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2024年1月19日更新

食事が楽しくなる家|アトリエ・ネロ[お住まい拝見]

[漆でダイニングを演出]
Hさん宅のダイニングは朱色のキッチンや黒色のテーブルなど漆で仕上げたインテリアが際立つ。「特別感があり肌触りもいいため、食事や晩酌が一段と楽しくなった。掃除もしやすい」と夫婦は喜ぶ。

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天井高が最高約4メートルのダイニング。キッチンやテーブルのほかに、写真右側の青色の引き戸、左側の黄色の扉も漆で仕上げたもの。「家にいるときは新調した椅子に腰掛けて、ダイニングでのんびりと過ごしています」とHさん夫婦


いつでもDKが定位置

Hさん宅
 RC造/自由設計/家族2人 

夫婦ともに料理や晩酌を楽しむことから、家づくりで欠かせなかったのが「ダイニング・キッチン(DK)空間を充実させること」。同級生の建築士の提案を受けて、漆で仕上げたキッチンやダイニングテーブルなどを取り入れた。夫婦は「漆は取り扱いが難しそうなイメージだったけど、肌ざわりや仕上げ方などの説明を聞いて、考えが変わった。2人暮らしなので間取りはコンパクトにして、インテリアや建具などにお金をかけることに。1番長く過ごす空間がカッコよくなった」と話す。寝室や水回りの扉などにも漆を使い、首里城の修復を手がける職人に制作してもらった。

休日になると、共働きの夫婦は一週間分の食事を準備する。「準備し終えると、ダイニングテーブルで音楽や映画を鑑賞しながら、くつろぐのが至福の時間。花ブロックが目隠しになり、外部の視線を気にせず、のんびり過ごしています」とHさん。

一方、西側にまとめた水回りは仕切り壁を設けず、2階全体が回遊性のある造りになっている。「仕事に行く支度だったり、洗濯物を干してからクローゼットに収納したりするのも楽」と夫婦は口をそろえる。
 

DKは片流れ屋根を採用し、ガラス戸と向かい合うよう、北側に高窓を配置。風の流れをつくり、高いところに集まる暖かい空気を効果的に排熱する
 

1階の土間。Hさんがバイクいじりなどを楽しむ
 

寝室の床や壁に使っている木もHさんが柿渋を塗って仕上げた


 

残る仕上げの跡は味

夫人の実家の隣に住むため、家づくりをスタート。DKや寝室の床と壁は自分たちで柿渋を塗って仕上げた。Hさんは「塗り方にムラがあったり、自分の足跡が残ったりしたけど、それも一つの味。メンテナンスの仕方も分かったので、自分たちで定期的に手入れしていきたい」と話す。

新築祝いには友人15人を招待。DKとルーフバルコニーをつなげて、自慢のキッチンとテーブルを中心に食事や思い出話を楽しんだ。夫婦は「いつでも、定位置はDK。使い続けてキッチンや扉の味わいの変化も楽しんでいきたい」とほほえんだ。
 

外観。花ブロックでぐるっと囲むことで、台風時の強烈な雨風が居住空間に影響を与えないようにした。また、1階のポーチは既存の塀を取り壊し、写真右側に隣接する夫人の実家と交流しやすいようになっている
 


西側の水回り。西日の熱で洗濯物や浴室が乾きやすいようになっている



約2メートル突き出した庇は日差しを遮りつつ、ハンモックを取り付けられる半屋外空間として使える

階段下のトイレの扉も、緑の漆で仕上げている。「扉は縦半分で仕上げ方を変えてもらい、表情が違っていい」とHさん



ここがポイント
漆を住宅に 技術継承も

交通量と人通りが多い密集地に立地するHさん宅。「料理やお酒を楽しめる落ち着いた空間」という要望を受けて、設計を手がけた根路銘安史さんと水上浩一さんはダイニング・キッチン(DK)の居住性を高めることに。居住スペースを2階に上げ、通りに面する西側と南側を花ブロックで囲むことで、外からの視線と騒音を抑えるよう計画した。「西側には階段室や水回りを配置し、西日の熱を伝えにくくする緩衝帯としての役割を持たせることで、夫婦の生活の中心となるDKの快適さをより高めた」と説明する。

特徴的なのはDKや扉などに漆を使っていること。その意図について、「住宅にも伝統的な職人技を取り入れることで、琉球文化を身近に感じられるだけではなく、文化・技術の継承にもつながってほしい」と根路銘さんは説明する。機能的な化学塗料も多いが、首里城などに使われてきた漆は水や油などに強く、塗り重ねるほど丈夫にもなるとのこと。水上さんは「吸い付くような肌触りや経年変化を楽しめるのは漆ならでは。普段使いするキッチンを中心に漆を採用することで、使う喜びも増して生活が豊かになる」と話す。質感の違う二つの塗り方を組み合わせて表情を出したり、色味も変えたりすることで、結果的に特別感のある空間につながった。「施主の理解と職人の工夫のおかげ」と根路銘さん。

南側のバルコニーには約2メートルと深い庇(ひさし)は突き出すことで、雨の日でもDKのガラス戸を開けたまま過ごせるようにした。

また、コスト削減のため、室内の仕上げはできるだけ簡素化したり、施主と柿渋を塗ったりした。「手入れの仕方も知りながら、家への愛着にもつながる」。


[DATA]
家族構成:夫婦
敷地面積:261.49平方メートル(約79.1坪)
1階床面積:90.00平方メートル(約27.2坪)
2階床面積:76.85平方メートル(約23.2坪)
建ぺい率:38.44%(許容90%)
容積率:51.05%(許容200%)
用途地域:近隣商業地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造
設計:アトリエ・ネロ
   根路銘安史、水上浩一
構造:パス建築研究室 新川
施行:(有)匠建
電気:松島電気工事(株)
水道:泉水設備(株)
ガス:沖縄ガス(株)
キッチン:(有)モブ
漆:漆芸舎 伍

問い合わせ
 アトリエ・ネロ
 電話:098・889・0103
 https://www.a-nero.com/


撮影/比嘉秀明  取材/市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1985号・2024年1月19日紙面から掲載

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