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2019年5月3日更新

第5回沖縄建築賞に向けて| 審査通して気付く三つの「目」

県内の優れた建築を顕彰する沖縄建築賞(主催・同実行委員会)。ことしで5回目を数えるまでになった。審査副委員長の小倉暢之氏(琉球大学名誉教授)は、「これまでの作品には、県内外のそれぞれで培った視点を生かした作品が見られる」と語る。

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絶えず変革の波に向き合う
沖縄建築賞は早くも5回目を数え、年々の継続でその知名度も高まり、住宅建築部門と一般建築部門に毎年まとまった数の応募作品が集まっている。また、そうした活動を通して現代沖縄の建築文化が地元はもとより、広く国内外へと発信されつつあることは素晴らしい。

沖縄は日本の中でも最も南にあることから東南アジアをはじめとする海外に近く、東京と異なる造りの建築に特色と魅力がある。そこが多くの沖縄ファンを引きつけ、今ではソーシャルメディアの発達も手伝って、建築巡りをする海外観光客の姿も見られるようになった。

それほどの魅力を持つ沖縄建築ではあるが、時代の流れとともに建築のありようもまた、近年変わりつつあるように思われる。それは技術、材料の変化とともに社会・経済の変化、いわゆる本土化とグローバル化の中で地元建築界は絶え間ない変革の波に常に向き合っているからだろう。

戦後沖縄の建築を大きく特色付けたコンクリート建築は、半世紀を超える試行錯誤を基に独自に進化し、他に類を見ない建築文化を築き上げた。しかし、人々の生活様式や社会の仕組みの変化、そして、環境問題への関心の高まりとともに建築材料、とりわけ木造の再評価が現れ、さらにはエネルギー効率を求める設計志向も世界的流れの中に組み込まれようとしている。
 

学びや活動の場が県内外、国外へ
終戦から復帰までは島の中だけで閉じていたのが、復帰とともに島の外との交流が盛んになった。その間、琉球大学に建築コースが設立されて地元や県外出身の多くの人材が巣立ち、また、県内の若者の多くが本土や海外で勉強するようになり、活動の場を広げている。さらには県外から沖縄へと活動の拠点を移す動きも活発になってきた。

そうした中で、これまでの建築賞の作品には以下の三つの建築の捉え方(目)があるように思う。

①内からの目=島の中を見つめてきた視点。小規模世帯の住まい=写真1=に代表される、土地に根付いた思考が試行錯誤を繰り返して熟成してゆく泡盛古酒のような建築。惜しくも選外となったが、大工という職能に培われて生まれた作品などもある。

②外へ出て帰った目=島で育ち海の外でも成長して帰ってきた視点。国内外の思潮を沖縄に反映する建築で、SOLA=写真2、那覇市庁舎=写真3=などがある。両作品は甲乙付け難い印象深い作品であったが、新しさの中にも沖縄らしさがにじみ出ている。また、クニンダテラス=写真4=も周辺環境の歴史性を現代的に表現する上でグローバルな潮流が感じられる。

③外から来た目=島の外からやってきた人の視点。名護城公園ビジターセンター=写真5、本部町の新民家=写真6=などに代表されるように、自由な発想で表現しつつも沖縄に適したあり方を模索する建築である。


内からの目:内で熟成してゆく建築
第2回住宅建築部門 奨励賞 小規模世帯の住まい
 久高多美子氏(東設計工房)
▲躯体壁はコンクリート、屋根は切妻小屋組みの木造にした混構造。妻側の高窓が通風・排熱・採光の役割を担う。沖縄の風土に配慮し、台風に強く涼しい住まいに。


外へ出て帰った目:国内外の思潮を反映する建築
第1回一般建築部門 正賞 SOLA 沖縄保健医療工学院
 石川保氏(かみもり設計)

▲教室の箱を平面的・立体的に隙間ができるように積み上げ、日陰で風が通り抜ける空間をつくった。浜辺の浸食されたサンゴ礁のような隙間が学生の居場所づくりにつながる。


第1回一般建築部門 審査委員特別賞 那覇市本庁舎
 國場幸房氏(国建)

▲亜熱帯庭園都市を宣言する那覇市のシンボルとなるよう、施設全体を積極的に緑化する外観に。深い庇(ひさし)とルーバーを外周部に設けることで、通風・採光を確保するとともに、環境負荷の低減にも配慮した。


第3回一般建築部門 正賞 クニンダテラス
 島田潤氏(デザインネットワーク)

▲福州園の緑と松山公園をつなぐ緑の丘の建築。風が吹き抜ける散歩道やテラスのほか、歴史資料館やレストランなどからなる複合施設で、まちなかに緑陰を生み、地域住民だけでなく海外観光客らの交流の場に。

外から来た目:自由な発想で模索する建築
第2回一般建築部門 正賞 Subaco 名護城公園ビジターセンター
 蒲地史子氏(受賞時・久友設計)

▲午後の強い日差しを和らげる縦スリットの樹脂ルーバーは、再生木を使い、木々に囲まれた周辺環境に調和する。床の一部を墨モルタルで仕上げ、刻々と変化する入射光が優しくゆらめき、森の静けさを感じられる室内に。


第4回住宅建築部門 正賞 本部町の新民家
 漢那潤氏(ISSHO建築設計事務所)

▲筋交いを外壁に対して垂直に外側に出し、軒先の柱とつなげたことで四方全面に開口部が広がる。過去の木造建築の模倣ではなく新たな技術を使って土着する住まいを模索する。

技競い生まれる建築文化
三つの目はそれぞれが個性と特色に富み、優れた作品であるとともに相互に関連しあっていて、それぞれの姿勢を保ちながら活発に活動を展開しようとしている。そうしたダイナミズムによって今後の展開がさらに深まりそうだ。

そもそも建築文化とは何か?いろいろな意見があるとは思うが、少なくとも「技を競う」ところから生まれるものではないだろうか。建築に関わる多くの人々がそれぞれの時代と地域において、より良いものを、より新たな世界を切り開こうと努力する日々の精進の中にあるように思う。そうした意味でこの沖縄建築賞が建築の技を競う場として沖縄建築を力強くけん引して行くものと期待している。


おぐら・のぶゆき/琉球大学名誉教授。第1回~第5回建築賞の審査副委員長を務める
 

毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1739号・2019年5月3日紙面から掲載

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