お住まい拝見
2015年1月16日更新
木組みの屋根と 吹き抜けに集う|てぃーだ建築設計室
糸満市真壁の照屋猛さん(61)の住まいは、築70年ほどの実家を建て替えてできた。躯体は鉄筋コンクリート造ながら、赤瓦と木組みの屋根、吹き抜けになった居間で集まれる造りに、実家の名残を感じている。正月や盆は、県外から来た家族でにぎわう。
新しい家に実家の名残
照屋猛さん宅(家族1人 自由設計 RC造&木造)
木組みの屋根が映える1階居間。高さ約4メートルの吹き抜けや勾配のある屋根、四方の高窓からの光で開放感いっぱい
孫も満足「僕らの家」
サトウキビ畑が広がり、遠くに東シナ海を見下ろすのどかな集落に建つ照屋さん宅。南に向き、東西に長い。現在は1人で住み、正月と盆には、神奈川県で暮らす妻や子どもたち家族が集まる。
赤瓦の屋根に深い庇がかかった雨端(軒下の空間)の外観が目を引く。雨端から直接居間に上がれる造りは、古き良きウチナーヤーを思わせる。
居間は、木組みでこしらえた片流れの屋根に、高さ約4㍍の吹き抜けが印象的だ。夜、ソファに腰掛けていると、高窓越しに星が見えるという。「居心地がいいのか、孫たちは『ここはじぃじぃの家じゃなくて、僕らの家』と言い張るんだよ」と顔をほころばせる。床に用意した掘りごたつで、一家だんらんを楽しむ。
坪庭に面した浴室で大きな浴槽に孫と入るのが、至福のひと時という。「嫁たちには、『ホテルみたい』と評判がいい」。玄関隣の客間、東側の子ども室や夫婦寝室は、今のところゲストルームとして使っている。
40年来 神奈川と行き来
照屋さんは40年ほど前に大学進学で上京し、そのまま就職・結婚。自宅を神奈川に構えた。実家の仏壇を管理するため、神奈川と沖縄とを行き来する生活を長年続けてきた。
実家は、築70年前後のウチナーヤー。「戦後、物がない中でおやじが造った家だからね。何とか残したかった」。しかし老朽化が進み、維持管理が難しいことから、建て替えを決めた。
設計は、古民家の調査で照屋さんの実家を訪ねてきた建築士に頼んだ。同じ糸満高校野球部のよしみで、意気投合したことも決め手になった。
「新しい家でも実家の名残を」という照屋さんの思いに、建築士はさりげなく応えた。雨端の下に敷かれた琉球石灰岩の踏み石などは、以前のままだ。居間を中心に大勢集まれる造りも「前の家とまったく同じ」と、照屋さんは満足している。
「いつか、妻や子どもたち家族と一緒に暮らせたらいいな」。人懐っこい顔で心待ちにしている。
食堂から見た居間。ソファとテーブルの下に、掘りごたつが仕込んである。左の仏間とは段差がなく、一続きで使いやすい。奥は深い庇の掛かった雨端
木組みの屋根と高窓からの光が印象的な玄関。左手は客間で、正面奥は、居間を通らず水回りに直行できる通路につながる
6畳の仏間。正面奥は屋根が掛かった縁側で、室内の延長としても使える
ここがポイント
東西南北に高窓 居間はより快適
照屋さん宅は、実家のたたずまいを感じさせるウチナーヤーの要素を、外観や間取りに散りばめたのが特徴だ。特に、居間は快適さを高める配慮が見られる。四方に高窓がある吹き抜けにしたことで、光をふんだんに取り込めるようにした。北側の高窓は手元のハンドルで開閉でき、室内の熱をスムーズに屋外へ逃がす。片流れ屋根の勾配は、熱を効率良く逃がす効果もある。
設計した大城通一級建築士は木組みの屋根について「冬は暖かく、夏は涼しさを呼ぶ。長く過ごす居間だからこそ、快適さを高める工夫として提案した」と説明する。
一方、深い庇を居間の南側などに設けることで、日陰を生み、直射日光が室内に入り込むのを防ぐ。
近い将来、住み方の変化を見据えた造りもポイントだ。北側の浴室隣にスロープを用意し、水回りや寝室へ車いすで行き来できるようにした。
子ども家族と同居する場合は、客間を照屋さん夫妻の寝室とし、夫婦寝室を子ども夫婦が使う。子ども室は現在ワンルームだが、3部屋に仕切ることもできる。
住宅のほぼ中央に設けられた通路は、照屋さんと来客の動線を緩やかに分ける役割がある。
そのほか、雨水タンクを設けて、敷地北側にある畑の水まきや洗車、トイレに使えるようにしてある。基礎は、面型でシロアリが土壌から侵入してくるのを防ぐ「ベタ基礎」とした。
敷地南側から見た外観。赤瓦と深い庇がウチナーヤーの雰囲気を感じさせる。曲線になった屋上の立ち上がりにも瓦をあしらい、優しい印象に仕上げた
照屋さんが孫との入浴を楽しむ浴室。右手に見えるのは坪庭。木壁で目隠ししているため、窓を開けたまま気兼ねなく入浴できる
食堂や台所につながる通路。左手は洗面・脱衣室、右手は収納。天窓を設けて、住宅の中央にあっても暗くならないようにした
雨端。暗くなり過ぎないよう、屋根には乳白色のポリカトタンを張った。琉球石灰岩の踏み石などは、以前のまま
[DATA]
家族構成:1人
敷地面積:531.7㎡(約161坪) 1階床面積:132.3㎡(約40.1坪)
建ぺい率:37.8%(許容60%) 容積率:24.8%(許容200%)
用途地域:市街化調整区域
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式構造(一部木造)
設 計:てぃーだ建築設計室 大城 通
構 造:パス建築研究所 新川清則
施 工:(有)平良建設 平良秀晃
電 気:(株)西崎興業 金城和良
水 道:(株)西崎興業 呉屋 裕
[設計・問い合わせ先]
てぃーだ建築設計室
098-992-3191
http://thiida.web.fc2.com
写 真/高野生優・フォトアートたかの撮影
編 集/週刊タイムス住宅新聞編集部
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1515号・2015年1月16日紙面から掲載