お住まい拝見
2020年12月18日更新
飼い主不在でも伸び伸び|(株)エー・アール・ジー
[将来見据えた単身の住まい|お住まい拝見]
4匹のネコたちと住むUさん(37)宅。キャットウオークといった仕掛けはもちろん、不在中も換気でき、ネコが心地よく過ごせるよう工夫。将来は親を迎えるなど先を見据えた単身の住まいだ。
ネコも人も快適
Uさん宅
RC造/自由設計/単身+ネコ4匹
2LDKのUさん宅には人1人、ネコ4匹が住む。Uさんが住まいを持とうと考え始めたのは35歳のころ。「当時、単身でネコ2匹とアパート暮らし。家賃を払い続けるより活用できる資産を持とうと思った。マンション購入を考えていたが、ちょうど親が所有する土地があり、そこに家を建てるほうが条件が良かった」と話す。
設計を少し学んでいたというUさんは、当時インターンシップに行っていた事務所へ相談し、そのまま依頼。「不在時もネコが快適に過ごせる住まい」を求めた。ネコたちは人見知りのため、残念ながら撮影時は顔を出してくれなかったが、「普段は家中で追いかけっこするし、ベッドも占領されるしで、ネコたちが好き放題。人間は肩身が狭いですよ」と笑う。
室内がすっきりスタイリッシュに見えるのは、ネコが遊べる仕掛けが隠されているから。キャットウオークがLDKの高窓に、その出入り口になるキャットステップが多目的室にある。「その他にもサービスヤードなど居場所が多くて、ネコも伸び伸びと過ごせているみたい」とUさん。
また、内庭(テラス)に面するガラス戸のコーナーは、日なたぼっこに最適。花ブロックの間から外の様子がうかがえ、南から日が差し込む。Uさんも「休日はネコたちと一緒にコーナーのベンチに座って過ごすことも。内庭とLDKをつなげて家族や友人とバーベキューもする」と室内外を満喫する。
LDK。2本の丸い鉄骨柱=左=で屋根を支えることで約9メートルの大開口を実現した。室内が実際の広さより広く感じられ、内庭(テラス)も一体的に使える。床は「ネコたちが走り回っても滑らない」よう、ざらつきのあるタイル張りにした
LDKに設けた高窓。テレビのある壁面から約50センチ外側にあり、そこにできた空間がキャットウオークになっている
「エアコンやキッチンの上はネコたちのたまり場」とUさん。キャットステップを上り、キャットウオークをつたってキッチンまで来る(施主提供)
多目的室にあるキャットステップ。高窓のキャットウオークへつながり、「ネコたちが回遊できるようにした」と建築士。多目的室は将来、親やパートナーが使えるよう設けた
換気ばっちりで重宝
「夏でもほとんど冷房いらず。年中風が通る」とUさんも心地よさを実感。内庭やサービスヤードに設けた花ブロックが四方から吹く風を取り込み、温まった空気が高窓から抜ける。サッシの一部には不在時に換気できるスリット窓も設置。「臭いも気にならないくらい空気が入れ換わる。それもあって、コロナ禍で店に行けないからと、日中は近くに住む母親が女子会会場として使っている」という。
「将来は親やパートナーなど、プラスアルファを迎える」ことも考え全面バリアフリー、個室に使える多目的室も用意した。「マンション1室を平屋で建てた感じで、ちょうどいい住まい」とUさんはほほ笑んだ。
内庭は軒より少し高い壁で囲い、ネコが逃げ出したり、周辺の建物から視線が入ったりしないようにした。壁の一部に設けた花ブロックから風が抜け、通りの気配も感じられる
ここがポイント
内庭で遊びも通風も
ネコと暮らす単身住まいの設計依頼を受けた、(株)エー・アール・ジーの崎浜国男さんは「これまでにないレアケース。不在時もネコが快適に過ごすために、遊べる仕掛けだけでなく、外を感じ、常に風が流れる家にした」と話す。ポイントになっているのは、花ブロックを入れた高い外壁と、内庭とLDKをつなぐ大開口だ。
敷地は周辺にアパートや店舗などが建つ住宅地内の角地で、外に開きにくい環境。そのため、高さ約3メートルの外壁で内庭をすっぽり囲い、内側のプライバシーを確保。「塀を建てる必要もなく、道路との間には幅広い外庭を設けて、周囲からも外人住宅のようなゆとりを感じられるようにした」
約11坪の内庭は、「ネコが外で安全に遊べる場」。大開口でLDKとつながっていて、室内にいながらも外を感じられる。さらに「約9メートルの開口は、LDKを実際の面積より広く見せる効果もある。コンクリートの壁だけでは6メートルほどしか開口が取れないが、鉄骨柱で屋根を支えることで可能にした」。コーナーもガラス戸でしつらえ、内庭の緑が堪能できる。深い軒が日差しを制御し、「ウナー(内庭)やアマハジを思わせる沖縄の伝統的な住空間になっている」。
自然の風が外壁の花ブロックから内庭、家中を巡り、高窓やサービスヤードに抜け、しっかり換気ができる。「不在時もネコが過ごしやすいように」と、換気・防犯・デザイン性を兼ねた開閉式のスリット窓を使っているのもミソ。「見た目はサッシと区別が付かず、内観のテイストをみださない。一般的にはオフィスビルなどで使われている建材」だという。
崎浜さんは「ネコが心地いい空間は人にとっても同じ。ペットが家族の一員となっている時代で、今回のケースは時代にマッチした住宅だと思う」と話した。
洗面脱衣室と浴室。床はフラットにつながる。洗面台下にネコ用トイレを置き、換気扇を設けて臭いを抑える。浴室の窓サッシの一部にスリット窓が入っていて不在時も換気可
玄関。ベンチが一直線に内庭まで延び、視覚的な抜け感がある。建築士は細部までこだわり、「材の基準寸法を意識」して設計。壁と床タイルのつなぎ目をそろえる、床タイルの目地に沿って壁を設けることで、美しく見せつつ建材の無駄を省いた
外観。琉球石灰岩を敷いた外庭を設け、外壁は道路から約3メートル後退させて、通りからの圧迫感を抑えた。また緑化スペースを設けて周辺との調和を図った。夜は花ブロックから漏れる柔らかな光が道路沿いを照らす
[DATA]
家族構成:単身、ネコ4匹
敷地面積:235.17平方メートル(約71.13坪)
1階床面積:74.97平方メートル(約22.68坪)
建ぺい率:32.89%(許容70%)
容積率:31.87%(許容200%)
用途地域:第一種中高層住居専用地域
躯体構造:鉄筋コンクリート造(一部鉄骨)
設計:(株)エー・アール・ジー 崎浜国男
構造:(株)構造FACTORY
施工:(有)大成プラン
電気:(株)大幸電設
水道:(有)島設備
キッチン:(有)モブ
◆問い合わせ
(株)エー・アール・ジー
電話098・877・5556
https://arg2000.co.jp/
撮影/泉公/ララフィルム 取材/川本莉菜子
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1824号・2020年12月18日紙面から掲載