2022年10月21日更新
メコン川流域の浸水林|ウチナー建築家が見たアジアの暮らし⑦
文・写真/本竹功治
乾期のメコン川。僕たちは小型エンジンを付けただけのイカダに乗り込み、ラオスとカンボジアの国境付近に来ていた。あれれ、何か変だぞ…土のなかぁ?? それもそのはず、このあたりは雨期になるとこれより10メートル近く水位の上がる浸水林が広がる地域だ。
アジアを映す現代アート
乾期のメコン川。僕たちは小型エンジンを付けただけのイカダに乗り込み、ラオスとカンボジアの国境付近に来ていた。あれれ、何か変だぞ…土のなかぁ?? それもそのはず、このあたりは雨期になるとこれより10メートル近く水位の上がる浸水林が広がる地域だ。
立ち並ぶ巨木は数メートルの高さから根っこが生えている。僕らが上陸した島は乾期にこそ現れてくるが、雨期の増水時には跡形もなく消えさってしまう。そのため地図がなく、地元のガイドが頼りだ。まさに水中探検! それほどメコン川流域の環境は、雨季と乾季で大きく変化する。ほんの数週間前までは水上生活だったのに、地面が現れて半年間の陸上生活となり、移動手段も船からバイクへと変わる。
住居の高床は、沖縄の瓦家のように快適な生活をするためというよりは、一歩間違えば雨期のメコンに流されないためのサバイバルな生活での結果ということだろう。
雨期の水上家屋。メコン川が満水になると階段のすぐ下まで水位が上がる。乾期になると陸が現れる
立ち並ぶ巨木は数メートルの高さから根っこが生えている。僕らが上陸した島は乾期にこそ現れてくるが、雨期の増水時には跡形もなく消えさってしまう。そのため地図がなく、地元のガイドが頼りだ。まさに水中探検! それほどメコン川流域の環境は、雨季と乾季で大きく変化する。ほんの数週間前までは水上生活だったのに、地面が現れて半年間の陸上生活となり、移動手段も船からバイクへと変わる。
住居の高床は、沖縄の瓦家のように快適な生活をするためというよりは、一歩間違えば雨期のメコンに流されないためのサバイバルな生活での結果ということだろう。
雨期の水上家屋。メコン川が満水になると階段のすぐ下まで水位が上がる。乾期になると陸が現れる
トタンで隠された「未来」
この場所へは、友人であるカンボジア人アーティスト“リム・ソクチャンリナ”の制作の手伝いで来ていた。
彼の連作「Wrapped Future」(覆われた未来)という作品は急速な発展を遂げるアジア地域でよく見かける、トタンで隠され進行が見えない建設現場に焦点をあてたものだ。彼はこのトタン素材を自然や文化が残る場所に持ち込み撮影することで、鑑賞者に疑問を投げかける。「トタンで覆われた土地は過去を思い出せないほど急速に変化していく、そこにある未来をあなたは想像できていますか?」と。
水質汚染、ダム建設、貧困問題…。私たちが見て見ぬふりをしているメコン川流域の現状を映すかのように、制作に没頭するリムのまなざしには迫りくる環境危機に対する強い意志と豊かな自然に対する敬意がはっきりと意識されていた。朝から晩まで水に浸かり、蚊に刺されながらトタンが倒れないよう裏で支える僕には晩飯のことしか見えてなかったが(笑)。
細かな指示を出しながら撮影するリム・ソクチャンリナ。トタンが流されないよう筆者らが裏で必死に支えている
劇的に変化する環境で表現
この時の連作は、東京、台湾、ヨーロッパと世界中で展示され、リムの別作は12月まで福岡で展示中だ。アジアのアーティストを取り巻く環境はメコン川のごとく劇的に変化している。
前号のミャンマーのように国の情勢が一変することもあれば、政治的な表現をしたタイ人アーティストが隣国へ亡命したり、カンボジアのように内戦の傷跡がまだまだ癒えない国もある。そのような環境で自国や家族のこと、また自らの内面を手探りし、一つ一つ紡ぎ合わせ美しい作品へと表現していく彼/彼女から、いま目が離せない。
執筆者
もとたけ・こうじ/父は与那国、母は座間味。沖縄出身の、アジア各地を旅する建築家。2014年よりカンボジアを拠点に活動している。
毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1920号・2022年10月21日紙面から掲載