お住まい拝見
2025年5月9日更新
[お住まい拝見]20坪でも大らかな木造|(株)ISSHO建築設計事務所
[日傘を広げたような屋根]
Uさん夫妻は建築士が手がけた宿に泊まり「居心地が良かった」ことから、木造住宅を選んだ。床面積は約20坪ながら、LDKは木サッシの大窓を開けなくとも南側の庭を見渡せるほか、屋根裏まで視線が抜ける。日傘を広げたような屋根が住宅を包み込み、室内は非常に大らかな空間だ。

LDK。室内は柱・梁(はり)、小屋組みとあらわになった構造体に加え、木サッシの大窓や木ルーバーの戸など建具類も材料をそろえることで統一感のある空間に。大窓を開け放てば、風が家全体をめぐるほか、南側のウッドデッキ・庭とつながって一段と広がりを感じられる
木の調湿性で快適な室内
Uさん宅
木造/自由設計/家族3人
Uさん夫妻が「木造」住宅に暮らすのは初めて。妻は「正直、不安な面はありました」と話すが、転機となったのは建築士が手がけた宿「新民家」に宿泊したこと。「何よりも居心地が良くて」と振り返る。木造で不安だった耐候性なども、「宿を例に造りや木の経年変化などを細かく教えてもらい、これなら大丈夫」と設計を依頼した。
完成したのは床面積・約20坪とコンパクトな木造平屋。室内は構造体の柱・梁のほかに、LDKは木サッシの大窓や木の建具などで統一感のある雰囲気。夫妻は「調湿効果などがある木をふんだんに使ったおかげか、不快な湿気を全く感じない」と口をそろえる。 雨天だった取材日でも、温湿度計は60%を指していた。エコアンは一台だが、「複数台あったこれまでの住宅より過ごしやすい」と笑う。

庭から見る外観。木の大窓を開け放てば、ウッドデッキ・庭が連続的につながり、外も含めた大らかな空間に。入居後、友人らを招いてバーベキューを楽しんだ

方形屋根が家全体を包み込むように四方に伸び、軒が雨や日差しなどを遮る。軒先の斜材が強風による吹き上げや水平力に抵抗し、住まいを支える(鳥村鋼一撮影)

居室は引き戸を開け閉めすることで、広さを調節できる。湿気がたまらないよう、ルーバーの引き戸で通気を良くしたほか、白い内壁はしっくい仕上げ。壁にはしごをかけて、屋根裏部屋に上がる
石垣・木・井戸は活用
ほかにも夫妻がこだわったのが「庭」だ。購入した那覇市内の敷地にはバナナの木や石垣、井戸があったため、そのまま残すことに。「修理した井戸から植栽に散水。庭造りが楽しいし、室内の木感とマッチする眺めもお気に入り」とUさん。LDKの大窓を開け放てば、軒下空間のウッドデッキ、庭まで一体的につながり、非常に伸びやか。
加えて、「どの部屋からでも屋根裏まで視線が抜けて、床面積以上に広く感じられるのもいい」と妻。家の中央にウオークインクローゼット(WIC)があり、上部は屋根裏部屋となっている。「余すことなく空間を使えて、大きな収納スペースとして重宝しています」。またWICを囲むように各部屋が配置され、「回遊性の動線で行き来もスムーズ」とうれしそうに話す。

玄関からの動線は三叉路(さんさろ)のように分かれ、左はLDK、中央はWIC、右は居室につながる

キッチンから水回りに一直線につながる動線上にはトイレのほか、収納スペースを設けている

キッチンは室内の雰囲気になじむよう、建築士らに設計・造作を依頼。冷蔵庫の前を右に曲がると水回りにつながる
夫妻は「まさかこんな暮らしが都市部でできるとは思わなかった」と満足げ。要望の庭、そして居心地にひかれた木造住宅での暮らしは続く。
ここがポイント
伝統進化させた造り
縦・横に広がる空間

LDKをはじめ各部屋は屋根裏部屋と立体的につながる。冷気は下部、熱気は上部にたまるため、屋根裏に設けた通気口などから効果的に排熱。また木の調湿効果で、快適な室内環境を保つ
Uさん宅のベースとなっているのはISSHO建築設計事務所の建築士・漢那潤さんが考案した規格住宅「日傘の家」だ。強風を受け流す方形屋根(中央から四方に傾斜する形)など伝統的な民家の造りを参考に、独自工法で現代的な木造住宅に進化させ、「構造に影響しない範囲で、プランなどは変更可能」と説明する。
その特長はこれまでの木造住宅では実現できなかった大開口を設けられること。構造解析とオリジナルの構造金物を活用することで最小限の壁量(32パターンの構造基本モデル)を成立させ、庭などの屋外を生かした開放的な造りも可能となる。「床面積が小さくとも広がりを感じられる」と漢那さん。

伝統的な民家さながらの、ヒンプンや軒下空間が印象的な外観。敷石や植栽が玄関まで続くアプローチを演出している

あらわになった軒先の垂木が自然と動線を誘導している
Uさん宅では要望だった庭に隣接するよう、南側にLDKを配置。木サッシの大窓を取り付けることで、「窓を閉じたままでも庭(横)に視線が抜ける」。さらに小屋組みをあらわにしたため高さが生まれ、「縦にも視線が抜けながら、屋根裏部屋を確保して、収納などスペースを有効活用」。一方、接道する北側の開口部は大窓の外側に木ルーバーを設置し、「プライバシーを守りながら、風が家中を巡るよう計画しました」。

収納スペースの屋根裏部屋は子どもの遊び場にもなる。広がりのあるLDKとは対照的に天井高が低くなり、秘密基地のよう

前面道路側に配置された居室。木の大窓の外側には木ルーバーを取り付け(下写真)、都市部でもプライバシーを確保
縦の広がりを生む方形屋根の利点はほかにもある。自然の猛威から住宅を守ること。漢那さんは「耐風圧に加え、深い軒のおかげで室内は日陰となり、外壁など木に当たる雨水の面積を最小限に抑える」と話す。
構造体に加え、建具類まで木で仕上げたことで統一的な仕上がりに。また、「木材は調湿効果だけではなく、『フィトンチット』という物質を放出し、抗菌・空気清浄成分などで心地良さを高める」。
[DATA]
家族構成:夫婦+子ども1人
敷地面積:211.59平方メートル(約64.00坪)
床 面 積 :66.92平方メートル(約20.24坪)
建ぺい率:32.09%(許容50%)
容 積 率 :31.63%(許容100%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:木造・軸組構法
設 計:(株)ISSHO建築設計事務所
漢那潤、長瀬駿也
施 工:(株)ISSHO建築設計事務所
構 造:ASD
電 気:(株)セイリング
水 道:(有)オーケイ設備
◆問い合わせ
(株)ISSHO建築設計事務所
電話=098・917・2842
https://www.shinminka.com/
撮影/比嘉秀明 文/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2053号・2025年5月9日紙面から掲載