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2020年7月24日更新
和の旅館ならではの くつろぎと開放感|HOTELに習う空間づくり[13]
当連載では県内のホテルを例に、上質で心地良い空間をつくるヒントを紹介する。
今回は海の旅亭おきなわ名嘉真荘の空間をクローズアップする。
海の旅亭おきなわ名嘉真荘(恩納村)
名嘉真荘で一番広い「スイートルーム」。リビングと小上がりの和室、寝室がある。木を多用した和の空間で、完成して3年がたつが木と畳の香りに包まれる。窓の向こうには東シナ海が広がり、本部半島や伊江島まで見える
廊下にあじろ 居室に土間
ホテルとは違う旅館ならではのくつろぎは、「地に足が付く安心感」にもあると思う。
「海の旅亭おきなわ名嘉真荘」はまず建物入り口、すなわちフロント前で靴を脱いでスリッパに履き替える。足元の開放感に「帰ってきた、という感じがしますよね。外での緊張を解き放って、ゆっくりしていただきたい」と話すのは女将の富島美樹さん。
フロント前で靴を脱いで館内へ
廊下やエレベーターの床は竹あじろ風
廊下の床は竹あじろ風。エレベーターの床まで同素材を用いる徹底ぶり。温かみのある素材のおかげで、通路というより室内の延長という印象だ。「正直、メンテナンスは手がかかりますよ。でも、『和の旅館』ならではの癒やしを提供したい」との思いが、随所に見られる。
例えば、同旅館で2番目の広さの客室「モダンルーム」。海を望む和室とベランダの間には、20センチほど低くなった土間空間が設けられている。室内に、あえて外を摸す空間を造ったことで、単なる板場が縁側となった。縁側に腰掛けると、室内なのに庭にいるような感覚。「ここに座椅子を置いて、ぼーっと海を眺めるお客さまもいらっしゃる」というのもうなずける。
二番目に広い客室「モダンルーム」には和室に面した土間空間と、縁側がある。縁側に腰掛けて海景色を眺める客も多いそうだ
各客室に置かれているベッドは高さ30センチほどと、かなり低め。小上がりに布団が敷かれているような印象。「和を貴重にした空間に普通のベッドがあると、雰囲気が損なわれてしまう」と吟味した寝具だ。「この低さが、お子さまと一緒でも安心して眠れると好評いただいています」
和の雰囲気を壊さないよう、厳選したベッド。ベッドというより小上がりに布団が敷かれているよう
国道が「消える」眺望
恩納村の高台に名嘉真荘が建つ。海に面した好立地で、全25室ほぼすべての部屋から東シナ海を望める。前面に国道58号が通っているが、室内から見るとこんもりした手前の森に隠れてしまうため、緑と海という沖縄らしい景色を堪能できる
3階建てで全25室、ほぼすべての部屋から東シナ海を望める。低いベッドに寝ていても、和室に座っていても海が見える好立地を生かし、「インテリアは控えめにしています。アメニティーなども極力表に出さず、シンプルを心がけています」。
濃緑と海のコントラストが楽しめるのは、立地に加えて設計の妙にもある。室内から外を見ると、前面を走っているはずの国道58号が見えない。敷地手前にある森で、うまく隠されているのだ。敷地の特徴を生かした建物配置のおかげで、沖縄らしい景色を堪能できる。
一方、この立地ゆえに譲歩せざるを得ない部分もあった。「本当は木造にしたかったのですが、海に面する高台にあるので、台風時などの安全面に考慮して軽量鉄骨造にしました」
だが、内装に木や竹など自然素材を多用することで温かみのある空間を実現した。木の天井、畳や竹あじろ風の床、土壁を摸したざらっとした壁、竹をモチーフにした障子など、見た目・感触・香りなど、五感で和を感じられる。浴室も木目調のタイルや陶器の浴槽で彩られ、温泉宿のような趣だ。
スイートルームの浴室。陶器製の浴槽があるぜいたくなつくり
フロントや食事どころには竹を模した障子が配されている。シンプルながら和の印象を強調する
海を望むリゾートだが「和のしつらえ」を全面に出した、県内では珍しい造り。「今までは外国のお客さまが多かったのですが、最近では県内のお客さまが増えています。ぜひ、和の旅館ならではの癒やしを体感してほしい」と女将は話した。
取材/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1803号・2020年7月24日紙面から掲載
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- 東江菜穂
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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。