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2018年6月29日更新

【建築士Q&A】仕事内容から県内の事情まで

住まいづくりに欠かせない建築士。そもそも建築士はどんな仕事をしているのか? 専門分野があるのか? など、知らないことも多いのでは? そんな建築士についての疑問をQ&A形式で紹介! 沖縄県建築士会の石川正事務局長に聞きました。

建築士の日特集

住まいづくりに欠かせない建築士。そもそも建築士はどんな仕事をしているのか? 専門分野があるのか? など、知らないことも多いのでは? そんな建築士についての疑問をQ&A形式で紹介! 沖縄県建築士会の石川正事務局長に聞きました。


Q.建築士の仕事は?
設計工事監理は建築士の独占業務

建築士とは、建築士法に基づいて住宅やビルなどさまざまな建物の設計を行い、その設計を基に建築現場で工事の指導・監督を行うことができる人のこと。「設計」と「工事監理」は、建築士だけが行うことのできる独占業務だ。
建物の設計というと外観や内装デザイン、間取りなどに目が行きがちだが、建物の安全性を確保するためには、法律や構造、防災など、諸条件をクリアする必要がある。そのため一定規模以上の建物の設計は、国家資格に合格し免許を受けた建築士のみと法で定められているわけだ。
設計、工事監理以外にも、建築工事契約に関する業務、建築工事の指導監督、建築物に関する調査もしくは鑑定、建築物の建築に関する法令、もしくは条例の規定に基づく手続きの代理を行うことができる。


Q.一級と二級の違いは?
設計できる建物の規模が違う

一級建築士は国土交通大臣が認める免許であるのに対し、二級建築士や木造建築士は各都道府県知事が認める免許となる。
一級建築士、二級建築士のほかに木造に特化した木造建築士もある。ちなみに二級建築士は木造建築士の範囲もカバーする。
一方で、設計できる建物に制限があるのが二級建築士で、一言で言えば「戸建て住宅程度の規模」が対象。沖縄に多い鉄筋コンクリート造の場合は高さが13m、軒高9m以上、延べ床面積300平方メートル以上、木造なら高さ13m、軒高9m以上などは設計できない。
大きな違いは、設計できる建物の規模にある=下表。一級建築士は、設計する建物に制限がない。そのため、戸建て住宅から公共施設・商業施設といった多くの人が集まる大規模な建築物まで設計することが可能だ。


表:1級建築士、2級建築士、木造建築士が設計できる建物

※特殊建築物のこと。学校や病院、劇場、映画館、観覧場、公会堂、集会場、百貨店など


Q.専門分野はあるの?
意匠(デザイン)や 構造(骨組み)など分業
 

 


 

建築士はいくつかの専門分野に分かれており、設計の際は共同で作業を行うのが一般的だ。
中心を担うのは「意匠(デザイン)」。施主の要望や諸条件を考慮して建物のコンセプトを決め、デザインに落とし込むのがその役割。建物の外観や間取り、室内のデザインなどが分かる「設計図」を作成する。また、計画から工事監理まで、建物を建てるすべての工程にもかかわる。
一方で、建物の強度にかかわる土台と骨組みを設計するのが「構造」。安全性を第一に、施工性や経済性を考慮しながら、建物の基礎や、柱・梁、鉄筋などの太さや本数、配置などを決定する。意匠側はその内容を反映して設計図を作成する。
生活に欠かせない給排水や空調、電気設備などの設計については、建築士とは別に「設備設計」のプロがいる(下囲み)。集合住宅や商業施設など大規模な建物の場合は、彼らが担う。
こうした建築士の専門分野を一般消費者に分かりやすく示すものとして、日本建築士会連合会が運用する「専攻建築士制度」がある。「構造設計」や「建築生産」、「設備設計」などのほかに、都市計画などに携わる「まちづくり」、伝統的建築を担う「棟梁」、法令の審査を行う「法令」、「教育・研究」などの8領域がある。

 

構造・設備の国家資格、各種団体の認定資格も
建築に携わるプロは、建築士のほかにも構造や設備設計に特化した国家資格や、団体の認定資格もある。主な資格は以下の通り。
構造設計一級建築士、設備設計一級建築士
いずれも2006年の改正建築士法で創設された国家資格。「構造設計一級建築士」は、一級建築士として構造設計の業務に5年以上、「設備設計一級建築士」は設備設計の業務に5年以上従事した後、国土交通大臣の登録を受けた登録講習機関が行う講習過程を修了し、認定される。
建築設備士
建築士法に基づく国家資格。建築士の求めに対し、建築設備の設計、工事監理に関する適切なアドバイスが行える。
JSCA建築構造士
日本建築構造技術者協会(JSCA)が認定する資格。豊富な専門知識と経験を基に優れた技術力を用いて、構造計画の立案から構造の設計図書までを統括し、構造に関する工事監理も行うなど、建築構造の全般について、的確な判断をくだすことのできる技術者。
登録建築家制度
建築の設計監理を行う建築家の団体である日本建築家協会が定める民間資格。同会が定める建築家認定評議会が審査し、合格者を建築家として登録する。
※建築技術教育普及センター、日本設備設計事務所協会連合会、日本建築構造技術者協会、日本建築家協会のホームページ参照

 

 

 



Q.人手不足って本当?
20~30代の若手が特に不足

建設業界は全体的に人手不足と言われているが、建築士も例外ではない。実際、建築士になるために必要な試験の受験者数は減少傾向で、2008年に全国で一級建築士の学科試験を受けたのが4万8651人、二級が3万4342人だったのに対し、17年には一級が2万6923人、二級が1万9649人となっている=グラフ1。10年間で4割以上も減っていることになる。
県建築士会の石川事務局長は「この状況が進み、建築士が不足してくると、建物が建てられなくなる」と説明する。これは、建築士しか設計業務ができないためだ。震災後の復旧対応なども遅れる可能性が出てくる。
受験者数減少の理由については「少子化だけでなく、05年の構造計算書偽造事件を受けて行われた受験資格の厳格化が影響している」と話す。そんな中、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会の3団体が6月5日、受験資格の緩和などを訴え、共同提案をまとめるという動きも出ている。
県建築士会に入会している建築士の数は、一級建築士787人、二級建築士279人(2018年5月8日時点)。年代別に表したグラフ2を見てみると、50代と60代だけで58%と過半数を占める一方、20代と30代は合わせて13%。県内でも高齢化と若手不足が進行していることがよく分かる。
加えて、「建築士の試験に合格しても、建築設計を志す人が減っている」と石川氏は危惧する。
そこで同会各支部では「建築士の日」に合わせたイベントを毎年実施。石川氏は「子どもたちや若い世代に、ものづくりの楽しさや魅力を伝えていければ」と力を込めた。


グラフ1:建築士試験(学科)の全国受験者数

(総合資格学院沖縄校のデータをもとに作成)


グラフ2:県建築士会に所属する建築士の年代別構成
(2017年2月15日時点。県建築士会のデータをもとに作成)




県芸に建築学科を
県建築士会、県建築士事務所協会、日本建築家協会(JIA)沖縄支部の3団体は2017年3月、意匠設計の担い手育成を図るため、県立芸術大学にも建築学科を設置するよう要請した。JIA沖縄支部の當間卓支部長は「意匠を学ぶためのアカデミックな場として、切磋琢磨できる環境を整えたい」と意気込む。


県立芸大の比嘉康春学長に要請書を手渡す(写真右から)県建築士事務所協会の野原勉会長、県建築士会の西里幸二会長、JIA沖縄支部の當間支部長(JIA沖縄支部提供)


Q.どうすれば建築士になれるの?
学歴実務、あるいは両方必要  一級受験には実務必須

建築士になるには、一級建築士試験や二級建築士試験を受けて、合格しなければならない。しかし、これらの試験を受けるには、学歴か実務経験、あるいは両方が必要となる。ここでいう学歴とは建築に関する指定科目を修めて卒業したということ、実務経験とは建築物の設計補助や工事監理補助、施工管理などのことを指す。
例えば、工業高校の建築科卒業で二級建築士の試験を受ける場合、3年以上の実務経験が必要となるが、4年制大学や専修学校等の建築系学科卒業であれば、実務経験なしで受験できる。
一級建築士試験を受けるには、実務経験が必要になる。学校の種類や修業年数によって条件は変わり、「4年制大学の建築系学科卒業」で2年以上、「高校卒業」や「建築関係の学歴なし」の場合は二級建築士として4年以上の実務経験で受験資格を得られる。
一方、建築系の学科を卒業していなくても建築士を目指すことは可能だ。ただし、二級建築士試験を受けるために7年以上の実務経験が求められる。機械・インテリア系学科卒業などの場合は、実務経験の年数が4~5年以上で試験を受けられるケースもある。
受験資格についての詳細は(公財)建築技術教育普及センターのホームページ(http://www.jaeic.or.jp/)を確認。


建築士になる方法 ※指定科目の受講状況により、この通りでない場合もある

指定科目を受けられる県内の学校(2018年5月30日現在)
【大学】
・琉球大学(工学部工学科建築学コース)
【専修学校等】
・サイ・テク・カレッジ那覇(工業専門課程建築デザイン科)
・サイ・テク・カレッジ美浜(工業専門課程環建築学科)
・インターナショナルデザインアカデミー(工業専門課程インテリア・建築デザイン科建築デザインコース/インテリアデザインコース)
・パシフィックテクノカレッジ学院(工業専門課程建築学科)
・沖縄職業能力開発大学校(専門課程住居環境課)
【高校】
・沖縄工業高校(建築科)
・名護商工高校(電建システム科建築技術コース)
・美里工業高校(建築科)



この人に聞きました!​

石川正さん
沖縄県建築士会事務局長


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毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1695号・2018年6月29日紙面から掲載

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