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2021年10月8日更新
[沖縄・建築探訪PartⅡ⑯]街の彩りと賑わいつくる商業店舗
次世代に残したい沖縄の建造物の歴史的価値や魅力について、建築士の福村俊治さんがつづります。文・写真/福村俊治
街の彩りと賑わいつくる商業店舗
A&W牧港店(浦添市)沖縄の幹線道路沿いは、広い駐車場をもつ商業店舗が並ぶのが一般的な街の風景になりつつある。コンビニやファストフードなど全国共通の大きな看板と建物外観を持つさまざまなフランチャイズ店舗が並んでいる。そして、広い駐車場を持つ巨大な箱のショッピングセンターも増えている。ひと昔前までは小さな店が並ぶ公設市場やアーケード商店街が街の中心地にあり、近くにマチヤグヮーもあって街は楽しかった。今、車社会になって街は大きく様変わりし、郊外へ広がって「街の賑(にぎ)わい」がなくなりつつある。
この店舗は浦添市牧港の国道58号沿いにあるファストフード店だ。久しぶりに訪れ、「どこか沖縄らしく、建築的センスと親しみを感じさせる興味深い建物」であると再確認した。アメリカ資本の「日本初のファストフードレストラン」だそうで、復帰前の1963年に北中城村屋宜原に1号店ができ、次にこの牧港店がオープンした。建設当時は自家用車を持つ米軍関係者が主で、地元の人にとっては「憧れ」の店舗だった。そして時代が移り変わり、次第に地元そして観光客へと広がった。
1950年代、車社会のアメリカで普及したドライブイン方式のこの店舗は、駐車場に車を止めインターホンで注文すれば店員が商品を届けてくれてその場でゆっくり楽しめる。車に乗ったまま窓口で商品を受け取り、そのまま持ち帰るドライスルーと呼ばれる今のファストフード店とは少し異なる。
アプローチから見る建物全景。駐車場の斜め柱の列柱と赤く長いネオン照明、ライトアップされたアメリカらしい大きな看板がこの建物を印象づけ、来訪者を誘引する
親しみ醸す列柱
国道58号からパラソルや遊具の並ぶ広場とアメリカらしい大きな看板のある建物全景が見える。広場を囲むように建物が配置されていて、中央に店舗がありその両翼に駐車場がある。脇道のアプローチから乗り付けると、美しく塗装された斜め柱の列柱の駐車場が正面に見え、屈折した建物がうまく誘導する。特に夜間は暗めの敷地照明の中で、長く赤いネオン照明とライトアップされた大きな看板がとても印象的だ。そして私はこの列柱がとても気に入っている。建物全体を軽やかに、そして親しみ深いものにしている。店舗のピクチャーウインドーから見る内外の光景も美しい。ハンバーガーやルートビアもおいしいが、店舗の内外の雰囲気が沖縄に合っていて素晴らしい。
年中温暖で日差しは強いが心地よい風が吹き、しかも夜の長い沖縄ならこんな魅力的な商業店舗がもっと増えてもいい。緑で覆われた広場や駐車場、街に開かれた美しい窓を持つ沖縄らしい商業店舗が増えれば、客も増え賑わい、街の景観・環境のためにも良い。売り上げも上がるのではないか?
国道58号から見える建物全景。建物前面にある芝生の広場には、パラソルのあるベンチや遊具がある
屋根上の看板と店舗のピクチャーウインド-可能な開発の提案。
駐車場にあるメニューとインターホン
店舗内のカウンター
店舗内部は意外と狭い
ふくむら・しゅんじ 1953年滋賀県生まれ。関西大学建築学科大学院修了後、原広司+アトリエファイ建築研究所に勤務。1990年空間計画VOYAGER、1997年teamDREAM設立。沖縄県平和祈念資料館、沖縄県総合福祉センター、那覇市役所銘苅庁舎のほか、個人住宅などを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1866号・2021年10月8日紙面から掲載