地域情報(街・人・文化)
2020年9月18日更新
柔軟に助け合うつながり|多くの拠り所がある暮らし[6]
2019年の秋に約1カ月間、日本各地で多拠点生活してみた。その体験などを通して、定住にとらわれずにいくつかの生活の拠点を持つような新しい暮らし方について、連載で紹介する。(文・写真/久高友嗣)
前回(8月21日発行号)の二子玉川の家を出て、神奈川のキャンプイベントで1泊。そして、池袋区の雑司ケ谷(ぞうしがや)にあるADDress(アドレス)の家に2泊3日で滞在した。
雑司ケ谷の家の2階の一部。滞在したのは写真左の個室で、広さは4平方メートル程度。写真右は階段を上がった先の廊下部分。この家は現在、女性会員専用の家となっている
初めて県外で台風を体験
到着したその日は台風が迫っていた。家守(家の管理人)や住所を置いている会員らはちょうど別の家に滞在していて不在で、初めての家に1人で一夜を明かすこととなった。多拠点生活者にとって手軽に利用できる家が各地にあることは、災害が起こる前に安全な地域へ避難しやすくなることにつながる。沖縄では珍しくない台風だが、県外での経験は初めてだったので多少不安はあった。雑司ケ谷の家は密集した住宅地の中にあり、道路も狭かったこともあったのか、風の影響は大きく受けることなく、結果的には無事に翌日を迎えられた。
アドレス会員限定のSNSグループを見ると、千葉では被害が大きく、海岸沿いの家では窓ガラスが割れて家守がけがを負うなどの被害があったようだ。会員の自発的な協力や情報の拡散もあり、速やかに他府県からの物資等支援の動きが立ち上がっていた。互いに離れてはいるものの、多拠点生活者らがつくるネットワークのしなやかさを感じた。
知人と再会 偶然に交わる縁
2日目の夜には会員1人と家守が帰ってきた。なんと、その会員は以前沖縄で同じ職場で働いていた知人で、SNSではつながっていたがお互いに会員であることは知らなかったのでとても驚いた。7年ぶりの再会に話が弾んだ。家守は現役の大学4年生(当時)で、会員同士の交流を図るごはん会などのイベントを活発に開いていた。近くに自身の部屋を借りて住んでいたこともあり、家守へ申し込んだという。近いうちにこの家に住み込み、管理するとのことだった。話をしていると共通の沖縄の友人もいることが分かり、“類は友を呼ぶ”を実感するような滞在だった。
雑司ケ谷の家から商店街につながる路地。植木鉢が並び緑を感じられ、猫もいて和やかな雰囲気だった
雑司ケ谷の家から徒歩2分の地域の商店街マップ。出会って1時間だったこともあり少しためらったが、家守に誘われ商店街の銭湯へ出かけた
雑司ケ谷の家の家守が手書きした、ごみ出しや洗濯などの共同生活ルール。宿泊施設とは違い、アドレスの家では最低限自分の身の回りをきれいにするなど、滞在者同士が気遣いながら部屋を共有して生活する
アドレスの家ではタイミングが合うと、会員や家守、または地域の人も交えてご飯を共にすることがしばしばある。写真は二子玉川の家で家守が振る舞ってくれた食事の様子
久高友嗣/くだか・ともつぐ/1990年、那覇市生まれ。琉球大学卒業後、健康×ITの領域で起業。2018年からキャンプ団体「CAMPO(きゃんぽ)」の活動を開始。レジャーの枠を超えたキャンプをテーマに、用品の提供や遊休地などを利活用した場づくりなどを手掛ける
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1811号・2020年9月18日紙面から掲載