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2022年5月27日更新

[沖縄・お住まい拝見]ウチナー家を現代風に|(株)琉球住樂

[1人でも大勢でも快適]実家を継ぐにあたり「1人でも快適で親戚や子どもたちも集まれる家に」と考えたYさん(79)。家族やご近所さんと気楽に集える開放感はそのままに、家事の手間が省け健康的に暮らせる現代のウチナー家(ヤー)に建て替えた。

青空に赤瓦の屋根が映えるYさん宅の外観。左手前から続く石積みの階段の先に見えるのが琉球石灰岩の一枚岩で作ったヒンプン。
青空に赤瓦の屋根が映えるYさん宅の外観。左手前から続く石積みの階段の先に見えるのが琉球石灰岩の一枚岩で作ったヒンプン。Yさんが建築士と石屋まで足を運んで選んだ


健康的に暮らす

Yさん宅
木造/自由設計/1人

Yさん宅は琉球石灰岩の石積みと植栽に囲まれた平屋の木造住宅。赤瓦屋根にシーサー、大きな一枚岩のヒンプンが印象的だ。

庭先の菜園では野菜や果樹がすくすくと成長。Yさんは「これはレモン、そっちのアボカドは実がつき始めたところ。裏には春菊にトマト、ゴーヤーもある」とはにかみつつ説明してくれた。

玄関扉を開けると目を奪われるのが、屋根を支える太鼓梁(はり)などの小屋組み。LDKは天井まで最大4・7メートル、二つの和室とつながり広々としている。「天井が高いと気分がいい。漆喰(しっくい)壁で空気もきれいになるしね」とYさんも満足そう。

普段は1人だが、親戚や子どもたち家族が遊びにくる時は和室が客間代わりに。Yさんの寝室は西側にまとめた水回りとつながるため、洗面室の引き戸を閉じれば来客を気にせずくつろげる造りも気に入っている。
 

キッチン側から見たリビングと和室のつながり。右手奥から左手前に延びる2本の大きな太鼓梁に目を奪われる。

キッチン側から見たリビングと和室のつながり。右手奥から左手前に延びる2本の大きな太鼓梁に目を奪われる。吹き抜けの大空間だが、空調は右手の壁に取り付けたクーラー1台。樹脂サッシの窓を閉め天井に取り付けたファンを回せば、家全体に冷気が行き渡る仕組み。右手奥の和室はアプローチに面しているため、掃き出し窓が玄関代わりになることもあるという



畑仕事に精出し晩酌
以前はコンクリートの2階建てだったが、老朽化が進み建て替えを決意。「メンテナンスしやすい木の家」を建てる建築士に依頼した。

仏壇もあることから、「大勢で集まれる沖縄の風水を取り入れたウチナー家(ヤー)」をイメージ。とはいえ、1人暮らしなので掃除や家事の手間が省け、施設で暮らす両親らが車イスでも乗り入れしやすい造りにしたいと、建築士や庭師と相談を重ねた。

新築して10カ月。庭には以前生えていた木々が枝を伸ばし、屋根には次女のNさん(49)と選んだお気に入りのシーサーが鎮座する。取材に同席していたNさんは、「残念ながら祖父母や母は完成を待たず他界しましたが、この家で法事ができて喜んでいると思う」としみじみ。Yさんについても「以前は台所に立ったこともなかったので心配でしたが、今では料理に目覚め、畑の野菜で作ったみそ汁の写真を送ってくれますよ」と喜ぶ。

住み心地を尋ねると「夏は涼しいし冬は暖か」とYさん。仕事が終わると畑や庭の手入れに精を出しソファで晩酌、休日は趣味にいそしむなど、健康的な暮らしを楽しんでいる。

アプローチから見た玄関先。軒先においたテーブルとイスは、Yさんが庭仕事の合間に休憩したり、ご近所さんとくつろぐ場。
アプローチから見た玄関先。軒先においたテーブルとイスは、Yさんが庭仕事の合間に休憩したり、ご近所さんとくつろぐ場。右手奥に見える菜園では、何種類もの果樹や野菜を育てている



ここがポイント
東西で公私を区分
人集えて家事も楽


70代で実家を継いだYさん宅を設計するにあたり建築士の伊良皆盛栄さんは、(1)大勢で集まれる木造古民家の特徴を残しつつ、一人でも家事がしやすく、(2)夏涼しく冬暖かい造りを提案した。

(1)については、東西で公私を区分。公空間となる東側はLDKに和室2室を隣接させることで「人が集まる盆や正月などにも対応できる」と伊良皆さん。各部屋は段差なくつながり、掃除もしやすい。私空間となる西側には、勝手口、水回り、寝室をまとめ使いやすく。「庭仕事の後は勝手口から浴室へ直行でき、洗濯物は勝手口から干し場へと少ない移動で作業できる」。洗面室と寝室の引き戸を閉じれば来客も気にならない。

(2)は、まず建物を断熱材で覆う外張り断熱と、樹脂サッシと複層ガラスを組み合わせた窓を採用することで断熱性と気密性を高め、冷暖房効率をアップさせた。

さらにLDKに設置されたエアコン1台で家中の室温を保てるよう「ファンで空気を攪拌(かくはん)。これにより室内の温度のむらをなくせ、体への負担も減らせる」。太陽光発電と蓄電池も導入し年間1次エネルギー消費量がおおむねゼロになるZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)仕様で省エネ化も図った。

「真夏や冬場はエアコンを使うが、春先や秋には窓を開けて南東から風を取り込めるよう、間取りや開口の位置も考慮した」と伊良皆さん。伝統の木造住宅の形式に現代の技術や設備を組み合わせ、Yさんの要望に応えた。

寝室側から見たLDKと和室。左手奥に見えるキッチンは北西側に位置するため暗くなりやすいが、自然光を取り込める「スカイライトチューブ」を天井に取り付けることで明るく。
寝室側から見たLDKと和室。左手奥に見えるキッチンは北西側に位置するため暗くなりやすいが、自然光を取り込める「スカイライトチューブ」を天井に取り付けることで明るく。右手の和室は仏壇のある客間。普段は引き戸を開け放し、LDKとつなげて広々と

西側から見たキッチン。大勢で立っても十分な広さ。
西側から見たキッチン。大勢で立っても十分な広さ。背後には普段使いの食器や家電が収まり配膳にも便利なカウンターを造り付けた。正面の引き戸の奥は納戸で、行事用の食器や調理器具を収納
 

トイレ。車イスでも使いやすく、介助者も一緒に入れる広さを確保。

トイレ。車イスでも使いやすく、介助者も一緒に入れる広さを確保。左手は西側の勝手口、右手はキッチンにつながる
 

西側外観。奥に見える勝手口まで足元にはスロープを設置し、車イスでも行き来しやすく。

西側外観。奥に見える勝手口まで足元にはスロープを設置し、車イスでも行き来しやすく。深めの庇(ひさし)で多少の雨ならぬれずにすむ。中央に見えるのはYさんお手製の作業台

水回り。洗面室から浴室、寝室までが一直線につながる。
水回り。洗面室から浴室、寝室までが一直線につながる。写真左手壁面は棚になっており、タオルや普段着る衣類を収納。取り込んだ洗濯物はハンガーのまま掛けておける



[DATA]
家族構成:1人
敷地面積:407.53平方メートル(約123.28坪)
1階床面積:111.45平方メートル(33.71坪)
建ぺい率:31.76%(許容70%)
容積率:27.35%(許容200%)
用途地域:無指定
躯体構造:木造軸組工法
設計:(株)琉球住樂 伊良皆盛栄
施工:(株)琉球住樂
内部大工:真内装
外部大工:金城工業
木製建具:(有)照屋木工所
外部建具:(株)エクセルシャノン
電気:(有)光和エンジニアリング
水道:(有)共同工業
造園:金勢造園

問い合わせ
(株)琉球住樂
電話098・852・6936
http://10raku.co.jp/


撮影/比嘉秀明 取材/徳正美、市森知
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1899号・2022年5月27日紙面から掲載

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徳正美

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