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2021年11月12日更新
[沖縄]中古物件の悩みに活用! 住宅診断 (インスペクション)
SDGs(持続可能な開発目標)の考え方が広がる中、家造りも中古物件を生かすことが再注目されている。しかし、「素人には劣化状況がよく分からず不安」との声もある。不安解消に一役買うのが、資格を持つ建築士が行う「住宅診断(インスペクション)」だ。
中古物件の市場が活発なアメリカでは、中古住宅を買う前に住宅診断士を入れて調査するのが常識だ。一方、日本では住宅診断(インスペクション)を実施した物件は中古流通戸数の4%程度にとどまる(2019年国土交通省調査)。県内で先駆的に住宅診断を行う(株)WILLと(株)クロトンの担当者は「住宅診断を活用するメリットは大きいが認知度が低い。多くの人に知ってほしい」と声をそろえる。
「知らなかった」なくす
2013年の開業以来、中古の活用に力を入れている(株)WILL(ウィル)。取締役の御幡可寿方(みはたかすみ)さんは「中古住宅は、新築に比べて仕様・設備に関する情報が少なく、購入するのが不安だという声も多い。長く住んでいた売り主さえ気付かなかった不具合が露呈する場合もある。わが社で仲介する中古物件はすべて住宅診断を実施して、情報を開示。『気付かなかった、知らなかった』をなくし、契約後のトラブルが起こらないようにしています」と話す。
同社のグループ会社で、住宅診断を行うWILLワークスの新里卓也さんは、既存住宅状況調査技術者の資格を持つ。「目視のほか、打診棒やレーザーを用いて建物の劣化状況や欠損の有無などをくまなくチェックします」と話す。「非破壊検査が主ですが、気になることがあれば売り主の了解を得て壁や床を剥がして内部を確認します。見えない場所にこそ、不具合が隠れていることがあるからです」
床下や屋根裏にも潜って躯体の劣化状況や漏水の有無などをチェック。ドローンでの調査も行う。
「売り主さんからは『古い建物で心配もあったけど、気持ちよく売ることができた』との声をいただくなど、おおむね好評です。住宅診断が定着すれば、中古の流通はもっと活性化すると思いますが、不動産業界でも認知が低いのが現状。なので、売り主・買い主さん側から『住宅診断をしたい』と声をかけてもいいと思います」と御幡さんは話した。
リフォームの助言も
建築士事務所の(株)クロトンも、積極的に住宅診断に取り組んでいる。同社の既存住宅状況調査技術者・小島仁美さんは、「依頼者の多くが、中古物件の購入を検討している個人です」と話す。本契約(支払い)の前に、建物の状況をプロにチェックしてほしいという依頼が多いそう。
実施件数は、「昨年は新型コロナウイルスの影響もあって5件でしたが、ことしは10月末の段階で16件実施しています」と話す。
同じく同社の有資格者である下地鉄郎さんは、「現場に依頼者も同席してもらい、調査、診断しながら建物の状況を説明します。国のガイドラインに沿いつつ、依頼者が気になっている部分を重点的にチェックします」と話す。
「中古物件を購入する人のほとんどがリフォームを行うので、どの部分をどこまで改修すべきか、アドバイスもします。『リフォーム費用の目安が付いた』と、とても喜ばれています」とメリットを話した。
回答者
㈱WILL 御幡可寿方取締役(上写真)
WILLワークス 既存住宅状況調査技術者・新里卓也さん(下写真)
[連絡先]
電話=098・889・0455
http://www.will-okinawa.com
回答者
㈱クロトン 既存住宅状況調査技術者・下地鉄郎さん(左写真)、既存住宅状況調査技術者・小島仁美さん(右写真)
[連絡先]
電話=098・877・9610
http://www.croton.jp
Q 住宅診断って何?
A 国が定める講習を修了した建築士が、建物の劣化状況や、改修が必要な場所、施工不良・欠損などを調査することです。
(新里)基礎や構造が欠損してないか、床・壁・柱が傾いていないか、屋根・外壁・窓周りから雨漏りしていないか、給排水管に水漏れやつまりがないか、換気ダクトの換気量についてなど、
目視、あるいは打診棒などを用いた非破壊の検査を行います=写真。
打診棒で壁をたたいて剥がれや浮きをチェックしたり、クラックスケールでひびの幅などを計測
基本的に、国土交通省が公表している「インスペクション・ガイドライン」にのっとって検査しますが、国のガイドラインでは「屋根裏や床下は、点検口から目視可能な範囲で良い」としています。ですが、気になるところがあればなるべく奥まで潜り込んで、細かくチェックします=写真。普段は見えない場所にこそ、住んでいた売り主でも気付かなかった欠陥や不具合が隠れている場合があるからです。2人がかりで2時間ほどかけて、くまなく検査します。
Q 実施するメリットは?
A 売り主側が実施するメリットは、売却後のトラブル回避につながるほか、競合物件と差別化になり売りやすくなります。買う側が実施するメリットは購入の判断目安になり、リフォーム費用も見通しやすくなります。
(御幡)わが社で扱う中古物件は、売り主からお預かりしたら必ず、売り主の了解を得て住宅診断を行っています。引き渡し後に欠陥が見つかれば、買い主から損害賠償を請求されたり、契約解除になる恐れもあります。住宅診断をすることで、そうしたトラブルを回避できます。
また、購入希望者に安心感を与え、他の競合物件と差別化できます。
(小島)買い主が実施するメリットとしては、建築士が建物の状態をチェックするので、建物の価値が明確になり、購入の判断がしやすくなります。また、中古住宅の多くは購入後、リフォームをします。その際、どこをどれだけ改修すべきかが分かり、費用が見通しやすくなります。
注意事項としては、本契約の前に住宅診断を希望するのであれば、売り主の了解を得る必要があります。
Q 費用はどのくらいかかる?
A 一戸建て住宅なら、目視が主で5万円~、特別な機材を使用する場合は10万円程度。
(小島)30平方㍍ほどの一戸建て住宅なら、5万円+(築年数×1000円)で受けています。赤外線調査などのオプション検査は別料金です。
(新里)一戸建てならば、10万円程度で実施しています。目視だけの診断でなく、ドローンなども用いてチェックします。床下や天井裏も潜れるところは潜って調査します。
Q 住宅診断を依頼したい。探し方は?
A 資格者名簿はありますが、経験の有無までは分かりません。問い合わせるのが確実。
(下地)県内には500人くらいの既存住宅状況調査技術者がいますが、実際に診断を行っているのは5%未満だと思われます。有資格者は「日本建築士会連合会」のホームページの「既存住宅状況調査技術者の検索」で見ることができます。ただし、名簿ではその資格者が実際に住宅診断を行っているかまでは分からないので、その資格者の事務所のホームページや、電話などで経験の有無を聞く方が良いと思います。
Q 売買時以外でも診断できる?
A マンションの大規模修繕の計画、不動産の維持管理にも役立ちます。
(下地)マンションの大規模修繕の前に住宅診断をすれば、修繕計画が立てやすくなります。また、古くなった家を建て替えるかリフォームするか悩んでいる場合も、劣化状況をチェックすることで判断が付きやすくなります。
Q 注意事項は
A あくまで診断。「やれば安心」ではありません。不具合が見つかれば修繕が必要。
(御幡)“住宅診断をやったから、この建物は安心”ではありません。人間の健康診断と一緒で、悪いところを発見するのが住宅診断。不具合が見つかれば修繕が必要です。
また、住宅診断をすれば「既存住宅売買瑕疵保険」に入れると思っている方もいるようですが、加入するには同保険法人に登録された検査事業者による詳細な診断が必要です。その診断で劣化事象などが無いと証明されるか、補修をして検査に合格しなければなりません。注意としては、所有権が売り主から買い主に移転する前に、売り主の承諾を得て検査を受けて合格する必要があります。
https://croton.okinawa/inspection_lp/
(株)クロトンはことし10月、住宅診断の認知度向上を目指し「インスペクション沖縄」というホームページを立ち上げた=上URL。施主だけでなく、「資格を持っているが、活用できていないという建築士の方々への情報提供も行っていきたい」と同社の下地さんは話した。同HPは「インスペクション沖縄 クロトン」で検索を。
中古物件 プロが検査
「知らなかった」なくす2013年の開業以来、中古の活用に力を入れている(株)WILL(ウィル)。取締役の御幡可寿方(みはたかすみ)さんは「中古住宅は、新築に比べて仕様・設備に関する情報が少なく、購入するのが不安だという声も多い。長く住んでいた売り主さえ気付かなかった不具合が露呈する場合もある。わが社で仲介する中古物件はすべて住宅診断を実施して、情報を開示。『気付かなかった、知らなかった』をなくし、契約後のトラブルが起こらないようにしています」と話す。
同社のグループ会社で、住宅診断を行うWILLワークスの新里卓也さんは、既存住宅状況調査技術者の資格を持つ。「目視のほか、打診棒やレーザーを用いて建物の劣化状況や欠損の有無などをくまなくチェックします」と話す。「非破壊検査が主ですが、気になることがあれば売り主の了解を得て壁や床を剥がして内部を確認します。見えない場所にこそ、不具合が隠れていることがあるからです」
床下や屋根裏にも潜って躯体の劣化状況や漏水の有無などをチェック。ドローンでの調査も行う。
「売り主さんからは『古い建物で心配もあったけど、気持ちよく売ることができた』との声をいただくなど、おおむね好評です。住宅診断が定着すれば、中古の流通はもっと活性化すると思いますが、不動産業界でも認知が低いのが現状。なので、売り主・買い主さん側から『住宅診断をしたい』と声をかけてもいいと思います」と御幡さんは話した。
リフォームの助言も
建築士事務所の(株)クロトンも、積極的に住宅診断に取り組んでいる。同社の既存住宅状況調査技術者・小島仁美さんは、「依頼者の多くが、中古物件の購入を検討している個人です」と話す。本契約(支払い)の前に、建物の状況をプロにチェックしてほしいという依頼が多いそう。
実施件数は、「昨年は新型コロナウイルスの影響もあって5件でしたが、ことしは10月末の段階で16件実施しています」と話す。
同じく同社の有資格者である下地鉄郎さんは、「現場に依頼者も同席してもらい、調査、診断しながら建物の状況を説明します。国のガイドラインに沿いつつ、依頼者が気になっている部分を重点的にチェックします」と話す。
「中古物件を購入する人のほとんどがリフォームを行うので、どの部分をどこまで改修すべきか、アドバイスもします。『リフォーム費用の目安が付いた』と、とても喜ばれています」とメリットを話した。
価値や維持費が明確に
回答者㈱WILL 御幡可寿方取締役(上写真)
WILLワークス 既存住宅状況調査技術者・新里卓也さん(下写真)
[連絡先]
電話=098・889・0455
http://www.will-okinawa.com
回答者
㈱クロトン 既存住宅状況調査技術者・下地鉄郎さん(左写真)、既存住宅状況調査技術者・小島仁美さん(右写真)
[連絡先]
電話=098・877・9610
http://www.croton.jp
Q 住宅診断って何?
A 国が定める講習を修了した建築士が、建物の劣化状況や、改修が必要な場所、施工不良・欠損などを調査することです。
(新里)基礎や構造が欠損してないか、床・壁・柱が傾いていないか、屋根・外壁・窓周りから雨漏りしていないか、給排水管に水漏れやつまりがないか、換気ダクトの換気量についてなど、
目視、あるいは打診棒などを用いた非破壊の検査を行います=写真。
打診棒で壁をたたいて剥がれや浮きをチェックしたり、クラックスケールでひびの幅などを計測
基本的に、国土交通省が公表している「インスペクション・ガイドライン」にのっとって検査しますが、国のガイドラインでは「屋根裏や床下は、点検口から目視可能な範囲で良い」としています。ですが、気になるところがあればなるべく奥まで潜り込んで、細かくチェックします=写真。普段は見えない場所にこそ、住んでいた売り主でも気付かなかった欠陥や不具合が隠れている場合があるからです。2人がかりで2時間ほどかけて、くまなく検査します。
売り主の了解を得て、床を剝がして床下などの検査する場合もある
Q 実施するメリットは?
A 売り主側が実施するメリットは、売却後のトラブル回避につながるほか、競合物件と差別化になり売りやすくなります。買う側が実施するメリットは購入の判断目安になり、リフォーム費用も見通しやすくなります。
(御幡)わが社で扱う中古物件は、売り主からお預かりしたら必ず、売り主の了解を得て住宅診断を行っています。引き渡し後に欠陥が見つかれば、買い主から損害賠償を請求されたり、契約解除になる恐れもあります。住宅診断をすることで、そうしたトラブルを回避できます。
また、購入希望者に安心感を与え、他の競合物件と差別化できます。
(小島)買い主が実施するメリットとしては、建築士が建物の状態をチェックするので、建物の価値が明確になり、購入の判断がしやすくなります。また、中古住宅の多くは購入後、リフォームをします。その際、どこをどれだけ改修すべきかが分かり、費用が見通しやすくなります。
注意事項としては、本契約の前に住宅診断を希望するのであれば、売り主の了解を得る必要があります。
Q 費用はどのくらいかかる?
A 一戸建て住宅なら、目視が主で5万円~、特別な機材を使用する場合は10万円程度。
(小島)30平方㍍ほどの一戸建て住宅なら、5万円+(築年数×1000円)で受けています。赤外線調査などのオプション検査は別料金です。
(新里)一戸建てならば、10万円程度で実施しています。目視だけの診断でなく、ドローンなども用いてチェックします。床下や天井裏も潜れるところは潜って調査します。
Q 住宅診断を依頼したい。探し方は?
A 資格者名簿はありますが、経験の有無までは分かりません。問い合わせるのが確実。
(下地)県内には500人くらいの既存住宅状況調査技術者がいますが、実際に診断を行っているのは5%未満だと思われます。有資格者は「日本建築士会連合会」のホームページの「既存住宅状況調査技術者の検索」で見ることができます。ただし、名簿ではその資格者が実際に住宅診断を行っているかまでは分からないので、その資格者の事務所のホームページや、電話などで経験の有無を聞く方が良いと思います。
Q 売買時以外でも診断できる?
A マンションの大規模修繕の計画、不動産の維持管理にも役立ちます。
(下地)マンションの大規模修繕の前に住宅診断をすれば、修繕計画が立てやすくなります。また、古くなった家を建て替えるかリフォームするか悩んでいる場合も、劣化状況をチェックすることで判断が付きやすくなります。
Q 注意事項は
A あくまで診断。「やれば安心」ではありません。不具合が見つかれば修繕が必要。
(御幡)“住宅診断をやったから、この建物は安心”ではありません。人間の健康診断と一緒で、悪いところを発見するのが住宅診断。不具合が見つかれば修繕が必要です。
また、住宅診断をすれば「既存住宅売買瑕疵保険」に入れると思っている方もいるようですが、加入するには同保険法人に登録された検査事業者による詳細な診断が必要です。その診断で劣化事象などが無いと証明されるか、補修をして検査に合格しなければなりません。注意としては、所有権が売り主から買い主に移転する前に、売り主の承諾を得て検査を受けて合格する必要があります。
認知度アップ目指し「インスペクション沖縄」開設
https://croton.okinawa/inspection_lp/
(株)クロトンはことし10月、住宅診断の認知度向上を目指し「インスペクション沖縄」というホームページを立ち上げた=上URL。施主だけでなく、「資格を持っているが、活用できていないという建築士の方々への情報提供も行っていきたい」と同社の下地さんは話した。同HPは「インスペクション沖縄 クロトン」で検索を。
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1871号・2021年11月12日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
これまでに書いた記事:350
編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。