地域情報(街・人・文化)
2020年8月21日更新
期間や目的で使い分け|多くの拠り所がある暮らし[5]
2019年の秋に約1カ月間、日本各地で多拠点生活してみた。その体験などを通して、定住にとらわれずにいくつかの生活の拠点を持つような新しい暮らし方について、連載で紹介する。(文・写真/久高友嗣)
多拠点生活者向け居住サービスには、今まで紹介していたADDress(アドレス)以外にもいくつかあり、その一つにHafH(ハフ・(株)カブクスタイル)というサービスがある。ゲストハウスなど世界中の提携宿を、月定額で利用プランに応じた泊数分だけ滞在できるもの。前々回の千葉県一宮町(いちのみやまち)の後に予定していた東京行きは、仕事や友人の都合で急きょ滞在先を変更しなければならなかった。そこで、ハフの2泊プランを利用し、千葉県佐倉市にある「おもてなしラボ」という宿で1泊することにした。
ハフ提携宿「おもてなしラボ」は元歴史史料館を改装した間口4.3m、奥行き35mの長屋式の建物。ゲストハウス兼コミュニティースペースになっていて、1階ガレージには曜日替わりでキッチンカーや移動販売車が訪れ、地元のお母さんやお年寄りが買い物に来る。ゲストハウスのフロアは2階にある
この宿がある一帯は歴史ある城下町で武家屋敷や国立歴史民俗博物館などがあり、外国人観光客も多く訪れる場所。宿のオーナーによれば「宿泊者も6~7割が外国人。閑散期や平日などは特に宿泊者が少ないが、ハフと提携することで集客手段は増えた」という。私が出会った宿泊者は長野の整体師だった。佐倉には出張施術で定期的に訪れていて、静岡など他地域も経由しているそうだ。
おもてなしラボ地下1階のコミュニティースペースの内観。夕方ごろには地域の子どもたちやクラブ活動をする人が6人ほど訪れていた。宿泊者も利用可能で、夜にはここで集中してデスクワークをすることができた
佐倉市の城下町の古地図。宿から2分歩いた先の公園に掲示されていた
ルームシェアからサービス利用へ
次に電車を乗り継ぎ移動して滞在した先は、東京都世田谷区二子玉川(ふたこたまがわ)にあるアドレスの家。多摩川にほど近い場所にある、2階建て4LDKの一戸建てだ。同じ時期に滞在していた会員のひとりは、都内のIT企業の人事部門で働いていて、元々住んでいたルームシェアをやめるタイミングでアドレスに切り替えたという。アドレスは賃貸契約というかたちで、特定のアドレスの家一つに住所が置ける。その人は都内雑司ケ谷(ぞうしがや)の家に住所を置いていて、二子玉川の家には1週間程度滞在していた。直近の空いた週末には大分別府の家にも足を運んだそうだ。
東京二子玉川アドレスの家の1階共有スペースのLDK。これらの家具はほぼ前所有者の残置物であるが、撤去せずにそのまま活用している
アドレス二子玉川の家の家守(管理人)から書き置きされていた手紙。達筆で丁寧なお出迎えを演出されていて、とても感動した瞬間だった
どちらの居住サービスも旅するような暮らしを内包する。ハフはデザインなどが洗練された宿が多い。一般の宿泊者もいるため交流が広がりやすく、都市部や観光地に立地するゲストハウスであることから仕事での出張や観光などにも利用しやすい。一方、アドレスはルームメイトがしばしば入れ替わるシェアハウスの雰囲気だ。住宅街の中でより地元の暮らしぶりに近い生活ができ、特定の会員同士で一軒家に滞在する・暮らすことで、次第にホーム感が生まれていつもの場所になっていくような安心感がある。
ひと口に多拠点生活といっても、例えば利用する居住サービスによって、そこでの生活ぶりは異なってくることを併用してみて実感できた。
久高友嗣/くだか・ともつぐ/1990年、那覇市生まれ。琉球大学卒業後、健康×ITの領域で起業。2018年からキャンプ団体「CAMPO(きゃんぽ)」の活動を開始。レジャーの枠を超えたキャンプをテーマに、用品の提供や遊休地などを利活用した場づくりなどを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1807号・2020年8月21日紙面から掲載