企業・ひとの取り組み
2021年2月5日更新
【ひと】世界遺産つくる気持ちで|松田 裕介さん 松田設計事務所 一級建築士
前号(1830号、1月29日発行)で紹介した長崎大作さんとともに、40歳以下の建築士を対象にした設計競技「ティーダフラッグス2020」(主催・沖縄県)で金賞を受賞した、松田設計事務所の松田裕介さん(35)。「地形を考察し、環境に調和させながら、世界遺産を造る気持ちで」設計する。
地形読み解いて設計
松田 裕介さん
松田設計事務所 一級建築士
-建築士を志すきっかけは?
雑誌で、建築家・三分一(さんぶいち)博志(ひろし)さんの作品と考え方に触れたことです。
当時、私は琉球大学で建築を学びながらも、「なぜ人間が好き勝手に土地を占有するのか」と建築に対して否定的な考えも持っていました。
ですが、その雑誌で彼は「建築は地球のディテール」と表現。自然のエネルギーや循環を活用し、「地球の表面の一部として設計する」と発表していました。その言葉に感銘を受け、卒業後は彼の事務所で経験を積みました。
-心掛けていることは?
建築は人や風景に影響を及ぼすので、デザインの理由を人と共有できるようにしています。そのために、気候や歴史、地形をしっかり考察。特に地形は、植生、産業、文化といった、地域が持つ多くの特徴の基礎となる。それらを考察する中で見えてくる課題に対して、解決策を提示するのが設計だと考えています。
このことは琉大在学中に、中村家住宅や名護市庁舎などを巡り、風通しの良い造りや、アマハジや庇(ひさし)などといった掘りが深い沖縄ならではの建築を見て学びました。
-今後の目標は?
建築を学んだ場所であり、強い地域性を持つ沖縄でプロジェクトを手掛けたい。そのためにまずは、ティーダフラッグスで選ばれた「MOTOBU Coral Roof」を、競技の時よりも良い形で完成させます。
そして最も大きな目標が、微生物の働きで排せつ物を生かせる循環型のビオトープや太陽熱温水器などを使って、人と自然の力で半永久的に機能する、地域の誇りになるような世界遺産を造ること。そんな気持ちで設計をしていきたいです。
柔軟な姿勢でテーマ設定
沖縄なら影・風・琉球石灰岩
気候風土や地形などによって建築のアプローチの仕方を柔軟に変えるという松田さん。これまで手掛けたものも地域の特性に合わせて提案してきた。
例えば愛媛県の住宅は、井戸水だけで生活用水をまかなえるほど水が豊富な地域に敷地があったことから、松田さんは「水と風」をテーマに設計。水盤の中に建物が浮いているような住宅=写真=にすることで「水盤が空気を冷やし、建物内に涼をもたらしている」と説明する。
沖縄で提案する際は「影と風をテーマに、琉球石灰岩も使いたい」と松田さん。現在は、「MOTOBU Coral Roof」の共同設計者である、長崎大作さん(長崎設計研究所)が宮古島で進めているプロジェクトのサポートなども行っている。
松田さんが設計した「風と水の間の家」
まつだ・ゆうすけ/1985年、福岡県出身。琉球大学環境建設工学科を卒業後、2008年から広島県にある三分一博志建築設計事務所に入所。17年、独立し、松田設計事務所を設立。九州を中心に、沖縄や中国・四国地方で活動する。趣味は建築・温泉巡り。
◆松田設計事務所 福岡市中央区荒戸
取材/出嶋佳祐
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1831号・2021年2月5日紙面から掲載
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- 出嶋佳祐
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編集者
「週刊タイムス住宅新聞」の記事を書く。映画、落語、図書館、散歩、糖分、変な生き物をこよなく愛し、周囲にもダダ漏れ状態のはずなのに、名前を入力すると考えていることが分かるサイトで表示されるのは「秘」のみ。誰にも見つからないように隠しているのは能ある鷹のごとくいざというときに出す「爪」程度だが、これに関してはきっちり隠し通せており、自分でもその在り処は分からない。取材しながら爪探し中。