メンテ
2023年4月21日更新
インスペクションで解明 住まいのミステリー①
文・下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)
住宅の劣化状態等を調査して報告する「インスペクション(建物診断)」。本連載では、住宅に発生した原因不明の不具合について、インスペクション沖縄のメンバーが原因を解明した事例を紹介する。初回は床タイルのヒビ。
第1話「リビング床タイルの謎のヒビ」
リビングの下に大空間
依頼内容
築10年ほどのコンクリート住宅。リビングの床タイルに、新築時には無かったヒビが出てきた。生活に支障はないが、原因がはっきりしないところがあるため、インスペクションで原因を明らかにしてほしい。
ヒビの幅をクラックスケールで計測している様子。約0.15ミリだということが分かる
現場の特徴
・タイルにヒビが発生したのは2階にあるリビング
・大きめの磁器タイルが部屋全体に敷かれている
・ヒビの幅は約0.15ミリで=上写真、肉眼ではわずかに見える程度
・過去にもタイルに浮きやヒビが発生し、張り替えたことがある
張 り替えたのにヒビ再発
まずは事前相談。建物の写真や室内床タイルの写真などをメールで送ってもらい、電話でヒアリングを行った。
すると「過去にもタイルが浮いたりヒビが入って張り替えた。それなのにまた同じ場所にヒビが発生した」という。パッと見では分からないほどだというが、家主はとても不安に感じている様子だった。
そこで、以下の仮説を立てて診断を行うこととした。
仮説①
外壁からの雨漏り・水回りの水漏れ、窓からの直射光による温度変化など、湿気や熱の影響が原因
仮説②
建物本体と関係する構造的なものが原因
打 診棒でたたいて調査
調査当日。建物はデザイン性が高く、丁寧に施工されているように見える。
現場は2階のリビング。大きめの磁器タイルが全体に敷かれ、その一部分にヒビが発生していた。クラックスケール(ヒビの幅を計測する道具)で測ってみると、その幅は0・15㍉ほどで肉眼ではわずかに見える程度だった。
調査はまずレーザーレベルを用いて、壁や床が傾いていないか計測するところからスタート。許容値を超える傾きは確認されない。
続いて、打診棒(建材をたたき、浮いていないかを音で確認する道具=左上写真)を使って、湿気と関連がある水回りの床タイルや壁面を調べていく。水分測定も行ったが異常値は出ず、直射日光が当たる場所にも浮きやヒビは見られない。 仮説① の湿気や熱の影響ではなさそうだ。動線上など、人がよく通る場所というわけでもない。
しかし、打診棒で調べるうちにわずかだが音の変わる範囲があった。タイルが下地から浮いているようだ。その位置をくまなく調べ、記録していった。
打診棒。建材を軽くたたき、音の違いで浮き具合などを確認する
浮 き・ヒビ・壁の位置
仮説② の構造的な原因を探るため、新築時の構造図面などと照合しながら現場の状況を確認。すると、2階中央にある壁近くの床にヒビが集中していた。タイルの浮きが発生している範囲ともおおよそ一致。図面を見返すと、その下の階は壁のない大空間になっている。
これらのことから今回のヒビは、1階の大空間を実現するために上下で壁を連続させていないことにより、タイル下の構造スラブがわずかにたわんでしまったことが主な原因と考えられる=下図。2階壁付近に重さが集中しているのに、1階にそれを支えるものがないため、スラブがたわみ、タイルの浮きやヒビにつながったのだろう。
結果を報告すると、家主は納得した様子だった。早い段階で原因を知れば対処法も見え、安心感にもつながる。
解決策・アドバイス
◆大きめのタイルはヒビ割れしやすいため、タイルサイズを小さくしたり、床の素材そのものを変える。
◆条件によるが、コンクリートは20~30年かけて強度が増すとも言われており、今後はヒビ割れの頻度も落ち着いていくと考えられる。当面は経過を観察し、今回は割れたタイルを取り替えるだけでもいいのかもしれない。
しもじ・てつろう/一級建築士、(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1946号・2023年4月21日紙面から掲載