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2022年2月11日更新
[沖縄・建築探訪PartⅡ⑳]鉄筋コンクリート建築 (沖縄県)
次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治
沖縄の建物の劣化と老朽化
鉄筋コンクリート建築(沖縄県)温故知新「古きをたずねて新しきを知る」の言葉通り、この連載で古い沖縄の建物を調べて、より良い新しい沖縄建築を模索してきた。しかし、沖縄戦で戦前の建物はなく、日本復帰前に建設された建物も少なくなり、スクラップ・アンド・ビルドでどんどん建て替えが続く。20~30年ごとの建て替えの原因は「老朽化」だ。強固なはずの鉄筋コンクリートの建物の寿命がなぜそんなに短いのか?
そもそも鉄筋コンクリートは引っ張りに強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートを一体にした構造で、コンクリートのアルカリ分が鉄筋を保護しさびない。劣化・老朽化とは、コンクリートが中性化し、内部の鉄筋がさびて膨張しヒビが入り爆裂することを言う。その中性化の原因はコンクリートのアルカリ分が雨や酸性雨によって流れ出たり、空気中のCO2による。材料の砂や雨に含まれた塩分のイオン化の影響も見逃せない。
コンクリートはセメントと砂利と砂を水で練り混ぜたもので、配合もさまざまだが一般的に1千リットルのコンクリートにはセメントが約300キロ、水が約150リットル、砂利と砂がそれぞれ約1千キロずつ、そして空気が約4%(40リットル)入っている。石のように緻密で硬いコンクリートだが、乾燥すれば水と空気の分190リットルほどの空隙(くうげき)、つまり穴がある。だから、雨がかかれば水分を吸う、そして乾くとそこに空気(酸素)が入る。塩分混じりの風雨と乾燥を繰り返せば、水は蒸発するが塩分はコンクリート内に蓄積されることになる。
旧豊見城団地 1968~76年、琉球土地住宅公社・沖縄県住宅供給公社によって建設、竣工後20~30年で狭あい・老朽化を理由に取り壊された。設計仕様書には塩分量やスランプなど厳しく指定、しっかり施工したと聞いた。
浦添市内公共建物 外壁が塗装やタイルなどで被覆されておらず、コンクリート打放し仕上げのため屋根や庇のない部分の外壁は水が浸透して濡れる。
沖縄では凍結がないため防水されていない屋上が多い。防水されている場合でも塗り防水程度。経年劣化により雨水がスラブに浸透する。
防水されていない住宅の屋上スラブ下が爆裂した状態。
沖縄県総合福祉センター/ 大屋根鉄骨の腐食
手すりの腐食。両者とも付着量500g/平方メートルの亜鉛どぶ漬け部材だが「雨がかり」でないため、付着した塩分が雨で洗い流されず、手すりは風方向の腐食が激しい。
沖縄県平和祈念資料館 屋根の赤瓦の腐食。粘土内の鉄分がさび、雨があたりにくい鼻部は塩分が雨で洗い流されないため、腐食し穴があいた。建物は海岸崖部にあって日常的に多量の海塩が吹き付ける。
米軍基地内宿舎 70年余前の建物であるが数年ごとの外壁塗装などメンテナンスが行き届いているため、今でも健全な状態。
数年ごとの塗り替え必須
一説によると沖縄は建物にとって世界一厳しい環境の地域だ。高層建築は地震より台風の風の影響の方が大きく、建築資材にとっては多雨で高湿度、そのうえ塩害や強い日差しなど極めて厳しい環境だ。そんな中でコンクリートの中性化とさび(酸化)の原因を食い止めるためには、やはり水分と空気を遮断すること、つまりコンクリートの表面を被覆(塗装やタイル張りなど)することが最も効果がある。しかし塗装や塗り防水層も露出すると数年で劣化してしまう。そのため、数年に1度塗り替えが必要だ。
コンクリート被(かぶ)りを大きくするとか、フライアッシュや高炉セメントなどを使った密実なコンクリートも検討されているが、多くは本土のデータで地元沖縄の実績ではない。また米軍施設は除塩した硬いコンクリートを使用するから長持ちと聞くが、沖縄のコンクリートも塩化物総量規制やJIS規格などなど厳しい基準がある。しかし今なお劣化が続く。私の建築経験から考えて、沖縄の建物の長寿命化にメンテナンスは欠かせない。メンテナンスの方が建て替えより、はるかに経済的でエコだ。
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1884号・2022年2月11日紙面から掲載