地域情報(街・人・文化)
2021年3月19日更新
「またね」の言葉が拠り所|多くの拠り所がある暮らし[11]
2019年の秋に約1カ月間、日本各地で多拠点生活してみた。その体験などを通して、定住にとらわれずにいくつかの生活の拠点を持つような新しい暮らし方について、連載で紹介する。(文・写真/久高友嗣)
地縁と人脈が緩やかに広がる
好奇心から体験してみた多拠点生活。33泊34日、11都府県での滞在は、日常の中で自然に各地の人や場所との接点が生まれ、新しいつながりをもたらしてくれるものとなった。
なじみがない地で知り合いの知り合いや、共通の趣味でつながる人がいる。地元の食材を使って自炊したり、食器を洗ったり、洗濯したりすると、一時的にせよ、その地に根付いて生活しているように感じられた。「またおいでよ」と言ってくれる人が各地にいることで、生活できる場、拠(よ)り所がいくつもあるように思える。
すると、ふとした時に、行った先々の土地、そこで会った人のことを気にかける。たとえ今、同じ土地に、一緒にいなくても。細く緩やかなつながりが今も続いているように感じる。
この体験を通しての私自身の変化は、例えば初めて会う人に対して、あまり気を張らなくなり、ありのままでいられることが多くなったこと。出身地が違う人たちと共に暮らし、少ない荷物で移動する生活をすることで、過度に虚勢を張ったり着飾ったりしなくなったからだ。
多拠点生活体験から同じキャンプが趣味の人とのつながりが広がった。多拠点生活をする人にはキャンプ好きが多かったように思う
メリハリがつく移動生活
ちなみに今回の費用はトータル約20万円。日本各地を回ったために交通費が5~6割(約11万円)を占めた。特に現地で車を調達する場合、手配の難しさや費用がかさむなど、多拠点生活をする上で困ることもある=右囲み。一方、住居費はアドレスなどの定額住居サービスを使うことで、その都度宿を予約するよりも安く済み、自炊できる環境もあって食費は抑えられた。
多拠点生活は、移動の負担などを考えると、ひとりの人生において、ずっと続けられるものではないかもしれない。仕事や家庭、故郷のことなど個々の事情もあると思う。
だが、人生のある一時期にでも多拠点生活をする人が増えたなら…。異なる地域の人同士が交流することで、互いの違いや良いところに気づき、それぞれの地域の個性がより鮮やかに浮き出るだろう。人口が減少する地域にも定期的な人の往来ができ、活気が戻るかもしれない。ルーティンになりがちな定住生活よりも時間が貴重に感じられ、日々の過ごし方にメリハリがついていく。必要かどうかの基準が明確になり、より自分らしい人生を選択する人も増えていくかもしれない。
現在は、新型コロナウイルスの影響もあり、この体験をした2019年とは状況が全く異なる。それでも、状況が落ち着いたら、次は自分の車と共に各地を行き来する日々をまた送ってみたい。まだ見ぬ自然や町、ただいま・またねと言える再会を求めて。
多拠点生活体験後、県内で報告会を開いた際に、長崎で滞在した宿などもリモートで参加してもらった
多拠点生活の体験で良かった・困ったこと
◆良かったこと
・人や土地とのつながり、居場所が自然と増える
・日々にメリハリがつく
・地元の人との交流で、旅行では得られない情報や視野を得た
・仕事や遠征のきっかけができた
◆困ったこと
・車移動の難しさ:1人での車移動はコストパフォーマンスが悪い。1台の車に乗り合わせるライドシェアは普及しておらず、マッチングしにくい
・食材の調整:移動が続くため、1回の滞在で調達する食材の量の調整が難しい。飲み物代がかさむ。調味料は最低限を持ち歩く
・移動スケジュールがタイトだと忘れ物しがちになる
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1837号・2021年3月19日紙面から掲載