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2016年11月11日更新

高低差を「良い距離」に|(有)義空間設計工房 

那覇市首里にあるKさん宅は前面道路より3メートル下がった敷地を生かして地下階を設けた。敷地の難を逆手に取って約25年ぶりに同居する親子の居住空間を分け、いい距離感を生んだ。

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地下階と1階 親子の空間分ける

Kさん宅 RC造/自由設計/家族2人

Kさん宅が建つのは道路と3メートル、隣地と5メートルの高低差がある土地で、手前には川が流れる。川(崖)との距離を取るため地下階はコンパクトにし、1階は張り出し式にして床面積を確保した


的を絞って開口
Kさん宅が建つのは、「先祖代々受け継いできたが、家が建ったことはない」と母親(83)が話すほど難があった土地。
前面道路とは3メートル、隣地とはさらに5メートルの高低差があり、南西側には川が流れる。おまけに「く」の字型の敷地。
Kさんは同級生の建築士に設計を依頼。「土地を見てもらったら『ここしか無いの?』って苦笑していた。でも、高低差をうまく生かした家を建ててくれた」と感謝しきり。
家は、駐車場から玄関、室内までバリアフリーで続く1階と、地下1階の2層建て。
1階は母親の居住空間であり、親子のだんらんスペース。
LDKに開放感をもたらしているのはリビングテラスだ=下写真。Kさん宅は住宅密集地かつ、他の家より低い位置にあるため三方を壁で囲み視線をカット。外と「目」が合わない南側へとピンポイントに開いている。米国暮らしをしていたKさんにとっては、「晴雨問わずホームパーティーができる最高の場所」だ。
同じく1階にある母親の寝室は、ウオークインクロゼットへとつながっていて、クロゼットから洗面脱衣所、トイレ、浴室まで直線で行き来ができる。母親は「前の家ではつえが欠かせなかったが、今はあまり使ってない」と笑う。

居室通らず地下階へ
前面道路から下がった敷地を生かして設けられた地下1階はKさんの居住空間。
1階・玄関ホールのすぐ脇に階段があり、1階の居室を通らずとも地下にいける。大学教授のKさんは、夜遅く帰ることも多い。「母親に気を使わず出入りできるので、助かっている」。
地下にもトイレやシャワー、小さなシンクがある。普段の食事は親子一緒だが、仕事が立て込むと地下にこもって集中する。「母と暮らすのは約25年ぶり。不安はあったが、ちょうど良い距離感」と話す。
同居して、良かったことがもう一つ。「母が暮らしやすいなら私も老後、暮らしやすいはず。先を見越した家ができた」。難を乗り越え、安住の家を手に入れた。 


1階のLDK。広めにとったキッチンは親子2人でも動きやすい。階段のある玄関ホールとの間には扉があり(写真中央)、「閉めてしまえば、私が夜遅く帰ってきても母の睡眠を邪魔しない」とKさん


1階のリビングテラス。三方が壁で囲まれた半戸外空間だから、晴雨問わず開け放てる。他の家からの視線が気にならない方向にピンポイントで開く


1階、母親のウオークインクロゼットから洗面脱衣所、トイレ、浴室まで直線状につながっている。「段差もなくて移動しやすい」と母親。窓が少ないことから、直線の中央にある脱衣所にトップライトを設けて明るさを確保
 

ここがポイント
地下階で敷地を“造成”

前面道路の高さまで敷地全体に盛り土をし、造成するやり方もあるが「お金と時間が掛かり過ぎる」と、義空間設計工房の1級建築士・伊良波朝義さんは、選択しなかった。
歪な敷地を無駄なく安全に生かすため、選んだ方法は「地下階を設ける」こと。
地下1階が盛り土の役目も果たし、1階は前面道路と同じ高さになる。さらに「地下階は擁壁の役目も果たす」と話す。「親子の居住空間を分けて」との要望もあったことから、階層を分けることは理にかなっていた。
難の多い敷地の中で、家の基礎を造る場所も構造の専門家とともに模索。南西にある川(崖)から距離を取るために北東側に寄せ、地下階は17坪とコンパクトにまとめた。「地下階を大きくすると、それだけ基礎が崖に近づいてしまう。その分、1階は7坪ほど張り出させ、床面積を確保した」。
近隣から見下ろされる視線を遮るため、リビングテラスは壁で囲ってボックス型にした。
とはいえ、風や光が十分に入らなければ意味がない。そこで「東からの光と風も取り入れるべく、ボックス東側の上部にも横長のスリットを開けた」。リビングテラスに立つと、このスリットの効果が分かる。光と風が通る上、視線が空へと抜けるから、囲われた窮屈さが格段に減る。室内に近い位置にあり、「中へも心地良さを運んでくれる」と説明した。


地下1階、Kさんのリビングと寝室。間は扉で仕切ることができる。Kさんの友人が来たときはリビングが客室に変わる。地下とはいえ、庭に面していることから明るく、風通しも良い


地下にもシンク(写真右側)やシャワー室(奥)があり、仕事で家にこもることも多いKさんは重宝している。寝室からウオークインクロゼットを通り、シャワー室へ行くこともできる


前面道路側から見た外観。玄関は花ブロックで覆って、ゆるく視線をカット

[DATA]
家族構成:Kさん、母親
敷地面積:287.14㎡(約87坪) 
1階床面積:80.75㎡(約24坪) 地下1階(〃):57.60㎡(約17坪)
建ぺい率:31.27%(許容50%) 容積率:48.18%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート壁式構造
設 計:(有)義空間設計工房 伊良波朝義・上地結華
構 造:(株)MAY設計事務所
施 工:山城建設
電 気:神谷電設
水 道:新栄設備工業
ガ ス:沖縄ガス(株)
キッチン:(有)MOV

[設計・問い合わせ先]
義空間設計工房  098-888-5303  http://www.gikuukan.com
写真/泉公 ララフィルム撮影  編集/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1610号・2016年11月11日紙面から掲載
 

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東江菜穂

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編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

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