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2025年11月21日更新

建物解体・改修の「落とし穴」にも アスベスト事前調査の義務化 インスペクション専門の一級建築士が解説します|インスペクションで解明 住まいのミステリー

文・下地鉄郎(インスペクション沖縄メンバー、既存住宅状況調査技術者)


住宅の劣化状態などを調査し報告する「インスペクション(建物診断)」。今回は、2023年から義務化された「石綿事前調査」についてインスペクション沖縄の下地鉄郎さんが説明します。

 第32話「石綿(アスベスト)事前調査の義務化」
解体・改修の落とし穴
 
 石綿事前調査が必要な一定条件以上の工事 
 ①解体部分の床面積が80平方メートル以上の解体工事 
 ②請負金額が100万円以上(税込み)の改修工事 
 ③請負金額が100万円以上(税込み)の工作物における解体・改修工事 
 ④20トン以上の船舶の解体・改修工事 


  種多様な建材に含有

2023年10月から一定条件以上(左記)の解体・改修工事には、有資格者による石綿(アスベスト)の事前調査が義務化されました。対象は80平方メートル以上の解体や100万円以上の工事額ですから、多くの解体・改修工事で調査が必要です。

建物における石綿使用は、日本では06年からはほぼ使用されていませんので、築19年内であれば、あまり気にすることはありません。逆に築20年以上の場合になると、資格者による事前調査が必要となり、費用面での負担が発生してしまいます。「ちょっとしたリフォームなら関係ない」と考える方がいるかもしれませんが、石綿は内装材である天井材・壁紙・床材にも含まれているほか、実は塗装材にも含まれているケースもあり、外壁に設備配管用の穴ひとつ開けるだけでも事前調査が必要となることがあります。
 
 石綿発生部分の例(沖縄県HPから)

  ンスペにも関連

筆者がその義務化の詳細を知った時は「正直、厳し過ぎるのではないか」と、当初は様子見していました。

しかし、インスペクション(建物診断)はリフォームを前提としていたり、延命か解体かの判断材料とするための調査もあることから、その際に発生するかもしれない石綿のリスク(安全面・費用面・法律面)について具体的に知らないといけないと思うようになりました。そこで先月から、インスペクションと同時に石綿の調査もできるよう社内体制を整えました。

石綿が含まれる可能性がある床や天井などの建材(石綿含有建材調査者テキストより)

  害賠償の恐れも

資格を取得する前の8月ごろ、築45年5階建て物件の売却前インスペクションの依頼がありました。

インスペクションとは別に、依頼者側で石綿事前調査をしたそうです。建物の構造が鉄骨造のため、特に鉄部を覆う耐火被覆材に石綿が含まれていないかが気になっていたそうですが、含まれていないという判定で、安心したそうです。

もし、建物の吹付材や建材に飛散性の高い石綿が含まれていた場合は、売却後の改修工事や将来的な解体工事の際に、数十万円~数千万円の追加費用が発生することになります。

また、石綿建材についての飛散対策をした上で改修工事を行ったとしても、正式な手続きを行っていなければ、隣地が保育園などであった場合、最も健康被害を受ける乳幼児の長期的な健康不安とともに多大な損害賠償を請求される可能性もあります。

解体・改修工事の際の落とし穴とならないよう、将来解体・改修を考えている場合は自身で調べてみるか、工事前やインスペクションの際に相談することをおすすめします。
 
◆  ◆  ◆

わが家の状態が気になったら、インスペクション沖縄のサイト(https://inspection-partners.jp/okinawa/)で建物の健康状態の簡易チェックができる



しもじ・てつろう/1級建築士。(株)クロトン代表取締役
電話=098・877・9610

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第2081号・2025年11月21日紙面から掲載

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