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2023年5月19日更新

繰り返すカビ 原因は?|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話(寝室給気口付近の壁と天井)

文・下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)

住宅の劣化状態などを調査して報告する「インスペクション(建物診断)」。今回は、壁紙を張り替えても繰り返し発生するカビについて、インスペクション沖縄の下地鉄郎さんが原因を調べていく。
 

 第2話(寝室給気口付近の壁と天井) 

繰り返すカビ 原因は?

 依頼内容 
築5年の鉄筋コンクリート住宅。寝室のカビに悩んでいる。壁紙を張り替えても梅雨の時期には再び発生し、少しカビ臭もする。建物外壁にヒビなどは見つからず雨漏りによるものではなさそう。原因を知りたい。


①給気口付近に発生したカビ|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話
①給気口付近に発生したカビ(赤囲み部分)​

 現場の特徴 
・室内の壁や天井にカビが散見、給気口付近が特に目立つ
・天井裏や壁内(石こうボード裏側)にはカビ模様が目視でき、カビ臭もある
・建物周囲は海岸まで500mと多湿な立地条件



 エ アコンの先にカビ

事前相談で、建物の図面やカビ発生時の写真などをメール送信してもらい電話でヒアリング。すると「寝室の壁面にカビが発生するので壁紙を張り替えたこともあるが、梅雨の時期になると再発。掃除もこまめにしている」とのこと。

写真を見ると、エアコンの吹き出し口の先にある壁と天井にカビが出るようだ。そこで以下の仮説を立てて、調査を行うこととした。

 仮説 
どこかから湿気が流入し、壁面の湿度が上昇。そこにエアコンの冷気が当たったことによる結露現象から、カビにつながった可能性が高い。石こうボード裏や天井裏の換気ルートにも問題がありそう。


 壁 面に高い湿気

調査ではまず、カビの分布状況や範囲を確認。天井裏や石こうボード裏側の壁内を小型カメラなどで見たほか、水分測定器=写真③=や赤外線カメラで水分量の分布を確認すると、カビが目立つ壁面の水分量はやはり高かった。

換気ルートを把握するため、建物全体の給気口と排気口の位置や開閉状況を確認したところ、寝室の給気口が閉まっていた。「虫の侵入や湿気の流入を避けるため普段から閉じている」のだという。給気口のフタを開けて中を見てみると、コンクリート壁と石こうボードとの間に隙間が見えた=写真②。壁内の空気層につながるものだ。

また、風量計等を用いて、室内への外気流入具合を見てみると、幅木(壁と床の境目)や壁面のスイッチ・コンセント回りからわずかな風が入ってきていた。


②給気口内部の様子|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話③水分測定器で壁面の水分量を測る様子|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話
②給気口内部の様子
③水分測定器で壁面の水分量を測る様子。正常なら5~10%前後だが、40.5%と高い



 強 制換気で空気が壁内通る

調査結果から考えてみると、ポイントは給気口等からの漏気(隙間からもれる空気)のようだ。

空気の流れ(換気ルート)は本来、室内を通るべき=イメージ図①=なのだが、寝室の給気口は閉じられていた。しかし給気口内には壁内へ通じる隙間があったため、湿った外気が壁内の通気層や天井裏に侵入。さらに空気の循環を促すための24時間換気扇などの効果も加わり、外気が壁内に強制的に流入し続けたのだ=イメージ図②。

そして、壁内の水分量が上昇したところにエアコンの冷気が当たったことで、カビの発生につながったのだろう。

一年を通じて湿度70~80%と高温多湿の沖縄(本州では梅雨時期でも平均70~75%)。湿った外気により発生する結露現象(夏型結露)が近年話題だが、今回はその一例ともいえる。


イメージ図①(本来の換気ルート)|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話
イメージ図①(本来の換気ルート)
給気口のフタが開いており、壁内の通気層や天井裏につながる部分も気密処理(緑色部分)されているため、外気は室内を通る


イメージ図②(壁内に外気が侵入)|インスペクションで解明 住まいのミステリー 第2話
イメージ図②(壁内に外気が侵入)
給気口内の隙間から壁内の通気層に外気が侵入する



 解決策・アドバイス 
◆エアコンの設定温度を下げ過ぎないことや冷風の向きを変えるなどは有効。
◆エアコンの除湿機能や除湿器を活用するのも手。
◆給気口のフタはむやみに閉めない。
◆こまめな清掃やカビ防止スプレー、調湿材等でカビの増殖は抑えられるが、根本的な解決にはなりにくい。
◆特に今回は、給気口内の隙間を埋めて壁内への漏気を防ぎ、正しい換気ルートにすることで改善していく。




しもじ・てつろう/一級建築士、(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1950号・2023年4月19日紙面から掲載

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