お住まい再拝見
2015年10月2日更新
風と緑を感じて|(有)東浜建築事務所
建築士の東浜義明さん(59)=那覇市高良=が、仕事場を併設した自宅を建てたのは、22年前。南側の庭に向かって開いた室内には心地いい風が、今も吹き抜ける。今夏には、庭が地域との交流の場に変身。「風通しのいい」おおらかな住まいでの暮らしを楽しんでいる。
木陰の庭で交流
東浜義明さん宅(第476号・1994年10月14日掲載)築22年
1階和室から見た食堂。木工作家に作ってもらったテーブルは、新築当時から使っている。奥は吹き抜けになった居間で、現在、壁には次女が描いた絵が飾られている
緑豊かな公園のある住宅密集地の角地に建つ、コンクリート打ち放しの地下1階、地上2階建て。東西に細長く、一部に曲線を取り入れた外観が目を引く。住宅は、地下1階が義明さんが営む設計事務所、地上1階が居間や食堂、水回り、2階が寝室になっている。現在は夫妻と三女が暮らす。
朝。妻の江利子さん(58)が、家中の窓を開ける。南側の庭から心地いい風が入り、室内を吹き抜けていく。「家ができたときから変わりません。だから窓はいつも開けっぱなし」と目を細める。
1階食堂は夫妻がくつろぐだけでなく、来客時の応接間も兼ねている。窓越しに見える庭の風景も変わり、夫妻がもらってきた花木が枝葉を伸ばす。「新築のころは光が入り過ぎるぐらいでしたが、大きくなったホルトノキが、気持ちのいい陰をつくってくれます」。
1階台所の隣に干し場や家事室があり、料理や洗濯、物干しがしやすい造りも、江利子さんは気に入っている。「今も変わらず使いやすいですね。よく設計してくれたと夫には感謝しています」と話す。
2階に木造で増築
23年前、家族5人で住んでいたアパートが手狭になり、仕事場と一つになった住まいの建築を考えていた夫妻。土地は、娘たちが通う校区内で探した。見つかった現在の土地に夫妻は一目ぼれし、購入を決めた。義明さんは「若いころに設計した小禄南公民館のすぐ近くだったことも、縁を感じました」と振り返る。
14年前には、当時自分の部屋がなかった三女のために、2階のベランダだった所に木造で部屋を増築した。義明さんと大工でこしらえた。
そして今夏、庭を地域の交流の場にしたいと江利子さんは娘たちとかき氷店をオープンさせた。庭で取れたシークヮーサーのシロップをかけたかき氷をほおばる人で、ヌレエンはにぎわったそう。「多くの人に喜んでもらえて何より。生きがいにもなります」と笑顔を見せる。
築22年。地域の人々にも「風通しのいい」住まいでの暮らしを楽しんでいる。
敷地南側の庭。シンボルツリーとして植えられたホルトノキが心地いい緑陰を落とす。今夏、かき氷屋をオープンしたときには、ヌレエンやベンチに腰掛ける親子連れや若者でにぎわったそう
南向きの窓からの光で明るい1階台所。キッチンや食器棚の扉は10年前、観音開きから引き出し式にリフォームし、使いやすくした
建物の東側にある1階浴室。四分円のような変わった形をしている。奥は天窓があり、光がふんだんに入る
おおらかさ今も
東浜さん宅は、東西に長い敷地の個性を生かした設計がポイント。南側の庭に広く開き、室内に風を取り込みやすくした。一方、アマハジのような雰囲気の玄関や生け垣でゆるく仕切った庭など、沖縄の伝統的民家や集落の要素が散りばめられている。
2階に増築した子ども室。現在は三女のホビールームに。ロフトは娘たちの作品の保管に使っている
和室に直接入れる1階玄関。玄関先は、屋根と花ブロックの壁が室内とも外ともつかない雰囲気を醸し、縁側が懐かしさを感じさせる
敷地の東側から見た外観。左手は庭で、生け垣やホルトノキが見える
設計者・東浜義明さんに聞く
敷地の細長さを利用
敷地は、東西に細長く変形していて、南北を道路に挟まれていました。しかし見方を変えると、南側は周囲の家々が離れていて開けること、敷地の2面は道路境界線で目いっぱい建てられる利点がありました。そこでプランは、敷地の形に素直に沿って設計。南側と北側にある2メートルの高低差を利用し、地下1階には、仕事場を設けることができました。細長い建物となったことで、公私の空間を分けやすくなりました。
アマハジのようなかしこまらない玄関だったり、生け垣で仕切って周囲に開いた造りの庭は、沖縄の伝統的民家や集落の特徴を柔軟に捉えて、現代的に反映させたつもりです。
自然の恵みを利用することも意識し、2階壁面に6トンの雨水タンクを設置。現在も、自宅と事務所のトイレ用水を賄っています。
妻や娘たちにわが家を気に入っていたようで、設計者として、とてもうれしいですね。
食堂の窓際でほほ笑む東浜義明さん(左)と、妻の江利子さん
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども1人
敷地面積:123.17㎡(約37.3坪)
1階床面積:58.31㎡(約17.6坪) 2階床面積:47.6㎡(約14.4坪)
建ぺい率:63.14%(許容70%) 容積率:133.54%(許容200%)
用途地域:第2種住居専用地域(建築当時)
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計:(有)東浜建築事務所 東浜義明
施 工:比嘉組、日伸電設、泉水設備
完成時期:1993年11月
[設計・問い合わせ先]
(有)東浜建築事務所
098-859-0354
写 真/高野生優・フォトアートたかの撮影
編 集/週刊タイムス住宅新聞編集部
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1552号・2015年10月2日紙面から掲載