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2023年4月21日更新
「ずっと触れていたい!」アトリエ・ネロ×漆芸舎伍×Mov|建材としての魅力 漆
住宅建材の選択肢として自然素材への関心が高まる中、「首里城復元で継承される漆技術を住まいに-」と、漆を取り入れた住宅の見学会が3月末、那覇市で開かれた。設計を手掛けたアトリエ・ネロの根路銘安史さんと漆職人の森田哲也さんのトークセッションから、建材としての漆の魅力を紹介する。
住宅に取り入れ職人の育成に キッチン・食卓・扉 普段使う空間にこそ
写真/アトリエ・ネロ
機能&触感水・油・薬に強く 吸い付くような肌ざわり
朱塗りのオーダーキッチンと落ち着いたツヤのある大きな1枚板のテーブルが目を引くHさん宅のダイニングキッチン。漆は水・油・薬に強く「汚れたらサッと水拭きすればOK」と森田さん。「漆は表面が乾いても硬化し続け、6カ月目くらいにはガラスに近い硬さまでに。紫外線には弱いので直射日光があたる場所は避けて」。メンテナンスは「10年に1度を目安に上塗りを。ウレタン塗装のようにはがす必要はない」とも。漆の産地、輪島や長野県では住宅の壁や床に使われている。「吸いつくような触感がクセになる!」と見学会の参加者。
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漆と聞くと塗りの椀(わん)などを思い浮かべることから、「特別なもの」「丁寧な扱いが必要」と考える人も多いのでは? 首里城復元にも携わり、漆器から建物まで漆を施す漆芸舎伍共同代表の森田哲也さん(45)は、「乾いた漆は耐水性、耐油性、酸やアルカリなどの耐薬品性があり、塗り重ねるほど丈夫になる」と説明。見学会が行われたH邸では、(1)松板を重ね合わせてデザインしたオーダーシステムキッチン、(2)木工職人が耳付きクスノキの1枚板で作ったテーブル天板、(3)寝室や水回りの扉3枚に漆を取り入れた。
現代は機能性に優れ、色も質感も多彩な化学塗料が登場しているが、「肌に吸い付くような密着感は漆ならでは。だからこそよく触れる所、使う場所に取り入れてほしい」と森田さん。見学に訪れた女性たちもテーブルをなでつつ「ずっと触れていたい」「クセになる肌ざわり」とコメントした。
ローラーで手早く均一
漆は「同じものを使っても、塗り方でツヤの出方や質感が変わる」。(1)と(2)は漆を塗って、すり込み、拭き取る作業を繰り返して落ち着いたツヤを出す「拭漆(ふきうるし)」、(3)は島豆腐(タンパク質)を混ぜ表面にわずかな凹凸を出す「絞漆(しぼうるし)」と、「拭漆」を組み合わせた。
大きさゆえに段取りと手早さが求められたのが、900ミリ×1800ミリのテーブル天板。「漆の硬化に最適な条件は、気温20~30度、湿度70~80%。高温多湿な沖縄では、大物になるほど拭き取る前に漆が乾いてしまう。そこで首里城の壁と同じくローラーを使った」
施工や工程管理も工夫。キッチンを手掛けたMovの照屋涼子さんは、「漆は乾くまで埃(ほこり)が付きやすいため、現場塗りだと他の工事との兼ね合いを考えたり養生も大がかりになる」ことから、部材をばらし工房に持ち込めるデザインに。「原寸大で模型を作り、分解して施工性を確認。漆が乾いた後に社で組み立て、現場に搬入した」
「キッチンを楽しく」
現在、県内の漆職人は50人ほど。森田さんは「イリオモテヤマネコより少ない」と冗談を交えつつも危機感を募らせる。根路銘さんは、「首里城の焼失で県民は悲しみを募らせたけれど、そこに使われていた琉球文化の職人技に関心を寄せる人は少ない。工芸や首里城の復元だけで技術の継承は難しいと考え、住まいにどう取り込めるかに挑戦した。施主の理解と職人みんなの工夫の賜物(たまもの)」と力を込める。
Hさん夫妻は「建築士に提案され、1番長くいるキッチンを楽しくしたいと取り入れた。渋くてカッコいい」と満足げ。設計に携わったアトリエ・ネロの水上浩一さんは、「仏壇や床柱など特別な場に使うのもいいが、普段いる空間に使えば、暮らしはもっと豊かになる」と提案した。
色質の妙
木目とデザインで魅せる
システムキッチンの表側(上)は木材を鎧(よろい)のように重ねた鎧下見張り。朱赤の拭漆仕上げで、クスノキのテーブル天板からのびる耳(皮目)と、重ね合わせた松板の木目を生かし、存在感を持たせた。人が立って作業する裏側(下)の引き出しも、同じ朱赤の拭漆仕上げ。漆の塗装に掛かった費用はクスノキのテーブルで17万円、左上写真の扉3枚で14万円。
写真/アトリエ・ネロ
2種の手法組み合わせ表情出す
左から水回りの扉、トイレの扉、寝室の引き戸。水上さんは「建具に使ったシナ合板は、拭漆だけ、絞漆だけで仕上げると見た目が少し退屈になる。質感の違う二つの手法を組み合わせ表情を出した」。
見学会では森田さん(左)と根路銘さんが「漆の質感と特徴」と題しセッション。参加者からは熱心に質問が寄せられた
◆4月22日(土)午後1時~6時、紙面で紹介したH邸の見学が可能。申し込みはアトリエ・ネロまで。電話=090・5023・9340、info@a-nero.com
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1946号・2023年4月21日紙面から掲載