お住まい拝見
2020年1月31日更新
庭囲む3姉妹家族の家|(有)真玉橋設計事務所
[お住まい拝見|145坪に3世帯8人]145坪の敷地に新築したKさん、Yさん、Tさんの3姉妹8人家族。玄関は別、ライフスタイルも三者三様ながら、庭を囲みにぎやかに集える住まいとなった。
子育ても老後もみんなで
Kさん・Yさん・Tさん宅
RC造/自由設計/家族8人
庭を囲んで建つ2棟のうち、南にL字に配した2階建ての1階部分が次女世帯、2階が四女世帯、北側の平屋が三女世帯。敷地の持ち主で、道向かいに住む3姉妹の叔父から打診されたのが家づくりのきっかけだ。
次女のKさんは、「私たちだけだと広過ぎるけれど、見知らぬ人が隣に来るのも不安。妹たちとは旅行したり頻繁に行き来もしていたので、一緒に建てられたら楽しいかなと思って」。当時、三女のYさん夫妻はマンションの購入を検討していたが、「夫婦二人きりだから、老後を考えるとみんなで助け合えるのがいい」。四女のTさんも「うちは母子家庭。私の帰りが遅くなっても誰かがいてくれるなら子どもたちも安心」と賛同した。
当初から、次女のKさん一家の2階を四女のTさんに賃貸したいと構想。あちこち相談に訪れたが、「どこも2棟を完全に分けたプランで、なかなか納得できるところがなかった」と姉妹。そんな折、気になっていた設計事務所に相談したところ提案されたのが現在のカタチだ。「庭を囲んで一体感があるのがいい!」と依頼を決めた。
玄関、室内は世帯ごとに
庭は共有しつつ3世帯の玄関は別々に。造りやインテリアも世帯ごとにライフスタイルを反映した。
次女のKさん世帯は夫婦と長男(25)の3人家族。夫のK氏も「ぼくはみんなでワイワイするのが好き。集まるのはうちのリビングなので、バリアフリーにして広く。内装はモノトーンで統一し床や壁の色にもこだわった」。将来は仏壇も入れられるよう小上がりの和室も設置。その下はもちろん、玄関や壁面まで収納もたっぷりだ。中でもウオークインクローゼットは背の高いK氏の希望で枕棚を動かせる造りに。「手持ちの服や持ち物に合わせられるのがいい」と喜ぶ。
一方、四女のTさんと長男(16)、次男(14)が暮らす2階は、白が基調の「シンプル&コンパクト」。Tさんは「カウンターに腰かければ空が眺められ、家事をしながらテレビも見える。料理も好きになりました」と笑う。「洗濯物を干して仕事に出れるのでノンストレス!」と話す家事室は、特にお気に入りだ。
1階 次女・Kさん世帯
1階Kさん世帯のLDK。掃き出し窓を開け放てばテラスや庭まで一体的につながり広々。写真左手に見える高窓は、近接する隣家の視線を気にせず通風採光できるよう位置や大きさを細かく調整した
玄関は白で統一し明るく広く。写真右手には大きなシューズクローゼットも設けた。玄関から室内までKさん世帯はすべてバリアフリー。ホールには、Kさんが植物や雑貨を飾り季節感を演出
水回り。洗面室から脱衣室、浴室までが一直線につながり、行き来しやすい。右手は洗濯物干し場となるサービスコート、左手上部には高窓も設置されており、明るく、風通しもいい
トイレ。壁の一部が曲面になっているのは、Tさんが住む2階への外階段下に設けられているため。壁にはさりげなく星のデザインが浮かび上がる壁紙を採用
庭で野球やバーベキュー
三女のYさん世帯は、夫婦が好きな「北欧テイスト」に。特に色づかいにはこだわった。「好きな色に囲まれて楽しく暮らしたくて。毎日眺めるものだから妥協はしたくない」と、ショールームで吟味しては現場にサンプルをもちこんで確認。「キッチンや寝室は北面だけにアクセントカラーを入れ、扉はすべて色やデザインを変えました」。
庭に面したLDKは天井が高く、木の飾り梁(ばり)がぬくもりを感じさせる。裏手には、夫婦の希望で水回りへ通り抜けられるウオークスルークローゼットを配置。「造作してもらった室内干しの造りや除湿器も大活躍しています」と喜ぶ。特に気に入っているのは、リビングと廊下の間仕切り壁に開けた小窓。「職人さんには難儀してもらいましたが、気配も伝わるし、廊下側も圧迫感がない。毎日帰るのが楽しみ!」と声を弾ませる。
3家族で建てたことで「お互い自分たちだけでは気付かない点もアドバイスし合えた。建築中もすごく楽しかったから、そこだけもう一度やりたいくらい」と笑う姉妹。今ではYさんが庭でサンマを焼いていると、いつの間にかみんなが集まりバーベキューが始まったり、Tさんの息子たちがKさん宅でご飯を食べていたり。大人も子どもも入り混じって野球にサッカー、ネットを張ってバレーボールに興じることも。子育ても集いもみんなで楽しんでいる。
三女・Yさん世帯
Yさん世帯のリビングダイニング。天井を上げ、高窓を設けることで北側からの安定した光を取り込んだ
キッチン。正面の引き戸の奥はウオークスルークローゼットへとつながっている
玄関。壁に掛かるファブリックボードは夫婦が好きな作家がデザインした布を使ったお手製
寝室。西側の壁はブルーグレーを採用。正面の掃き出し窓の外はサービスコートで、「布団を干すのにも便利」とYさん
ここがポイント
共有する庭を囲んで一体感
当初から次女家族と三女家族が家を建て、次女宅2階を四女家族に賃貸したいと考えていた3家族。建築士の野里雅樹さんは「庭を囲むように2階建てと平屋建ての2棟を配置し、3世帯で庭を共有できるよう提案。各世帯のリビングは庭に面しながらも視線が直接交わらないようにずらすことで、一体感を出しつつプライバシーも確保できるようにした」と説明する。
敷地は中部の昔ながらの住宅街の一画。西に隣家が近接し、前面道路のある東側には姉妹の叔父宅があって上部は開けていた。そこで敷地周囲は外塀で囲み、上部が開けた東に庭を配置。その庭に向けて各世帯のLDKを設けることで、一体感とカーテン要らずの開放感を演出した。水回りなど暗くなりがちなプライベート空間は、要所にサービスコートを設けることで、光と風を取り込んでいる。
庭は3世帯で共有しているものの、敷地はKさん、Yさんで分筆して境界を明確にし、躯体も完全に分けた。それでいて一軒につながって見えるのは、「外側全体の造りやデザインを、3家族で相談しながらトータルでコーディネートした」ため。東に二つあるポーチはドアをそろえ、躯体の境界はタイルでデザイン。庭からの眺めも、アルミサッシを黒で統一するなどして一体感を高めた。
一方で「内部の造りやインテリアは各々のイメージを大事にするため、打ち合わせは世帯ごとにアシスタントを配置。家族構成やライフスタイルの違う3世帯それぞれの要望を聞き取り、コーディネートした」と野里さん。玄関や駐車場も別々に確保しているため、将来は、例えばKさん親子が2階建てを2世帯で使ったり、2階部分を賃貸することもできる。
建築は施主と業者が直接契約を結ぶ分離発注(CM)で実施。3世帯分で要したのは8カ月だ。「躯体は2棟交互に造り、内部は3世帯同時に。工程会議も一緒に行うことで効率良く進められた。工事中にYさん宅の間仕切り壁に開けた小窓は、施主と大工とCM担当が、現場でコストやおさまりなどを話し合えたことで、満足のいく仕上がりにつながった。これも分離発注の良さが生かされた点」と話した。
2階 四女・Tさん世帯
2階のTさん世帯のリビングキッチンは、ダイニングカウンターを外に向けて開放的に。ルーフテラスの手すりはすりガラスになっており、通りからの視線も気にならない。テラスの奥には庭に直接行き来できる外階段もある
長男、次男の子ども部屋。入り口や窓も二つずつあるため、家具で仕切って使うこともできる
Tさんがこだわった洗面室兼家事室。「窓を開けていれば風で乾くし、雨にぬれる心配もない」とTさん。天井は取り払って広く、壁は直接塗装することでコストカットにもつながっている
玄関。扉を開けると駐車場につながる外階段がある
通りから見た外観。左手がKさん世帯のポーチ、右手がYさん世帯のポーチ。「ボリュームバランスを一棟の建物と考え、シンプルに計画した」と野里さん
[DATA]
家族構成:次女世帯/夫婦、子1人
三女世帯/夫婦
四女世帯/母、子2人
敷地面積:280平方メートル+199平方メートル=479平方メートル
(85坪+60坪=145坪)
床 面 積:次女世帯1階:141.02平方メートル(約43坪)
四女世帯2階:74.29平方メートル(約23坪)
三女世帯1階:113.33平方メートル(約35坪)
建ぺい率:54.99%(許容60%)
容 積 率:68.61%(許容150%)
用途地域:第一種中高層住居専用地域
躯体構造:壁式鉄筋コンクリート造
設 計:(有)真玉橋設計事務所 野里雅樹
アシスタント:大城優季子、森根優香
C M:大城達人 ※CM=コンストラクション・マネジメント
構 造:與儀建築工房
施 工:(株)カネヨシ工務店
電 気:(有)沖縄総設
水 道:(有)西里設備工業
[問い合わせ先]
(有)真玉橋設計事務所
098-937-2777
http://www.madanbashi.com
撮影/比嘉秀明 編集/徳正美
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1778号・2020年1月31日紙面から掲載