16坪ですっきり暮らす|(有)門一級建築士事務所|タイムス住宅新聞社ウェブマガジン

沖縄の住宅建築情報と建築に関わる企業様をご紹介

タイムス住宅新聞ウェブマガジン

お住まい拝見

お住まい拝見

2016年8月12日更新

16坪ですっきり暮らす|(有)門一級建築士事務所

家族4人で暮らす16坪の平屋。LDK、寝室、書斎、子ども室を一つにまとめた。無駄を省いたシンプルな家は、建築コストを抑えて庭を広げ、家族の絆を強める。


お住まい拝見

タグから記事を探す

無駄省きコスト削減 多機能な一室空間

Nさん宅 RC造/自由設計/家族4人
  
庭の緑に囲まれた、シンプルなNさん宅の外観。玄関の右側には、高さ2・7メートル、幅3メートルの大きなはめ込み式の窓があり、室内からも緑が存分に楽しめる。



沖縄県本島中部、中城村の住宅地。庭の緑に囲まれた四角い外観は、さながら〝ケーキの箱〟。
「コストを抑えたい」「スッキリした外観」「子どもは巣立つから、小さな家で良い」。要望を、箱型の住宅を得意とする建築士に託して生まれた形だ。

玄関には靴を脱ぐ「たたき」がない。靴はドアの外、150センチの軒が影をつくる「アマハジ」空間で着脱。ここは来客の対応をしたり、子どもたちの遊び場にもなる。Nさん(40)は「空間を多機能にし、無駄を省いた」と話す。
室内も「箱」のイメージそのもの。対面式のアイランドキッチンが鎮座するLDKと、ベッドが置かれたフリースペースが一体となった、仕切りのない真っ白なワンルーム。書斎、子ども室も兼ねた12坪の空間が、Nさん宅の8割を占める。
「個室が必要になれば、フリースペースに仕切りを入れることも考えている。家を小さくした分、庭が広いから外にプレハブを建ててもいい」。

シンプルな家は実に柔軟だ。
残り2割は、2坪のウオークインクロゼットとトイレ、洗面脱衣所+浴室。「浴槽は付けなかった。家族にとって不要なものを省いただけだから、不自由はしていない」と潔い。

物の量2分の1に

キッチンは予算を惜しまずオーダーメードにした。「食は生活の中心。皆が使いやすく、すっきり感にこだわった」。
食洗機やオーブン、食器棚はキッチンに内蔵。冷蔵庫以外のものは極力、表に出ないようにした。

新居に引っ越す際、食器はキッチンに入る量に、服はウオークインクロゼットに収まる量に減らした。夫人(41)は、「前に住んでいたアパートと広さはあまり変わらない。だけど物の量を半分にしたから広く感じるし、掃除もしやすい」と笑う。
「良い環境で子育てしたい」と土地を購入。家造りを始めた。
室内外と好きな場所で遊び、寝転び、笑う子どもたち。いつでも親の顔が見える安心感もあるのだろう。小さな家ならではの伸びやかさを感じた。 


玄関から入ると、LDKとフリースペースが一体になった12坪の空間が広がる。右奥にはベッドもチラリと見える


2坪のウオークインクロゼットに、家族の服すべてを収納。洗面脱衣所や物干し場と隣接しており、「家事動線が良い」と夫人

フリースペースで遊ぶ子どもたちと夫人。部屋に仕切りがない分、すべてが遊び場だ


キッチンにいても、正面のはめ込み窓から庭の緑が見えて気持ちいい。キッチンはオーブンや食器棚などを内蔵させ、周りに物を置かないようにしている​


トイレは打ちっぱなしでシンプルに。窓は明かり取り用のはめ込み窓のみ​


物干し場に続く勝手口から洗面脱衣所と浴室を見る。右側の浴室もトイレと同様打ちっぱなしで、浴槽は設けずシャワーのみ。「勝手口を開けて外の緑を見ながらシャワーを浴びるのがお気に入り」とNさん​


北側の外観。窓は外に開く滑り出し式にすることで、庇が不要になり、スッキリした外観を保つ


ここがポイント
天井・床直仕上げ 窓は滑り出し式に

大命題は「コストを抑えること」。門一級建築士事務所の金城司さんは「小さな家」を提案。さらに、省ける工事や建材を取捨選択して調整した。
その一つが、天井や床の「直仕上げ」。多くの住宅ではコンクリートスラブの内側に空間を設けて下地材を設置し、その上に仕上げをする構造になっているがNさん宅はスラブに直接仕上げを施した。これにより、下地材のコストを削減。天井の懐や床下を無くしたため、2・7メートルの天井高が確保できた。「小さくても、窮屈さを感じさせないポイントにもなった」。外との緩衝空間を無くした分、暑さ対策が大きな課題となる。

金城さんは、断熱塗料での対策を選択。「効果が高い塗料は値が張るものが多い。だがNさん宅は小さい分、使用量が少なく金額はさほど高くならない」。30坪ほどの住宅ならば、安価な塗料との差額が数百万円に上ることもあるというが、Nさん宅では数十万円の差しかなかった。「下地材を入れるより、安く済んだ」。
窓の設け方にも工夫が光る。Nさんが「窓の中央にサッシが入るのが嫌。引き違い窓は入れたくない」と望んだことから、金城さんは外に開く滑り出し窓を提案した。

引き違い窓だと雨よけの庇を設置する必要があるが、滑り出し窓は、それ自体が雨よけになる。
無駄を省くことはコスト削減だけでなく、Nさんが要望していたシンプルな外観にもつながった。


[DATA]
家族構成:夫婦、子ども2人
敷地面積:240.37㎡(約72坪)
1階床面積:55.17㎡(約16.68坪)
建ぺい率:29.70%(許容50%)
容積率:22.95%(許容150%)
用途地域:第一種低層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造壁式構造
設 計:門一級建築士事務所 金城司
構 造:建築設計・明
施 工:㈱共和技研
電 気:真喜志電設
水 道:泉水設備㈱
キッチン:(有)MOV

[設計・問い合わせ先]
門一級建築士事務所
098-888-2401
http://www.jo1q.com/
写真/泉公撮影・ララフィルム
編集/東江菜穂
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞 第1597号・2016年8月12日紙面から掲載
 

お住まい拝見

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
東江菜穂

これまでに書いた記事:351

編集者
週刊タイムス住宅新聞、編集部に属する。やーるんの中の人。普段、社内では言えないことをやーるんに託している。極度の方向音痴のため「南側の窓」「北側のドア」と言われても理解するまでに時間を要する。図面をにらみながら「どっちよ」「意味わからん」「知らんし」とぼやきながら原稿を書いている。

TOPへ戻る