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2021年11月12日更新

[沖縄・建築探訪PartⅡ⑰]持続可能なリゾートマジョルカ島と沖縄

次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治

持続可能なリゾートマジョルカ島と沖縄

パルクビットプロジェクト(スペイン)

スペイン・マジョルカ島はイベリア半島の東、地中海に浮かぶバレアレス諸島に位置する。バルセロナから210キロ、沖縄本島の3倍の面積、人口約90万の島で、中心地パルマは州都である。地中海性気候で温暖だが雨が少なく、特別な資源や産業もなく、アーモンドやオリーブなどの栽培が主で、紀元前から地中海周辺地のさまざまな勢力に支配・翻(ほん)弄(ろう)された交易の場であった。パルマの街はローマ時代に始まり、今も古い旧市街が残る。19世紀に入り温暖な気候を求めてヨーロッパの貴族が別荘を作り始め、1960年頃から急速な観光地化が始まった。

沖縄と似た地政や歴史・文化ゆえに、1998年に沖縄のグランドデザイン・国際都市形成構想の実現に向けてこの島を県の方々と視察した。この島にはすでに4千メートル滑走路2本の巨大空港があり、ヨーロッパ各地の主要都市と結ばれ、港には客船やクルーザーが停泊している風景は圧巻だった。夏はバケーションの若者や家族連れ、冬は年配の方々の避寒地としてにぎわい、98年当時、年間観光客が900万人・平均宿泊数11泊でヨーロッパ随一の国際的保養地であると聞いて興味深かった。

島にはパルマ以外には大きな街はなく、小さな古い集落ばかりで、目を見張るような名所旧跡も見当たらない。一番有名なのは作曲家ショパンが年上の作家ジョルジュ・サンドと駆け落ちをし、「雨だれ」という曲を作ったという古びた建物ぐらいだった。緑も海も沖縄ほど豊かでなく、現代的な大きなホテルもなく民宿のようなものばかりで、われわれが想像していた観光地とは大違いだった。


地中海西部に浮かぶ、スペインのマジョルカ島
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 2 アジア諸国や日本本土に囲まれて浮かぶ沖縄

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 3  6 コンペで選ばれたロジャーズ案 情報社会の中で仕事と暮らしを両立できる次世代リゾート概念図。
マジョルカ島の地形・水・緑などの資源を最大限に生かす土地利用と建築計画において「リゾート自立都市」を目指す




低賃金・低コストに対抗

マジョルカ観光省は92年、東西冷戦終結後の地中海東部や黒海にできた低賃金・低コストのリゾート地に対抗して、次世代の観光地のあり方を求めて戦略的ビジョン「パルクビット構想」を策定した。それは情報化社会の到来が大きく社会構造・都市開発・市民生活を変えることを見越して、知的集約産業や革新的企業や優秀な人材を誘致できるような「ビジネス・リゾート」を目指す計画だった。そのためには島の自然環境を保全しながら、伝統と新技術的発展を統合し、どこにもない「高水準の仕事と暮らしが同時にできるリゾート」を基本とした。

そして、94年には若く革新的な建築家11チームを指名し、「パルクビット国際建築アイデアコンペティション」を実施し、イギリスの建築家リチャード・ロジャーズの案が選ばれた。この話は世界中で話題となり注目されたが、沖縄こそ見習うべきリゾートのあり方であり、基地跡地で実現するべきだ。


 7 バレアレス州の州都パルマにある港


 8 国道58号から見える建物全景。建物前面にある芝生の広場には、パラソルのあるベンチや遊具がある

 9 オリーブ畑の風景


 10 パルマの旧市街地には、さまざまな魅力があるレストランが多い

※パルクビット計画に関してはマルモ出版ランドスケープNo.12に詳しく掲載    


[沖縄・建築探訪PartⅡ]福村俊治
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1871号・2021年11月12日紙面から掲載

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