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2022年11月18日更新

カンボジア/設計失敗談(工程編)|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑧

文・写真/本竹功治
いつぶりだろう? 2020年の末に帰沖して以来だから、まる2年ぶりの海外渡航だ。久しぶりに取り出したパスポートの期限はまだ大丈夫、しかし心配事は尽きない。すんなり飛行機に乗せてくれるのかな? トランジットや入国は問題ないかな? チムドンドン。

盛大に祝い過ぎる結婚式

いつぶりだろう? 2020年の末に帰沖して以来だから、まる2年ぶりの海外渡航だ。久しぶりに取り出したパスポートの期限はまだ大丈夫、しかし心配事は尽きない。すんなり飛行機に乗せてくれるのかな? トランジットや入国は問題ないかな? チムドンドン。

しかしバンコクに降り立った途端、僕の心配事はあっさりと吹き飛ばされた。海外渡航者の多いこと! いつの間にか世界はまた開いていたのね。と、頭をサッとコロナ前に切り替え、バンコクから陸路でカンボジアへ向かった。
 
カンダール地方の結納の席に呼ばれたときの1枚。新婦の父が自ら鍋を振り、みんなに振る舞う
カンダール地方の結納の席に呼ばれたときの1枚。新婦の父が自ら鍋を振り、みんなに振る舞う


初めての現場で事件

「わ~コージさん!」と懐かしい声。迎えてくれたのは一緒にチームを作っていた職人のコソールだ。「僕、結婚しました!」とうれしい報告、そして「子供ができました!」おお! それまためでたい。「ティアもティンもです」おお、ええ? なんと他のメンバーたちまで子供がいる。お前たち、コロナ禍で暇だったのかい(笑)? と、うれしさと同時に、僕はカンボジアでの初めての現場を思い出していた。

そう、あれは結婚式事件。当時、職人の一人が田舎で式を挙げるというので、僕は皆に小遣いを支給し、翌日の工事の内容だけを確認して見送った。翌日、翌々日、そして10日が過ぎたが…誰も帰ってこねぇ~~(笑)

それもそのはず、カンボジアの結婚式は三日三晩続くのだ。ビールを飲み、食っては踊りを繰り返し、みんな祝い疲れてなかなか現場に戻ってこない。そもそも田舎が恋しくなり過ぎて、そのまま帰ってこない職人もいる。

初めての現場に張り切って、壁に大きく張りだしていた工程表は、その日を境にただの紙切れに変わった。僕はそれでも工期に間に合わせようと一人で現場を進めていた。まだこの国の3大イベントなるものの存在を知らずに…。
 
よくある田舎の民家。高床の下は、部屋にも庭にも、イベント会場にもなる便利な場所
よくある田舎の民家。高床の下は、部屋にも庭にも、イベント会場にもなる便利な場所


工程表より祝祭日カレンダー

カンボジアで現場工程表を作る時、考慮しなければ必ずと言っていいほど失敗する三つのイベントがある。4月のお正月、9月のプチュンバン(お盆)、11月の水祭りだ。この前後数日(出身地により数週間)は一斉にオフモードに入る。それとは別にイレギュラーで行われる結婚式は沖縄でいう台風シーズンと一緒で、多い年になると現場はぜんぜん進まない。

当初、僕は一人でもせっせと働いていたが、時々、職人の田舎で一緒に正月や盆を過ごしたり、結婚式に顔を出したりするうちに、彼らが何よりも家族のだんらんを楽しみにしていることを知っていった。「郷に入れば郷に従え」。いつのまにか工程表があった壁には祝祭日カレンダーが掛けられるようになっていた。



本竹功治
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1924号・2022年11月18
日紙面から掲載

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