お住まい拝見
2025年3月14日更新
[お住まい拝見]柔らかな曲線で受け流す|(株)平田設計
[突き当たりの難を和らげる]
建築家・平田歩さん(41)の自邸兼事務所は、宜野座村の景色が大パノラマで望める開放的な造り。曲線的な形は「農道の突き当たりに立つので、風や悪い気を受け流すことをイメージした」と話す。

円弧状の屋根が印象的な平田さん宅。無機質なコンクリート打ち放しだが、やわらかい印象。木サッシ窓を開け放つと、東屋のような開放感
挑戦随所に 住んで体感
平田さん宅
RC造/自由設計/家族5人
LDKは高さ2.8メートルの大窓が連なり、向こうには畑、その先には海を望む。「地元の、ありのままの景色を暮らしに取り込んだ」と施主で建築家の平田歩さんは話す。
外へ丸くせり出したような形が室内外の距離を近づけ、日の入る角度や影の落ち方、植物の色の変化など季節の移ろいを感じさせる。
広々としたLDKは、夫人(41)の強い希望でもあった。「家族が自然と集まってくるような、伸びやかな空間にしてほしいとお願いした」
小学5年生の長女、2年生の長男、幼稚園の次男は、リビングでテレビを見たり、土間スペースでバスケットをしたり。ダイニングテーブルで図面を広げる平田さんのそばで宿題をする姿も。夫人が希望した通りの空間になっている。

高さ2.8メートルの窓が連続し開放感たっぷりのLDK。「自分の家で挑戦したかったのは、自然と近づけること。長短所はあるが、体感しながら楽しく暮らしている」と平田さん
造作家具でスッキリ
施主で建築士でもあることから「思い切って好みを反映させ、暮らしながらメリット・デメリットを体感している」。
その一つが木製サッシ。高さ2.8メートル、厚さ12ミリの強化ガラスを木の枠に納めた。「温かみを感じる見た目がとても気に入っている。ただ気密性は低いので、風や虫が侵入してくる。妻はちょっと不満みたい」。
また「LDKはすっきり見せたい」と綿密に収納計画を立てた。空間にぴったり収まる造作家具のほか、冷蔵庫の収納庫も設けた。「調理時などは収納扉を開け放っているので、あまり不便はない」と夫人。レンジフードは天井に埋め込んだ。「換気量が心配だったが問題ない。空間が広いことや、風通しが良いことも奏功しているかも」と平田さん。
快適なことも、そうでないことも。一つ一つ味わいながら、家族で暮らしを楽しんでいる。

スッキリしたキッチン。背面には大きな造作家具を設け、物が表に出ないようにした。レンジフードは天井に埋め込み、冷蔵庫はテレビ横の収納に収まっている

玄関を入ると、真っ白な廊下が伸びる。この廊下の奥に子ども室がある

2段ベッドのような造りの子ども室。仕切っても使えるように、各空間にエアコンダクトやコンセントを準備している
ここがポイント
LDKは開放的
寝室などは堅固
「ずっと家を建てたくて土地を探していたが、なかなか希望の地域に売り地が出なかった」と施主で建築士の平田歩さんは話す。
ようやく購入したのは国道と農道に挟まれた敷地。南東側の眺めは良いが、農道の突き当たりに面している。「沖縄では『魔物は直進してくる』として、突き当たりに魔よけの石敢當を付ける風習がある。それを踏まえ、眺望は享受しつつ、悪い物は入れないような造りを僕なりに考えた」
新居は円弧状の屋根と木製建具で構成し、コンクリート打ち放しながら、丸く柔らかい印象。「硬く閉鎖的にしてはね返すのではなく、曲線で受け流すというイメージを形にした。台風の猛威もかわせることを期待している」。

玄関側の外観。玄関から廊下は閉鎖的にし、そのギャップでLDKの開放感を強調している

左側が事務所で、右側が住居
LDKや事務所などのパブリックスペースはおおらかな円弧内に配し、寝室や水回りなどのプライベートスペースは、そこから壁と廊下を挟んだ北西側に配置した。「家と自然を近づけた分、自然の驚異から家族を守る堅固な場所も必要。プライベートスペースはしっかり壁などで守った。そしてその壁は家族が安心感を覚えるような、ずっしりとした岩っぽいデザインにした」。事務所側の壁は骨材の凹凸を出した洗い出し仕上げに、LDK側の壁は琉球石灰岩の掻(か)き落とし仕上げにしている。
「そのほかの壁や天井の仕上げはシンプルにした。天井はコンクリート打ち放し、廊下やプライベートスペースは白の塗装仕上げにしている。想定よりも床面積が大きくなったので、仕上げは簡潔にしてコスト削減を図った」と話した。

事務所。来客は掃き出し窓から出入りする。壁は洗い出し仕上げ

リビングの一角は土間になっていて、子ども達がバスケットをして楽しむ。「土間の外は庭にする予定なので、汚れを気にせず出入りできるよう考慮した」

LDK背面の壁は琉球石灰岩の掻き落とし仕上げ。「壁は岩のようにずっしりとした感じを演出したかった」
[DATA]
家族構成:夫婦、子ども3人
敷地面積:534.02平方メートル(約162坪)
1階床面積:169.17平方メートル(約51.23坪)
※事務所は約46平方メートル(約14坪)
建ぺい率:36.77%(許容70%)
容積率:31.67%(許容400%)
用途地域:無指定
躯体構造:鉄筋コンクリート壁式構造
設計:(株)平田設計 平田歩
構造:(有)沖縄新和ハウス工業 新里祐大
施工:(有)仲地建設
電気・水道:津嘉山電水社
◆問い合わせ
(株)平田設計
電話=098・968・2462
https://ayumu-hirata-architects.jimdosite.com/
撮影/比嘉秀明 文/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2045号・2025年3月14日紙面から掲載
この記事のキュレーター
- スタッフ
- 東江菜穂
これまでに書いた記事:363
編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。