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2022年4月8日更新

[沖縄・建築探訪PartⅡ(22)]銘苅家住宅(伊是名村)

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

離島で見つけた洗練された沖縄建築

銘苅家住宅(伊是名村)

沖縄本島北部、今帰仁村運天港からフェリーで約1時間の位置に伊是名島がある。辺戸岬の真西に位置し、周囲約16・7キロ、人口約1300人弱の小さな島だ。そして近くには伊平屋島がある。この二つの島は観光化された島ではない。そして島の集落は竹富島のような赤瓦屋根の民家が並ぶ美しい景観の集落でもない。むしろ空き地が目立ち、遠浅の海が広がる農業と漁業の静かな離島だ。

この伊平屋と伊是名は琉球の歴史の中で重要な意味を持つ。伊平屋は琉球王国の第一尚氏の祖、尚巴志の祖父の出身地であり、伊是名は第二尚氏・尚円王の出身地である。そのため琉球王国時代はどちらの島も王府直轄領とされ、尚円王の一族の子孫は代々島の夫地頭(ぶじどう)職(現在の村長の現地補佐役)を務めた。その旧家が「銘苅家」であった。

この建物は1906年に島の伊是名集落の北端に建てられ、現在国指定の重要文化財になっている。私は10数年前にこの島を初めて訪れ、この伝統的木造住宅を見てひどく感動した。

沖縄では沖縄戦で古い建物が失われ、戦後は鉄筋コンクリート建物に変わり、かつて先人が沖縄の気候風土の中で育んだ「これぞ沖縄建築」という建物を探していた。見つけたのは「中村家住宅」と「識名園」だけだった。他にも伝統的木造住宅と呼ばれるものもあったが、どれも洗練されている建物ではなかった。この銘苅家住宅は豪農の中村家住宅ほど古くない、そして復元された王家別邸の識名園ほど豪華ではない。しかし建築的には銘苅家住宅が一番洗練されていると私は思う。ドイツの建築家ブルーノタウトが「桂離宮」を絶賛したように、見た目は質素だが、考え尽くされた建築だ。たぶんこの建物を造った当主が尚円王の末(まつ)裔(えい)としてこだわったに違いない。

伊是名島・銘苅家住宅全景 1906年再建、1977年国指定重要文化財に指定、普段は無人で見学無料
伊是名島・銘苅家住宅全景 1906年再建、1977年国指定重要文化財に指定、普段は無人で見学無料

畜舎の軒下から見た主屋と離れ。ヒンプン、木造の門、石垣、雨端が建物全体を巡る
畜舎の軒下から見た主屋と離れ。ヒンプン、木造の門、石垣、雨端が建物全体を巡る


沖縄らしい繊細さ

石垣・ヒンプン・アサギ(離れ)・ウフヤ(主屋)・畜舎と一般的な伝統的建物構成だが随所にこだわりが見える。石垣はこの島では珍しい布積みで、ヒンプン前で少しカーブしている。長めのヒンプンも漆(しっ)喰(くい)塗りで赤瓦を載せ、その右には木造の門がある。雨端(アマハジ)は離れと主屋と台所(トングヮ)まで連続させ、しかもその軒先の高さが普通より低く、親密なスケール感と連続性が強調されている。また室内から外部を見ると、この雨端を介して横長の景色がより開放的に見えるのである。主屋のゆるい曲線の棟ラインも屋根のおおらかさと存在感を強調し、実に美しい。

沖縄建築はどこか繊細さに欠けるとよく言われる。しかし、寸法、空間の連続性、曲線などによって沖縄らしい繊細さが生まれる。ぜひ見ていただきたい沖縄建築だ。

雨端の納まり。縁側と雨端のスパンは1050mm、軒の出は600mmと一般的だが、軒先は地面から2100mmと低い
雨端の納まり。縁側と雨端のスパンは1050mm、軒の出は600mmと一般的だが、軒先は地面から2100mmと低い

雁行(がんこう)する雨端。柱はチャーギ、丸太垂木、山原竹の野地、台所の腰壁は石積み、壁は漆喰塗り壁
雁行(がんこう)する雨端。柱はチャーギ、丸太垂木、山原竹の野地、台所の腰壁は石積み、壁は漆喰塗り壁


[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1892号・2022年4月8日紙面から掲載

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