屋を自ら修繕した築100年を超える古民家。ひと月に35日雨が降るといわれる屋久島で長年雨風にさらされ腐敗し屋根すらなかった廃屋を、嫁と子供も一緒にテントで2年間も寝泊まりしながら修繕したという。そんな小野さんの住まいに対する気付きが、建築に対する僕の価値観を大きく変えてくれた。

生き物と棲み分ける家

早朝パチパチと薪(まき)ストーブが鳴り始めると、ヒトも犬も鳥も虫も一斉に動き始める。ここは鹿児島県・屋久島にある小野さん宅だ。小野さん家族が住む家は、廃屋を自ら修繕した築100年を超える古民家。ひと月に35日雨が降るといわれる屋久島で長年雨風にさらされ腐敗し屋根すらなかった廃屋を、嫁と子供も一緒にテントで2年間も寝泊まりしながら修繕したという。そんな小野さんの住まいに対する気付きが、建築に対する僕の価値観を大きく変えてくれた。
 
築100年の小野さん宅。一部を土間にし、床下にも目が届く。
築100年の小野さん宅。一部を土間にし、床下にも目が届く。木造軸組みの骨組みはすべて目が届くようになっている


虫たちが素通りしていく屋内

廃屋を購入して間もない頃の悩みはシロアリだったそうだ。長年放置された家はアリたちの格好の棲(す)み処(か)となっていた。被害のある材を修繕しては食われ、購入したての材も食われた。いっそのこと防虫剤でやっつけようと思ったこともあったそうだ。しかし、自然豊かな屋久島に移住してきた彼は立ち止まり、シロアリと仲良くなろうと決意した。

アリの行動を観察していくと、あることに気付く。彼らの生活は至ってシンプルで、他の生物と棲み分けたいだけなのだ、と。

小野さんはアリたちが好む床下や屋根裏、壁の中と、ヒトの目が届かない場所を一つ一つ探しては目も手も行き届くような造りへと修繕していった。すると木造の骨組みがあらわになって、床下も天井裏も風通しが良くなり、心地よい自然な住まいになっていったのだ。「なんだ、ヒトがいるのか」と、引っ越していったシロアリや他の生き物たちは今でも家の中に入ってくるが、面白いことに「やぁ、こんにちは」という感じで素通りしていくし、ニワトリもそれを追いかけ土間を行き来し、犬ものこのこやってくる。これこれ、アジアの家ってこんな感じだよね! と、僕が日本で一番好きな家となった。
 
早朝、ニワトリが屋根を駆け回る音で目が覚める。
早朝、ニワトリが屋根を駆け回る音で目が覚める。畑には手作りのコンポストがあり、循環式の暮らしをしている


住むから棲むの視点へ

「住む」と「棲む」。住むはヒトが生活し暮らすことを意味する。棲むとは生き物が巣を作り生息することを意味し、そこではヒトと生き物は区別される。現代の一般住宅では土壌処理から始まり、防虫材、高気密と外部からの侵入者を阻止する。しかし小野さんの家は住まいでありながら他の生き物たちと共生する棲まいでもある。

いまや住宅は自然と共存する場を失い、ものすごい勢いで価格が高騰し競争される商品となっている。ゆいまーるで家づくりをしていた頃は、木も竹も建材ではなく生き物だったし、住まいは市場のものではなく生活の営みだったはずである。現代でも小野さんのように「住む」から「棲む」に少し視点をかえてみるだけで、自然と共存する生き方のヒントが見えてきそうだ。



本竹功治
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1928号・2022年12月16
日紙面から掲載

タグから記事を探す

この連載の記事

この記事のキュレーター

スタッフ
週刊タイムス住宅新聞編集部

これまでに書いた記事:2128

沖縄の住宅、建築、住まいのことを発信します。

TOPへ戻る