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2022年9月23日更新

[沖縄]不動産の日特集2022|築48年のマンション 大規模修繕への道

9月23日の「不動産の日」に合わせ、今号では不動産活用・取引をテーマに特集を展開する。巻頭では、20年の長期ローンを組んで大規模修繕工事を実施している築48年の分譲マンションを例に、所有する不動産を守り、長く住み続けるには何が必要なのかを考える。※9月23日は「不動産の日」。秋は不動産取引が活発になることや、二十三の語呂合わせから、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が制定した。

施工前の赤平市街地分譲住宅。1974年に建てられた。モノレール駅近くの好立地で、全55戸の7階建て。1階には広い店舗とピロティ式の駐車場があり、2~7階が住居となっている(写真提供/TNOコンセプト)
施工前の赤平市街地分譲住宅。1974年に建てられた。モノレール駅近くの好立地で、全55戸の7階建て。1階には広い店舗とピロティ式の駐車場があり、2~7階が住居となっている(写真提供/TNOコンセプト)
 

20年ローンで補修実現

駐車場側から見た、赤平市街地分譲住宅の施工前の様子。建物はL字型をしている
駐車場側から見た、赤平市街地分譲住宅の施工前の様子。建物はL字型をしている


赤平市街地分譲住宅(那覇市首里赤平町)

 物件概要 
建築年/1974年(築48年)
構造/鉄筋コンクリート造
階数/地上7階建て
部屋/55戸(住居53戸、事務所1戸、店舗1戸)
管理形態/完成から43年間は自主管理。2017年から三菱地所コミュニティ㈱に管理を委託

 課 題 
・数千カ所の爆裂
・劣化の状況がひどいため、見積もりも出してもらえない
・見積額が1億2500万円で、管理組合の 修繕積立金だけでは足りない
・古い物件なので、ローンを組めるのは 10年までが一般的。担保もない


爆裂被害は数千カ所

2度の重大事故

那覇市首里赤平町にある赤平市街地分譲住宅は、1974年に建てられた鉄筋コンクリート造の分譲マンション。7階建てで全55室のほぼ全てに入居者がいる。

入居者らで構成される管理組合で理事長を務めるのは仲宗根清仁さん(36)。3年前に父親から部屋と理事長の役割を引き継いだ。当時からすでに老朽化は進んでおり、「建て替えなどの議論もしていたけれど意見はまとまらず、どうすべきか管理組合でも迷っていました」。住人の多くが新築時から住んでいるため高齢で、「仮住まいが見つからないのでは」との不安などから反対意見が多かったという。

そんな中、2020年10月に、ベランダの天井からコンクリートの塊が落下。翌年9月には外壁がはがれて駐車場に落ちた。いずれもけが人は出なかったが、住人全員に危機感が走った。

管理組合の理事会では命に関わる重要事項として毎月のように話し合い、その議事録を各戸に配布して状況を共有。建て替えをするには手持ちの資金(修繕積立金約2300万円)では少な過ぎたため、大規模修繕工事で住みながら再生することになった。危機感を共有していたため、合意形成もスムーズだった。しかし、ここからが大変だった。
 
工事中の通路。劣化部分を除いていくと、天井のコンクリートはほとんどない状態になった
工事中の通路。劣化部分を除いていくと、天井のコンクリートはほとんどない状態になった


48年分の経年劣化

まず、施工業者を探すのに難航した。劣化の状態がひどく、規模も大きいため、見積もりにすら応じてもらえないことがほとんどだったからだ。手持ち資金が少なく、支払時期などの条件が合わないこともあった。「工事は依頼すればすぐできると思っていたけれど、考えが甘かった」と仲宗根さんは話す。

その中で応じたのがTNOコンセプト㈱。同社の川満昌樹さんは「実際に点検してみると至る所で爆裂していた」と振り返る。爆裂とは、コンクリート表面のひび割れなどから浸入した水分により、内部の鉄筋がさびて膨張し、コンクリートがはがれ落ちたりすることだ。

17年までは住人自身で管理運営する自主管理形態だった同マンション。不具合が出た時に部分的な補修をしていたが、長期修繕計画などはなく、大規模修繕工事のような全体的なメンテナンスはしていなかったという。

48年分、経年劣化が積み重なったことで、最終的な爆裂の数は数千カ所にものぼった。

川満さんは「一般的な修繕工事は、ひび割れ補修やペンキの塗り替え程度。修繕工事の実績はいくつもありますが、この規模は初めて。鉄筋が溶けてなくなっていたり、小さな膨らみを調べていくと、壁全体がダメになっていることもあった。ですが、修復できる技術があったので受けさせてもらった」と話す。

見積金額は1億2500万円となった。


長期修繕計画
マンションの価値や耐久性を保つため、いつ、どんな修繕をするか、いくらかかるかなどの長期的な計画。その計画に基づいて、住人から資金を集め、積み立てるのが修繕積立金。その積立金だけで工事ができるようにするのが理想。

大規模修繕工事
外壁塗装をはじめとした、マンション全体に足場を組んで行うような大規模な修繕工事。12~15年ごとに実施するのが一般的。


最初は小さな膨らみだったが、内部まで確認していくと、劣化は壁全体に及んでいた
             
最初は小さな膨らみだったが、内部まで確認していくと、劣化は壁全体に及んでいた
最初は小さな膨らみだったが、内部まで確認していくと、劣化は壁全体に及んでいた

ベランダの天井。劣化部分を除去すると上の階まで見えるようになった
ベランダの天井。劣化部分を除去すると上の階まで見えるようになった


 対応策 
・コンクリートの塩分をカットしつつ強度が増す工法で、爆裂を補修
・返済期間が最大20年のローンを利用し、工事資金全額の融資を受けた
・修繕積立金の金額を従来の4倍にした


積立金が大幅に不足

次に課題となったのが資金面。毎月積み立てていたが足りなかった。その理由として、17年から管理を請け負う三菱地所コミュニティ㈱の田口剛之さんは「もともと1戸あたりの積立金額が毎月3千円で、現在の物価に合っていなかったため」と説明する。

17年からは6千円になっていたが見積金額には及ばず、金融機関から融資を受けることに。しかし、ここでも「担保がない」「返済期間が10年まで」など条件が合わず、選択肢はなかった。

唯一、条件に合致したのが沖縄振興開発金融公庫の「マンション共用部分リフォーム融資」。同公庫の担当者は「基本的に返済期間は10年までですが、所定の工事を行う場合は20年以内にすることができます」と話す。20年ローンなら月々の返済額も高額にならないため、管理組合は工事資金を全額借りた。

それに伴い、修繕積立金の金額は従来の4倍の1万2千円にし、8割を返済に、2割を次の修繕のための積立金とすることにした。反対する住人はいなかった。


今後は建て替えも

今年7月、爆裂の補修が始まった。コンクリートなどの劣化部分を削り、削った部分を「キクスイBR工法」で埋めていく。川満さんによると、コンクリートの塩分をカットする薬品などを使いながら重ね塗りすることで、強度が増す工法だという。また「住みながらの工事ということもあり、住人の方々の予定に合わせて工事内容なども細かく調整しています」と話した。

工事は11月までの予定。仲宗根さんは「今回は施工会社や金融機関、それらを見つけてくれた管理会社のおかげで再生に踏み出せた。きちんと計画を立てて運営できていれば、もっと金額を抑えた工事になっていたかもしれない。今後は住人の意識も変わるはずなので、情報交換をしながら建て替えも視野に運営していきたい」と力を込めた。

田口さんは「県内には似た状況のマンションがたくさんある。しかし再生の可能性もあるので、あきらめずにまずは専門業者などに相談を」と話した。


玄関ホールに設置されたデジタルサイネージ。住みながらの工事なので、工事の予定や、外に洗濯物を干せるかどうかなどを確認できる。訪問介護や配達など、住人の予定に合わせて工事の内容や場所を毎日調整しているため、クレームなどはないという
玄関ホールに設置されたデジタルサイネージ。住みながらの工事なので、工事の予定や、外に洗濯物を干せるかどうかなどを確認できる。訪問介護や配達など、住人の予定に合わせて工事の内容や場所を毎日調整しているため、クレームなどはないという


分譲マンション長持ちのポイント

長期修繕計画に沿った工事と積み立て
長期修繕計画を作成することはもちろん、計画に沿ってメンテナンスを行う。先延ばしにしない。定期的に外壁塗装や防水工事などを行うことで、コンクリートや内部の鉄筋の劣化防止にもつながる。積立金の引き上げも予定しているのであれば、きっちり増額して積み立てていく。

修繕計画・積立金額見直し
建築費の高騰や消費税の上昇など、状況は常に変化するため、3~5年おきなど定期的に計画や積立金額を見直す。

密なコミュニケーション
マンション内の異常にすぐ対応できるよう、住人同士がコミュニケーションを密にとり、異変があれば管理組合に知らせるなど情報を共有する。


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取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1916号・2022年9月23日紙面から掲載

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「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。

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